#21 発端
久しぶりの更新です。
今回から第二エピソードです。
#21 発端
亜耶Side
私はベージュのブレザーにエンジのネクタイ、赤いスカートという高校の制服に髪型はツインテールに猫耳カチューシャを付けた姿で大通りを歩いていた。道行く人々、とりわけ男性が時折ちらちらと私に視線を巡らせるのがわかる。
「はぁ・・・・・・・・」
思わずため息が漏れる。今の私は長めのピンクのリボンに銀髪ツインテールに金色の瞳とちょっと目立つ容姿をしているからこういうのは苦手だ。
・・・・・ところで本来は魔法兵兼冒険者の私が何故に高校の制服を着て猫耳カチューシャの姿で歩いているのか?
私と昶は今、アルバイトで忙しい身の上になっていた。とにかく収入が必要なのだ。
話は三ヶ月ほど前に遡る。クーデター騒ぎを昶や傭兵部隊「アトロポス」のみんなと終息させた時にその報奨として魔導機兵をアルフォス女王陛下から拝領したのだがその維持に結構な費用がかかるのだ。
そして冒険者ギルドに毎日仕事を見に行っても魔導機兵が必要な依頼というのは思ったほど多くはない。
かくして私と昶は冒険者としての仕事以外にも手分けしてアルバイトをする事になってしまった。
ちなみに昶は銃の知識を活かして冒険者ギルドで銃の扱いのインストラクターのアルバイトをやっている。
そして私は・・・・・・・・・・・・私はどういうわけかモデルのアルバイトをやる羽目になった。正直気が進まない、私は愛想よく微笑んだりするのは苦手だ。
この前冒険者ギルドに昶の様子をたまたま見に行った時である。
何故かギルドの仕事依頼掲示板にあったモデル募集の契約シートを眼をキラキラさせながら昶が提出、私は嫌がったのだが何故かノリノリだった昶に半ば強引に面接を受けさせられた結果、その場で即時採用が決まった。
その時に更に昶が「私が保護者だから安いギャラは許さん」とかなり強引なギャラ交渉をした結果、破格のアルバイト料でこの仕事をするハメになったのである。
さっきはカメラに向けて笑ったり、高校の制服に猫耳カチューシャを付けてポージングしている姿の自分をスタジオの鏡で見た時は撮影中にあまりにも自分らしくないと思わず悶絶しそうになった。
もしかして笑顔が引きつってはいなかっただろうか。
確かに私は自分の容姿に自信を持っている。
だがしかし。
容姿に自信があるのとモデルとして愛想よく撮影に応じられるのかはまた別の問題である。
・・・・・・ああ。
とにかくそんな理由で今はとある制服・アクセサリー・コスプレ衣装の店からパンフレットの表紙に使いたいとの依頼があり、その制服衣装での撮影をしていたのである。
私は撮影が終わり撮影機材やそのアクセサリーの撤収に少し時間がかかるというのでその間に食事を済ませようとスタジオを出て歩いていた。
「・・・・・ん?」
ふと違和感、いや、明らかに敵意にも似た気配を感じた。
(尾行されてる・・・・・?)
