#25 望まぬ再会
#25 望まぬ再会
亜耶Side
「私はそこで夕飯の材料を買ってきますから昶は先に部屋に戻っていてください」
「じゃああたしはお茶とか淹れる用意しておくね」
昶がアパルトメントへ入っていくのを確認すると私は駐車している他の車の陰に潜んでいる気配に声をかけた。
「昨日に続いてまた私に用ですか?」
「な~るほどねえ・・・・・・産みの親を巻き込みたくはないかぁ、亜耶?」
「・・・・・。」
「久し振り、いえ「本の中以来」かなあ、亜耶」
「・・・・・・・・すみません、どちら様でしょうか」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・へ?」
車の陰から出て来たのは派手な衣装に身を包んでいる、そして聞き覚えのある声、そしてこの世界では出逢った事の無い少女。
彼女はマヌケな表情で凍り付き思わず口を金魚のようにパクパクさせる。
・・・・・面白い。
「・・・・・ちょっと!!!なんで忘れてるのよ!!!私はあんたと本の中で散々やりあって・・・!!」
「・・・・・・・・・・・?」
私はわざと胡散臭げな表情で彼女を見る。
「・・・・・・知り合いを装った新手の詐欺ですか?」
「だあああああああ!!!違うってば!!!!あんたはあああああ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・ううっ・・・・・・」
彼女が泣きそうな表情になる。
そろそろいいか。
「・・・・・冗談です、リトラ」
「なっ・・・いくら本の中で敵対してたからって失礼でしょ!!!」
「・・・反応が面白かったので。相変わらずのそのわかりやすさ、テロリストに向いてないと思いますよ?」
「大きなお世話、今のあたしには今の立場ってもんがあるのよ」
でもどうやって彼女が昶の描いた本の世界からこの世界に来たのだろうか。
「リトラ、何故貴女がこちらの世界に限界しているのです?」
「ふん、あたしを呼んだ奴については話せないわね、ま、それがあんたみたいにどこぞの女神じゃないのは教えてあげる」
「それで私に何の用です」
「単刀直入に言うわ・・・・・あたし達の産みの親、若桜昶と一緒にあたしのところに来なさい、悪いようにはしないわよ」
「ディメンション・カウンターとか言う差別主義者の集団ならばお断りですよ」
「ふうん、情報がはやいわね・・・流石最強の魔法兵、元魔法作戦群のエースってとこかしら・・・ならば強硬手段に出させてもらうわよ・・・我が針よ!」
リトラがこちらに手をかざすと彼女の周囲に魔法陣が生成された。その魔法陣の中からバーベキューの串程もある大きな針、私に向けてニードルの束が射出された。
慌てて私はピックアップトラックの陰に身を隠す。
放たれたニードルはピックアップトラックの屋根をかすめてその後ろの壁をグズグズに崩した。
リトラのニードルのタチが悪いのは魔法がエンチャントされたニードルを発射するが故に物理特性と魔法特性の両方を持つ。
その為にこれを防ぐ効果的な方法が少ない事である。
あのニードルを喰らったら一撃で命を落とすだろう。
「ああもう!」
牽制にビットを生成させるとそれがあらゆる方向から命中するように飛ばす。
リトラが慌ててフォースフィールドを展開しつつ回避している間に私は駐車場から出てアパルトメントの裏手の河川敷へと駆けた。
「ちょっと逃げる気?!待ちなさい亜耶!」
「待てと言われて待つわけ無いでしょう!」
「こっちはあんたの手足が無くても、最悪でも脳髄だけは連れて来いって言われてんだから五体満足でいたけりゃ素直に言う事聞きなさいよ!」
「何をしれっとコワい事言ってるんですリトラ!」
・・・・・・冗談じゃない。
脳髄だけで生きるなんてまっぴらだ。私をどうしたいんだあの連中は。
逃げているうちに堤防へ出た。そのまま河川敷へと駆け下りる。
これで多分上手くいく筈だ。
「いい加減に諦めなさいよ往生際の悪い!!」
「こんな所で往生するつもりはありません!」
「減らず口を!」
「しつこいですよリトラ!」
