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#27 再び空中強襲揚陸艦アトロポスへ その2

 #27 再び空中強襲揚陸艦アトロポスへ その2 


 亜耶Side


 私達の搭乗する魔導機兵「セレーネ」は「メスデック」と埠頭のちょうど中間くらいの距離にある個人営業の傭兵向けにレンタル営業している小規模な駐屯地を離陸するとアトロポスへと向かった。30分程のフライトをすると夜闇の中にアトロポスの艦影が見えてきた。


 航空母艦のような全通甲板に右舷に寄った艦橋、その前後に主砲と舷側エレベーター、艦尾には強襲揚陸艦らしく空中揚陸艇が発進するためのウェルドック、その左右に魔力を圧縮して噴射、推進するための魔導エンジンの巨大なノズルが左右二基ずつの合計四基が装備されているのがわかる。


 全長は200mくらい。その飛行甲板にはオプション装備の飛行ユニットであるランドウイングを装着した魔導機兵が数機と哨戒や偵察・索敵等に使用される小型のVTOLが駐機されているのが見える。


 艦橋の前後に装備されている主砲配置が太平洋戦争での米海軍エセックス級空母にも似ていた。

 アトロポスを含めた同型艦3隻はヴェネラブル級という軽巡洋艦を大改造している。

 だからかも知れないがその成り立ちはクリーブランド級軽巡洋艦の船体をベースにした米軍のインディペンデンス級軽空母に近い雰囲気がある。


 そして船体の右舷と左舷の両舷側面には対地支援砲撃等の下方への砲撃もできる舷側砲塔と呼ばれる主砲が左右に一基ずつ装備されている。


 全体的なシルエットというか構造はアニメの艦艇で例えるとアンドロメダ星雲を往復した某有名宇宙戦艦よりもスペースコロニーを舞台にした超有名リアルロボットアニメの地球側の宇宙戦艦や巡洋艦に近いと言った方がいいだろう。


 話を戻すが右舷に寄った艦橋や正規空母に比べて短く狭い飛行甲板や艦載機格納庫の設置といった大改造による軽巡洋艦ベースであるが故の重心の高さを解決するために元のヴェネラブル級軽巡洋艦よりも幅は広がっているのだそうだ。


 「トパーズ1よりアトロポス管制、これより着艦する、着艦スポットの指示を請う」

 『アトロポス管制よりトパーズ1へ3番スポットを使え、その後はオフィサーの指示で移動してくれ』

 「トパーズ1了解、これより着艦します」

 『アトロポス管制了解、おかえりトパーズ1』

 「ありがとうアトロポス管制」


 パルマポート軍港、傭兵部隊用埠頭から出航したアトロポスはパルマポート沖高度1000mを航行していた。200mあるその飛行甲板には誘導用の照明が輝いている。

 風上に向けて夜闇を航行中のアトロポスの艦尾からは空中船舶用の大型魔導エンジンから流れる魔法粒子の航跡が見える。


 

 

 空中強襲揚陸艦アトロポスの飛行甲板はその艦載機の魔導機兵やVTOLがそれぞれ夜間発着訓練のための準備や簡単な整備をするために何機もの機体が並び活気に溢れていた。


 パイロットスーツ姿の昶(ちなみに私はいつものヘソ出し衣装だ)はセレーネを駐機姿勢にしてコクピットハッチを開けると私と一緒に飛行甲板に降り立つと顔見知りのオフィサーや整備員達に挨拶しながらこの艦の艦長である坂崎大佐に着任の挨拶と報告をするべく艦長室へと足を向けた。


 艦長室はノック3回で「開いてるぞ」との返事があった。

 部屋に入ると久々に見る顔が出迎えてくれた。


 「若桜昶少佐、涼月亜耶少佐両名、只今到着しました」

 「よく来たな二人共、マスターから君達の置かれている大体の状況は聞いたぞ、大変だったらしいな」

 「かなりしつこい連中ですからこの艦にもおられる転生者出身乗組員の皆さんにも充分な注意喚起が必要かと思います」

 「そうだな、それについては情報共有のためにも後で君達の体験したことを伝えたいから簡単な書面でいいから報告書にまとめてシャフリル副長に渡しておいてくれ」

 「では明日の朝一で上げておきます」

 「うん、それで頼むよ少佐・・・・君達の部屋はこの前使って貰った部屋を開けてあるから使ってくれ、今日はもう遅いし疲れているだろうから夕食を取ったらゆっくり休んでくれ」