私は振り向いたりせずにそのまま気が付かないふりをして歩き続けながらその気配を感じ取る事に集中する。尾行は時々入れ替わっているようだった。
どうやら私の通りそうな経路にあらかじめ尾行要員を置いてリレーしているようだった。
(プロか・・・・どこの連中だろう、私を知っているのは・・・・・・)
私は考えを巡らせた。わざわざあらかじめ人員配置をしているということは現在昶と住んでいるアパルトメントも判明していると見て間違いないだろう。
(まだ公的機関とは魔法省と・・・・・あとは帝国軍にしか繋がりは無いけどそのどちらかか・・・でもこれだけ人を入れ替えて確実な尾行が出来るのは・・・・公安警備隊とかかな、でも・・・)
私はそれ以外どこに私の情報が共有されているであろうと思いどこの連中が尾行しているのか考えるのをやめて尾行の気配を感じ取るのに集中する事にした。
どちらにしてもまだ結論を出すには早いなと思いながら私は走り出した。
大通りの交差点でわざと事故寸前のタイミングで駆けて渡る。
けたたましいホーンの音が鳴り車や馬車が急ブレーキをかけるや音が怒鳴り声がちょっと聞こえたがそのまま駆ける。
「ごめんなさい!」
数人が追って来るのを感じ取れる。
木々が緑のトンネルを形作っている遊歩道のある公園へとつながる横道と入る。
そのまま遊歩道を全力で駆け抜けて公園の中ほどにある林へと私は移動した。
「他に人はいないしここでいいか」
ここなら一般市民もいないし多人数を相手にしても騒ぎにはならないだろう。
「私に何か用ですか?10人程おられるようですが」
少し大きな声で私は言うと振り向いた。すると木の陰から屈強な体格の男を先頭に10人程の男達が現れた。
男達は服装こそバラバラだがその全員が目深に帽子やフードを被っているためにその表情はうかがい知る事はできなかった。
そして明らかにその動きは統率が取れている。軍隊や警察の類だろうか。
「女子高生を尾行してつけ回すなんて趣味悪いですよ?」
明らかな敵意・・・・いや、殺意を感じる。
「涼月亜耶さんですね、少しばかり我々に付き合って貰えませんか」
その中から一人の男が進み出ると少し高圧的な態度で言い放った。明らかに私を甘く見ているのがありありと見てとれた。
「ごめんなさい、知らない人について行っちゃいけないって言われていますので」
私は男の態度とその物言いにムッとしつつも一定の間合いを取りながら押さえていた殺気を開放した。
女子高生らしくないその殺気に一瞬男達がたじろぐ。
「では実力行使をさせて頂こう」
「あら、どんな理由で?」
「・・・・簡単だ、貴女の力を欲している者がいるのでね」
「・・・・・じゃあ遠慮なくどうぞ、その代わり抵抗しますよ?」
私は肩に掛けていたバッグを地面にぽいと落とすと構えた。
まいったなあ。今日は終日アルバイトの予定だったからアサルトロッドは持ってきていない。
「武器も無しで後悔するなよ!」
男が私の胸ぐらを掴もうとするがそれを見切ってひょいと身体を捻ってかわした。男はそのまま何度も私を捕まえようとするが上半身の動きと素早いステップバックで全てをあっさり避ける。
セリフの割に動きが甘いな、次に何をするのかまるわかりだ。
素人の動きじゃないものの実力が私を相手にするにはまだまだだ。
「隙だらけです」
私は再度掴みかかろうとした男の腕と襟首を掴み投げ飛ばした。男は慌てて受け身を取ると下手に格闘するのは危険と判断したのか妙な形の短剣を懐から出した。
その形はカタールと呼ばれる刺突を主とする短剣に似ていた。
即ち、その特徴は柄の形が変わっていて並行した二本の柄があり更にその間に渡すようにグリップ状の横木が付いていて、その刃の長さは30cm位でまっすぐだ。
グリップが刃に対して直角についているからカタールを持った腕を突き出すだけで相手に致命傷を負わせる事が可能だろう。
「・・・・・・呆れましたね、いい歳して女子高生相手に刃物を持ち出すなんて格好悪いですよ、お・じ・さ・ん」
手の平を上に向けて指をちょいちょいと動かしてからかうように私は挑発した。
「舐めやがって!少しでも当てればこっちの物だ!必ず捕らえろ!傷を付けても構わん!!」
「どんな刃だろうが・・・・!」
再び男がカタールを構えて襲い掛かってくる。私はそれを片足を軸にして身体を半回転させて脚を引っ掛けてかわすと手刀でカタールを弾き飛ばした。
男が怯んで一旦下がると今度は体勢を立て直して突っ込んでくる。
「・・・・当たらなければどうと言う事はない!」
その時、男の目には私がユラッと動いて自分の攻撃を回避しつつ一瞬消えたように見えたかも知れない。