ビットを連続してリトラの手前の地面に着弾させて足止めさせる。そこにいて貰わなきゃ困る。
「さあ追い詰めたわよ亜耶、もう諦めて!」
「追い詰められたのは貴女ですリトラ」
「はぁ?何言ってるのよ、あんたの後ろは川。逃げ場なんて無いのよ」
「逃げる必要が無いからですよ」
「・・・・・?何わけのわからない事を!」
リトラの周囲にニードルを発射するための魔法陣が次々に生成される。
「さあ覚悟なさい亜耶・・・・・うわっ!!!」
魔法陣の一つがチュンッ!という着弾音と同時にガラスのように割れ、粉砕された。
「なっ?!・・・狙撃?!!」
展開した魔法陣が次々に破壊されてその欠片が雪のようにリトラに降り注ぐ。
「当たれ!!」
私はビットをリトラに向けて次々に飛ばす。
「この!!」
リトラはフォースフィールドを展開するが今度はその足元に銃弾が連続して着弾する。
「うわっ!!」
「もう迷惑だから帰ってください、そしてその気はないと貴女の上司にでも伝えておいて下さい」
「なるほどね、あたし達の生みの親は射撃の名手って聞いたけど本当みたい」
「どうするんです?冗談抜きで風穴が開きますよリトラ、昶が本気で狙ったら一発で終わりますよ」
ビシュッと音がしてリトラのこめかみを銃弾がかすめた。
「・・・・・・っ!!」
「リトラ、どうするのです?」
「ふうん、これ以上は交渉の余地なしって警告ね、いいわ今日は引いてあげる。いい事、あたしは諦めないからね!」
リトラは踵を返すと夜の家々の屋根を飛び越え夜闇に消えて行った。
ふと自分たちが住んでいるアパルトメントの屋上に目を向けた。昶のお陰で助かった。
「あ・・・・夕飯の材料買うの忘れてた」
私はアパルトメントの屋上に向けて手を振ると財布を見せて買い物に行ってくると合図して近所のお店へと踵を返した。
やれやれ。
昶Side
「「いただきます」」
あたしは自分で作った野菜たっぷりのコンソメスープパスタを口に運びながら今後の行動方針について話し合っていた。
うん、いいなこれ。
この前冒険者ギルドの田村コック長に教わったお手軽調理なんだけど美味しい。
作り方はパプリカや玉ねぎ、キノコやにんじん、ブロッコリーといった野菜をと同時にベーコンを炒めて更に水を入れてコンソメの元を溶かし、そこに茹で上がったパスタを入れてブラックペッパーと塩で味を整えたら溶けるチーズを乗せるだけと簡単だ。
亜耶を見ると幸せそうな顔をしてパスタをちゅるちゅると口に運んでいる。
うん、やはり亜耶は可愛い。
「で、これからどうするかですが」
「うーん・・・それもあるしどうやってリトラがこの世界に来たのかも気になるわね
「リトラが言っていましたが彼女をこの世界に限界させたの昶を転生させた女神シリカではないと言っていましたがそれが本当なのか確認もできませんし・・・」
「こんな所でまで待ち伏せ喰らうとは困ったもんだわ、このままじゃ他の部屋に住んでる人達にも迷惑かけちゃう」
「そうですね・・・・住んでいる方達がみんな冒険者なのが救いですがそれを差し引いても迷惑ですし」
「いくらここが冒険者ギルド直営って言ってもやはりなあ・・・・どうしよ」
「なんかすみません、私が狙われたばかりに」
「ま、狙われているのはあたしも同じだしお互い様よ亜耶」
それにしてもどうするかなあ・・・・・。
「ん?」
ちょうどその時、甲高い魔導タービンエンジンの音を響かせて帝国軍の機体らしい魔導機兵がうちの上空を通過していった。この音だと機種はおそらく主力機のフェンリルだ。
「魔導機兵・・・そうか、この手があった」
「・・・・アトロポスですか」
「最低限の荷物をまとめてセレーネでしばらくここを出るわよ亜耶」
「確かにその方が良さそうですね。航行中の軍艦なら襲うのは難しいですし」
「そうと決まったら即実行、荷物をまとめるわよ」
「わかりました・・・管理人さんにしばらく留守にすると伝えてきます」
「うん、お願い」
あたし達は夕飯を食べ終えると身支度をして愛用の武器や荷物をまとめ始めた。
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