#19 決着
#19 決着
亜耶 Side
「はぁっ、はぁっ・・・・・・」
息が上がる。元々私は体力任せの持久戦は得意じゃない。基本的に一瞬で、そして一撃で倒すのが私の近接戦闘での戦い方だ。
アフィッド大佐との決着は未だにつかず双方共に決め手を欠くまま時間が過ぎていた。
さっき刺された左肩と右脚の出血もひどくなってきた。もし治癒魔法をかけたらその隙を突かれてしまうだろう。
まずい、出血による貧血で少しふらつきそうになる。
攻撃魔法を数え切れないほど飛ばし、何度も剣で切り結び、お互いボロボロである。
立っているのも辛くなり壁にもたれかかったままアサルトロッドをソードモードにしたまま構えていた。
「これで終わりにしようじゃないか少佐!」
大佐は言うと同時に剣を構えてかかってくる。
「くっ!」
痛みを堪えつつ右手のみで構えた剣で受け流す。
「その怪我でよくやる!・・・がここまでだ!」
大佐の回し蹴りが剣で刺された左肩に入り、更に連続して負傷している右脚の太腿にキックが命中した。
「うああっ!!!!」
私はその激痛に悲鳴を上げて壁にもたれかかる。
「う・・・・・」
「ここまでだ!」
大佐の剣が脇腹に突き立てられた。
「うぐっ・・・・ごほっ・・・・・」
口から血反吐が出た。手からアサルトロッドがカランと音を立てて転がり私は床に膝をつきそのまま倒れ込んだ。
「お前はゆっくりと苦しませてから殺してやる・・・覚悟はいいか少佐」
私は大佐を睨む。
「・・・・ほう、まだそんな眼が出来るとはたいしたものだ」
大佐の左手に炎の球が浮かんだ。
「燃えつきろ!」
「フォースフィールド・・・!」
大佐のファイヤーボールは私が展開した魔法の障壁で拡散する。
右手を床に突いて立ち上がろうとした。
「いい加減諦めたらどうかね?」
「ぐあ・・・・ごほっ・・・・」
大佐の右拳が刺された脇腹にめり込んだ。
私は再び血反吐を吐いて倒れ込んだ。
「うああ・・・・・」
「やれやれ・・・・しつこいお嬢さんだ」
更に大佐の足が刺された右太腿に体重とともにかけられた。
「きゃあああーっ!!!」
床に私の血が広がって行くのが見えた。
その時艦内に焦った声でドリスコフの放送が入った。
『アフィッド大佐!すぐに艦橋へ来い!!敵陸戦隊が艦橋エレベーター付近を制圧しつつある!』
「もう少しで仕留められるというのに!能無し司令官め!・・・・・まあいい、どうせ貴様は助からんだろう」
アフィッド大佐はそう毒づくとCICから飛び出し通路へと消えた。
「ピアシング・・・逃がすか!」
2.5m程に伸びて先端が魔力で輝く状態、ピアシングモードにしたアサルトロッドをCICの入口脇の壁を狙って投擲した。
魔力の粒子で先端が輝くアサルトロッドの先端が壁に当たるとドォン!!と派手な音をたてて壁に大穴が空いた。
私は傷を抑えて治癒魔法をかけようとしてゆっくりと壁に手をついて歩く。魔導機兵での空中戦と今の戦闘で魔力を大量消費したのに加えて怪我と出血で少しふらつきながらCICから通路に出た。
そこにはピアシングモードで開けた壁の大穴の破片と、そして上半身と下半身に別れたアフィッド大佐の死体が転がっていた。
「装甲車だって貫くピアシングモード・・・こんな壁じゃ逃げられませんよ」
呟くと私はカールス大尉達と合流するために壁に手を付いて歩き始める。
わずかばかり回復した魔力で治癒魔法をかけようとした時に昶の声で艦内放送が入った。
『この艦はこれより不時着する、みんな何かに掴まれ!不時着のショックに備えろ!』