男が気付いた時には既に私は至近距離に接近していた。
そのまま肩をぶつけて姿勢を崩し、アッパーを叩き込むとそこから鳩尾にキックを叩き込み、再度消えたかと思わせる速さで位置を変える。
「はあっ!!!」
気合と共に手加減無しのハイキックが頭部へと綺麗に決まって男は派手に蹴り飛ばされた。
「その程度の腕で私を拉致しようとは甘く見られたものですね」
私は息も切らさずに冷ややかな口調で地面に伸びている男に言った。
「・・・・・さて皆さん、死にたいですか?私は優しくはないですよ」
取り囲んでいる男達に警告すると私は自分の周囲に魔法陣を10個ばかり発動させ、そこに魔力を集中させ始めた。
それぞれの魔法陣の中心に魔力の粒子が集中する。
「返事が無いようですね・・・・・・行け!」
全ての魔法陣からビットを発射するとそれは取り囲んでいる男達全員の右手首に命中してそこから先を吹き飛ばした。
「ぎゃああああああっ!!手が、手があああああああ!」
「ああああああああッ!!!」
男達から情けない悲鳴があがり、全てのカタールが落ちた。
「もう一度言います・・・・・どういうつもりか知りませんが死にたくなければさっさと帰りなさい、そして私を拉致しろと言った連中に貴方達程度の腕では私を捕えることはできませんと伝えておきなさい・・・・・・さもないと!」
私はもう一発ビットをとばして今度は木をへし折った。
「・・・・・・・貴方達、何もできずに全滅しますよ?」
その中から一人が立ち上がり残った左手でカタールを拾うと一人が突っ込んできた。
「うおおおおおっ!!ならば道連れに!!」
「っ!」
私はとっさに横っ飛びに避けるとそこに落ちていたカタールを拾って男の眉間に投射した。カタールは命中し男は倒れた。
「言ったでしょう、貴方達の腕では私は捕らえられない・・・・・貴方達は何者です?」
吹き飛ばされた手を抑えて呻いている男の一人に詰問する。
「貴様らよそ者に話す必要は・・・・・ぎゃあああ!!」
私は無言で右腕にアストラルソードを生成させると男の頬を少しばかり斬り裂いた。
「私は優しくはない、と先程申し上げた筈ですが・・・本当に死にますよ?貴方達は何者です?私を狙う理由は何?」
「死ぬ事など我々は恐れてはいない・・・・・『世界は純血種の為に』!!!一斉にやれ!!」
「あきらめの悪い!」
私は右手を上げてかざし手のひらを真上に開く。
すると彼らの上に生成された魔法陣から大きめの火球がひとつ。
「最後の警告です、私の質問に答える気は無いのですね?」
男達の返事は無かった。
「うおおおおっ!!」
立ち上がった男が残った左手でカタールを構えると突っ込んできた。
「なるほどわかりました・・・フレイムランチャー!」
男達の頭上の火球が無数に分裂し、一斉に降り注いだ。
次々に小さな火球が命中し、その全員が倒れた。
「はあ・・・・衣装がボロボロだわ、撮影用の借り物なのに」
それにしても私を狙わせたのは何者だろう、まだこちらの世界に来て日が浅い事もあって恨みを買う覚えがあるのは先日のクーデター騒ぎで相手にしたクーデター軍の連中くらいしか心当たりがない。
この前魔法省に行った時に聞いた話ではクーデターに参加していた将兵達は率先して行動した者には処刑や罷免も含む厳しい措置が取られているし、命令されて仕方なしにクーデターに参加した者には左遷や減給といった懲戒処分が下っていて更に監視のための士官が派遣されていて現状では組織だった行動は事実上不可能な筈だ。
さっきの男は「世界は純血種の為に!」と言っていた。
その言葉から察するに少なくとも私のような転生者やエルフ、ドワーフのような亜人に対する差別主義者なのだろう。
しかも我々と言っていたのだから軍人かどうかはともかく組織だって行動しているとみて間違いない。
問題なのは彼らの言う「純血種」の意味だが彼らの言う「純血種」が元々この世界で生まれ育った人達の事を指しているとしたら転生者カテゴリーⅡの私は排除すべき対象となるという事か・・・・・まずいな、もしそうならやはり転生者である昶の事が心配だ。
私は一旦スタジオに戻って先にアルバイトをあがらせてもらうと足代わりに使っているボロいピックアップトラック(この前アトロポスのドックにあった廃車を足代わり兼セレーネの部品・弾薬運び用にと修理のついでにアトロポスの整備士に頼み込んで整備込みで格安で譲ってもらった)で昶がいる冒険者ギルドへと向かった。
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