#26 再び空中強襲揚陸艦アトロポスへ
#26 再び空中強襲揚陸艦アトロポスへ
昶Side
翌日。
夜明け前に出発したあたし達は亜耶の運転するピックアップトラックでまずはパルマポートにある「メスデック」という喫茶店へと向かっていた。
その喫茶店はアトロポスをはじめとした傭兵のたまり場で、尚且つそこのマスターが情報屋をしていてこの前もクーデター騒ぎの時に世話になった。
そんなわけで出発前の挨拶も兼ねてアトロポスが停泊している埠頭へ行く途中で「ディメンション・カウンター」の情報が少しでもあれば仕入れておこうと立ち寄る事になったのである。
「ところでさあ亜耶」
「はい」
「「はああああああああ・・・・・・」」
思わず二人同時にため息をつく。
「なんであいつら対地攻撃機なんか持ってるのよ???」
「もうなりふり構わなくなってきましたね」
あたし達は連中(と思われる)対地攻撃機に襲われていた。
一旦ピックアップトラックを超低空で追い越した対地攻撃機は前方で180度旋回すると再び向かって来た。
そのシルエットは後席の斜銃と尾部機銃、そして翼に埋め込まれた魔導エンジン。
イメージとしては第二次大戦中の急降下爆撃機と1940年代後半~50年代にかけての初期のジェット機を足して2で割ったようなデザインだ。
「うわっ!!」
「もう!!しつこい!!」
亜耶が急ハンドルで機銃掃射を回避してタイヤが悲鳴を上げる。
車のすぐ右の地面に機関砲が着弾して土煙が上がった。
再び車の真上を通り過ぎる時にその腹にロケット弾ポッドを抱えているのが見えた。
「亜耶、ちょっと荷台に出る!」
「どうするつもりです?」
「これを使うのよ・・・・できれば対空ミサイルが欲しいとこだけどこの世界には無いからね」
「なるほど、了解しました・・・でも当てるのは大変ですよ」
あたしが後席に放り込んでおいたとある武器を見ると亜耶は頷いた。
「安心なさい、あたしの射撃は絶対だから」
「あてにしていますよ」
あたしはいくつかの武器を背負うと窓から出てピックアップトラックの荷台にとび移った。
対地攻撃機は再び上昇して旋回すると機銃掃射をするべくまた急降下してくる。
「その急降下を待ってたのよ!・・・いらっしゃーい♪」
あたしはランチャーを構えた。小型ランチャーの直撃程度で頑丈な対地攻撃機が墜ちるとは思えないが今あたしが考えている方法は直撃させる事じゃない。
対地攻撃機の鼻っ面で炸裂するように狙いを付けるとトリガーを引いた。
「喰らえ目潰し!!」
あたしが顔をそむけるのとほぼ同時に対地攻撃機のパイロットの目前で強烈な光が炸裂した。
ランチャーから発射されたのは通常の弾頭ではなく照明弾。
その光はパイロットの網膜を焼き視界を奪ったはずだ。
「あれ?思ったより効き目あった?・・・・ってちょっとおおおおお!」
視界を失った対地攻撃機は行き場がわからないようにフラフラと進路を乱してこっちに向かってきた。とは言ってもあたし達に向かいつつヨロヨロとだから本当に見えなくなっているらしい。
「こっち来んな馬鹿パイロット!!亜耶!!!避けて!!」
「はい!!」
亜耶が急なステアリングを切って路肩に回避する。
「うわっ!」
「つかまって下さい昶!」
同時に急ブレーキで前フロントタイヤが路面に食い込んで悲鳴を上げる。
ステアリングの回避じゃ間に合わないと判断した亜耶が急減速をかけたのだ。
目の前に墜落していく対地攻撃機を避けるために亜耶がそのままステアリングを切る。
「だあああああっ!スピンする!」
「喋ると舌噛みますよ昶!」
急激なステアリング操作でピックアップトラックのリヤタイヤが一気に流れた。あたしは荷台から振り落とされないよ慌ててダブルキャブ部分の後ろのバーに掴まる。
あたしの頭をかすめるようかと思うような超低空を対地攻撃機が通過した。あれでは照明弾の炸裂で奪われた視界が戻っても機首を引き起こすのは間に合わないだろう。
対地攻撃機は姿勢を回復できずにそのまま目前の路面に頭から突っ込んで爆発した。凄まじい火柱と爆炎が上がる。
その時、グリップを失っていたリヤタイヤのグリップが一瞬回復した、と思ったら今度はGのおつりを喰らって逆方向にすぱーんと流れた。
そのまま残骸を回り込むようにピックアップトラックはスピンする。
残骸が何度も爆発を繰り返す。対地攻撃機に装備されていたロケット弾ポッドが誘爆しているのだ。
「このっ!」
亜耶がクラッチを蹴飛ばしてシフトダウンしアクセルを踏み込む。
パワーがかかりタイヤスモークを上げて流れるリヤタイヤ。
亜耶はカウンターステアを当ててドリフト状態で残骸を回り込むようにピックアップトラックは回避するとそのまま速度を上げる。