そうか、昶達の班は艦橋の制圧に成功したのか。
「トール」の船体が大きく揺れ始めた。右舷から破壊的な大音響が聞こえてきた。
「着陸なんて生易しいものじゃ済まないかな・・・これは」
船底が何度か軽く接地するように少しバウンドして跳ねるように揺れた後に今度はドーンと突き上げるように大きく船体が揺れた。
通路の手すりを掴んだが手についた自分の血で滑って手すりを掴み損なって私は床に投げ出された。
「きゃあっ!!!」
全身をしたたか床にぶつけて治癒魔法をかけられないままその激痛に私は気を失った。
戦艦「トール」艦橋にて
亜耶が気を失う10分程前。司令官席でふんぞり返っているドリスコフは不機嫌を絵に描いたような表情をしていた。
「ええい、何故アフィッドは来ないのだ!!」
「まだ戦闘中なのでしょう」
「役立たずめが!」
再び傍らの艦内電話が鳴った。
ドリスコフはその受話器を取るとみるみる表情が曇った。
「き、貴様、その声は・・・・・」
『お久しぶりですね、無能軍務大臣閣下』
「お、お前はあの時のメイド・・・!」
『あら、本業はしがない冒険者ですよあたしは』
「何が望みだ・・・・!」
『そうですねえ・・・取り敢えず閣下の首を差し出して乗組員全員を無条件降伏させて頂けるとありがたいんですけど、もう制圧していない場所は艦橋だけなんですよねえ』
「ふ、ふふ、ふざけるなこの儂がメイドなんぞに頭を下げるわけあるかあ!!」
『だからメイドじゃなくて冒険者だってのに・・・まあいいわ、これから偉い人がもっと怖い武器持ってそちらに行きますのでせいぜいご武運を』
昶はそれだけ言うと艦内電話を切った。
「な、何を言っている、おい、返事をせんか!!」
不意に艦橋の外から甲高い魔導機関のジェット音が聞こえた。
思わずドリスコフは立ち上がり艦橋の窓に寄る。
「なんだ?味方の魔導機兵か?」
言い終わるのと同時に艦橋の前にホバリングしながら魔導機兵がゆっくり降下してきた。
しかしそれはドリスコフが期待した味方機ではなく「アトロポス」艦載機の複座型「紫電」だった。更にその周囲には護衛の「紫電」が3機ついていた。
ホバリングしている「紫電」のコクピットハッチが開くとそこには彼のよく知る顔が見えた。
「なっ……!アルフォス!何故、何故お前がここに・・・・!」
『久しぶりですね、ドリスコフ・・・・今すぐに無条件降伏なさい。それならば部下にも寛大な処置を約束しましょう』
「・・・・・わかりました」
しかし答えたのはドリスコフではなく「トール」の艦長だった。
「艦長!貴様!!」
『艦長より全乗組員に告げる、機関停止。降伏信号旗を揚げろ。全員「アトロポス」の陸戦隊に対し即時戦闘を停止、降伏せよ』
「貴様!!!」
ドリスコフは銃を抜くと艦長を撃った。艦長の腹部から大量の血が流れる。
「・・・・お前は帝国軍司令官の器じゃない!!大切な部下の命をお前などに任せられるか!!みんなここから逃げろ!」
艦長は通信長や砲術長といった艦橋の乗組員が慌てて逃げ出していくのを確認すると艦橋の扉の閉鎖スイッチを操作してドリスコフを艦橋に閉じ込めた。
ホバリング中の「紫電」のアルフォスへ敬礼をすると艦長は崩れるように倒れた。
『ティア副長、交渉は決裂です』
『陛下、お手元の操縦桿のトリガーを・・・』
それを聞いたドリスコフは艦橋から逃げ出そうと必死に扉の閉鎖スイッチを叩く。
「何故だ、何故開かない!!!」
「ロックしたんだ、何やっても開かんよ」
「貴様あああああ!!!」