 「わかりました、ありがとうございます艦長」


 士官用の食堂で夕食(ちなみにアトロポス炊事班特性の粗挽きハンバーグのセットだった)を済ませるとあてがわれた部屋へセレーネに積んでいた荷物を運び込んだ。

 一通り作業が終わると私は部屋備え付けのポットで紅茶を淹れて昶に渡した。


 「亜耶、ありがと・・・あー、やっとこれで落ち着くわあ」

 「そう簡単に襲撃できる場所ではないですからね」


 傭兵部隊「アトロポス」と私と昶の契約期間は取り敢えず一ヶ月。その間は多少は安心して寝られると思うと気が楽だ。


 「ところで昶、ちょっと真面目なお話があるのですが」

 「?」

 「ちょっとそこに座って下さい」

 「それはいいけど改まってどうしたの」


 私はテーブルの上に消しゴムを立てるとベッドを指差した。


「う、うん」


 昶は素直にベッドに腰掛けた。


 「最近気になっていたのですが・・・・」

 「何?」

 「昶に以前よりも魔力を感じるんです」

 「え?あたしの魔力増えてるって事?」

 「はい、威力は弱いですが一発くらいならライティングかビットが使えると思いますよ」 


 私は昶の背中に回ると後ろから昶の両手首を持った。


 「え?え?ちょっと亜耶?」

 「そのままじっとして意識を集中して下さい」

 「はっ、はい」

 「今から昶の手で「ビット」の魔法を発動させて見せますね」

 「え?あたしの手から?」

 「はい、私の魔力を昶の身体に流して発動させてみます」

 「どうすればいい?」

 「わかりやすいように呪文詠唱して見せますからよく見ていてください昶」

 「うん」


 私はきゅっと強く手を握ると昶が聴き取りやすいようにゆっくりと呪文詠唱を始めた。


 「力の源たる光よ、我が名は亜耶、我の意識の力を持って古の盟約に従い破壊の光と成せ」


 私が手の平を前に向けさせると昶の手が急速に熱を帯びて温かくなるのを感じた。前に向けた手の平から青く輝く小さな魔法陣が生成された。

 魔法陣から小さな魔弾がゆっくりと出てくる。


 「あの消しゴムにビットが当たるイメージを頭のなかに浮かべてください」

 「わかった」

 「ビットは当たれって口に出した方が命中しやすいですよ」

 「・・・・当たれ!」


 すると小さくささやかなビットが昶の手の魔法陣から発射されてテーブルの上の消しゴムに当ってテーブルからぽとりと落ちた。


 「できた・・・・!」

 「大体の感覚はわかりました?」

 「まあなんとか、でも亜耶は呪文無しで出来るんだっけ・・・やはり凄いんだな」

 「でもそれを私にできるようにしたのは昶が私にそういう設定を付けてくれたからですよ・・・今度は自分で今のを思い出してやってみてください」

 「自信ないなあ・・・・」

 「呪文は私が言うのを復唱すればいいですから」

 「わかった、やってみる」


 消しゴムを拾って再びテーブルの上に立てると私は昶の隣に腰掛けるとゆっくり呪文を紡ぎ出す。


 「じゃあ復唱して前に手の平を向けてください」

 「うん」

 「力の源たる光よ、我が名は昶」

 「力の源たる光よ、我が名は昶」

 「我の意識の力を持って」

 「我の意識の力を持って」

 「古の盟約に従い破壊の光と成せ!」

 「古の盟約に従い破壊の光と成せ!」


 するとさっきよりもかなり小さな魔法陣が昶の両手の前に生成されてその中から小指の先程のささやかなビットがへろへろと発射されると消しゴムから少し右に外れてテーブルに当たりビットは消滅した。


 「しょぼっっっ!」


 思わず昶の口から真実を付いた言葉が出た。


 「上出来ですよ、私なんか最初はいびつな魔法陣が出来ただけで発射すら出来なくて完全な不発だったんですから」


 私はくすっと笑うとなぐさめるように言った。


 「後はトレーニングの積み重ねかな・・・慣れれば色々出来るようになりますよ」


 私はテーブルの上の消しゴムを取りそれを上に放り投げると同時に魔法陣を展開する。

 そこから小さなビットを発射し、消しゴムが床に落ちる前に下からビットを何度もサッカーボールをリフトするように当てると最後に側面から当てて自分の方に消しゴムを弾き飛ばすとそれをキャッチした。


 「昶の狙撃兵としての集中力ならトレーニングすれば呪文詠唱無しでライティングやビットの一発程度なら使えるようになる筈ですよ」

 「本当に?」

 「はい、保証します」

 「そうかあ・・・亜耶も時々トレーニングしてるもんね」

 「まあ私の場合は下手やると死にますから」

 「あ、そうか」

 「あと昶が使えそうなのは簡単な治癒魔法ですね、いずれそっちも」

 「そっちは色々と実用性高そうだね」

 「ちょっと難易度上がるけど少し位の切り傷や擦り傷なら一瞬で治りますし」

 「便利よねえ、あれ」

 「今の所はさっき教えたビットの練習を毎日少しずつ、集中して続けてみてください・・・紅茶淹れなおしますね」


私は紅茶を淹れなおそうと部屋の簡易キッチンに立った。

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