「はぁ・・・・死ぬかと思った」
あたしがいた2010年代の最新のマルチロール機や攻撃機ならば地形追随レーダーとの連動で墜落は免れたかもしれない。
しかし全面的に有視界飛行に頼るこの世界の機体で、しかも低空で、急降下の途中に目前で照明弾の凄まじい光球が炸裂してパイロットの視界が奪われたら墜落する運命が待ち受けている。
「昶、大丈夫ですか」
「擦り傷ひとつないわよ、あんなもの持ち出すようじゃしばらく荷台で警戒した方が良さそうだからこのまま「メスデック」に向かって」
「わかりました・・・これで撃墜スコア1機追加ですね、昶」
あたしは亜耶の声に右手の親指を立てた。
「お前ら・・・・・何があったんだ?アクション映画の撮影のバイトでもしてたのか?」
「・・・・・・・まあ色々と、ね」
喫茶店「メスデック」のマスターが目を丸くしてあたし達を出迎えた。
到着した時のあたしと亜耶はボロボロだった。
ついでに言えば乗ってきたピックアップトラックはフロントガラスは無くなり、荷台のリヤゲート部分の扉は脱落し、屋根は完全に吹き飛ばされてオープンカーみたいになっていた。
「家からここに来るだけで何をどうすりゃそうなるんだ?」
「えーと、まずロケット弾ポッド装備の対地攻撃機に襲撃されてその後・・・」
「その後、武装トラック2台、装甲車3台、魔法兵一個小隊と喧嘩して全員半殺しにしてきました」
「・・・・・・・・「退屈」って言葉と無縁の人生送ってるなお前さん達は」
「退屈しない人生よりもあたしの望みは引きこもって日がな一日アニメ見たりゲームしたり同人誌描いたりする人生なんだけど」
「私はそのアシスタントでもできれば」
「んーありがと、やはり亜耶可愛い♪いいこいいこ、んー♡」
「ちょ、ちょっと昶・・・・!」
思わず亜耶をひしっと抱き締める。
「その人生は人としてどうかと思うが・・・とにかく二人共シャワー室を貸してやるから浴びてこい」
「ありがと、マスター」
「お借りします」
あたしと亜耶はマスターにペコリと頭をさげるとシャワーを借りることにした。
「なるほどな、そんな事があったのか・・・「ディメンション・カウンター」の名前は俺も把握してるよ、気持ち悪いスローガンもな」
「はい、彼らについて何か手がかりはありませんかマスター」
「確かにこのひと月その連中が起こしたと思われる事件が急増してるな」
シャワーを浴びて着替えてきたあたし達に喫茶店「メスデック」のマスターが腕組みしながら話し始めた。
「メスデック」というのは船舶の構造に関する専門用語でダイニングルームを表す言葉である。その名前の通りこのパルマポートの街にある軍港に出入りする軍艦の乗組員の客が多い。
「やはり襲われているのは転生者ですか?」
「聞いた限りじゃそうなんだが通常の転生者とカテゴリーⅡでまた扱いが違うらしいんだよ」
「どういう事です?」
「どうやら転生者は降伏しない限り命を奪われ、カテゴリーⅡは捕虜にするのが目的らしいんだよ、そしてその捕虜がどうなったのか現状では全く情報が無い・・・お前さん達の時はどうだったんだ?」
「あたしの時は排除目的だったみたい」
「私の時は捕えるのが目的だったようです・・・・さっきの戦闘でも私を殺すのが目的ならば問答無用で対地攻撃機のロケット弾ポッドの斉射をしている筈だと思います、単純に排除が目的ならば機銃掃射よりそれで吹き飛ばした方がてっとり早いですし」
「しかもカテゴリーⅡを捕虜にした所でどうするのかも帝国軍も警備隊も掴みかねているらしくてな、何しろ身代金要求すら無くて接触しようにもナシのつぶてらしい」
しばらくマスターと話し込んだがあまり有用な情報は得られなかった。
「うーん・・・・まだ判断材料が乏しいかしらね」
「同感だな、それで今後どうするんだ?やはりアトロポスに身を寄せるのか?」
「はい、そのつもりです・・・坂崎艦長に連絡も取れましたのでこれからセレーネで行く予定です」
「そうか・・・ロクな情報も無くて悪いな、新しい情報が入ったら伝えてやるからそっちも何かわかったら教えてくれ、今回の情報料はそれでいい」
「わかったわ、ありがとマスター・・・あ、それと」
「何だ?」
「あたし達のクルマ預かってて」
「あのスクラップをかあ?」
「昶はあれでも修理するつもりなんですよ、マスター」
「保管料は貰うぞ」
「はいはい、じゃあ行ってきます」
「ああ、気を付けてな」
あたし達は「メスデック」を後にした。
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