逆上したドリスコフは何発も艦長に銃を撃ち込んだ。
『みっともないですよドリスコフ、それでも栄えあるラティス帝国の軍人ですか!!!』
怒りをはらんだアルフォスの声にドリスコフが「紫電」の方を振り向くと自分の方に向けて魔導ライフルをぴたりと照準しているのが見えた。その銃口に魔力の粒子が収束する。
「ひいっ・・・・・・・!!」
アルフォスは引き金を引いた。
魔導ライフルから魔力の光の奔流がほとばしり、ドリスコフの姿は魔力の粒子の光芒に包まれた。
艦橋の上部、戦艦の中枢とも言える部分で爆発が起きる。
程なくして「トール」はその全ての機能を停止した。
「トール」の高度がぐんぐんと下がって行く。
昶サイド
アルフォス女王陛下の砲撃が済んだ事を確認したあたし達が艦橋の扉を破壊して突入するとそこはガラスや破片が散乱していた。
「陸戦隊よりアトロポスへ、「トール」艦内の制圧及び乗組員の武装解除は完了、これより不時着する」
『了解した、これより本艦はそちらへ向かう』
一緒に行動していた「アキレウス」の副艇長が素早く操舵手席についた。
「どう?上手く降ろせそう?」
「少し舵が馬鹿になってるようですがなんとかしてみます」
「主機は?」
「再始動させていますが間に合うかどうか・・・・・、機関室!主機再始動と同時に機関逆進!!前方の火山島の砂浜に不時着させる!!みんな掴まれぇーッ!!」
あたしは艦内放送のマイクを掴んだ。
『この艦はこれより不時着する、みんな何かに掴まれ!不時着のショックに備えろ!』
放送している間にも「トール」はどんどん高度を下げていく。砂浜が迫ってくる。
「下部スラスター全開!!右舷スラスター、サイドキック!!」
船体の下部と右舷のスラスターから魔力の青い噴射流が流れる。
右舷に見えた岩山を派手にこすって右舷から火花が散る。
右舷主砲が岩山に接触して基部からもぎとられた。
船底が何度か軽く接地するように少しバウンドして跳ねるように揺れた後に今度はドーンと突き上げるように大きく船体が揺れる。
「停まれぇーッ!このクソッタレがああああ!!!」
操舵手が叫ぶ。
「きゃああああっ!!!」
激しく上下に揺れる艦内であちこちに身体をぶつける。
そのまま「トール」は巨体を傾けたまま数百メートルを滑走してその先にある小さな丘に突っ込んでそれを盛大にえぐり取り土煙をあげてようやく停止した。
「痛あああ・・・・・・・みんな大丈夫?」
「なんとか大丈夫です・・・機関停止させます」
「やっと終わったあ・・・」
「やれやれ、昶姐さん達も無事でしたか」
艦橋の出入り口のほうから聞こえた声に振り向くとそこにはカールス大尉がいた。
「大尉達も大丈夫だったみたいね、お疲れ様」
「どうやらこれで決着は着いたかしらね」
「艦内は全て制圧完了しています」
あたしはカールス大尉の言葉に頷くと再び艦内放送のマイクを握った。
『ドリスコフの死亡確認及び艦内全ての制圧は完了した。これにて「オペレーション・ボルケーノ」は状況終了とする。みんなご苦労様!』
艦内にアトロポス陸戦隊のみんなの歓声があがった。
「ただ亜耶姐さんが・・・・・」
「・・・・・・え?」
「アフィッド大佐を倒した時の近接戦闘で大怪我、出血多量で医務室に担ぎ込まれたんですわ・・・なんでも通路で血溜まりの中に倒れて気を失ったまま現在も意識不明の重体だそうです」
「亜耶・・・・・!」
全身から血の気が引いた。
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