#18 白兵戦
#18 白兵戦
戦艦「トール」にて
機関を破壊されて速力が低下した「トール」の後方の火山の噴煙の陰から「アトロポス」搭載の上陸用舟艇「アキレウス」が姿を表した。
そのまま「トール」の後方に突っ込んでくる。
「敵上陸用舟艇接近!」
「馬鹿な!何故見つけられなかった!」
「火山の噴煙の陰に隠れていた模様!」
ドリスコフが顔面蒼白になる。
「は、早く引き離せ!全速前進だ艦長!」
「・・・・無理ですよ軍務大臣閣下」
「何!?!?命令が聞けんというのか貴様!!」
艦長はゆっくりと首を横に振る。
「この狭い空域では全速は出せません、そんな事をしたら火山ガスを主機関に吸い込んで機関停止を起こします・・・・この「灼熱の海」で艦載機に襲われた時点で我々は詰んでいるんですよ」
「なっ・・・・・!」
「ですが全力は尽くしましょう・・・・速力を限界まで上げろ!前方にある火山の噴煙を回り込むように回避運動を!出来るだけ風上を航行するんだ!」
所々に被弾して煙をあげながら「トール」が舵をきって噴煙の陰に逃げ込もうとする。
上陸用舟艇「アキレウス」にて
「トール」が前方の火山を回り込むように舵をきるのが見える。
「今更何をやっても手遅れだぜ軍務大臣さんよぉ!」
「パイルバンカー付きアンカーの射出準備完了!」
副官の報告にカールス大尉が頷く。
「よし、いよいよ「トール」に殴り込みに行くぞ!若桜少佐と亜耶ちゃん少佐に伝えろ!全速力で「トール」に追いつかせるぞ!」
「アキレウス」の艇尾のノズルから魔力の航跡が長く伸びて加速し始める。
昶 Side
「亜耶!カールス大尉から連絡が来た!いよいよだよ!」
「わかりました」
『ガーネットリーダーよりトパーズ1、手筈通りに行くぞ!』
「了解しました!」
あたし達の紫電とルスター大尉の紫電は両舷から「アキレウス」をエスコートしつつ「トール」に接近する。
「トール」は依然として回避運動を続けている。あたしは紫電を「トール」の後部飛行甲板に強行着艦させるとそこにいた乗組員達を紫電の頭部の固定武装の20mm機関砲で追い払う。
「アキレウス」は「トール」に接近するとルスター大尉の紫電が「アキレウス」の錨を抱えて「トール」の飛行甲板に降りてきた。
あたし達の紫電と2機で錨を飛行甲板に押さえつけて「アキレウス」のカールス大尉に連絡する。
「カールス大尉!準備OKよ!」
『了解した・・・・パイルバンカー錨、作動!』
次の瞬間、「アキレウス」に装着されたパイルバンカーが作動した。
ドガァン!!と一際大きな音がして「アキレウス」の錨が「トール」の飛行甲板に食い込んだ。
続いて「アキレウス」は錨の鎖を巻き上げる力を利用して飛行甲板へ強引に本体ごと「トール」に強行接舷、いや強行着艦した。
「アキレウス」の前部バウランプが開いてフル装備のカールス大尉達陸戦隊員が銃や魔法攻撃用のロッドを構えながら降りてくる。あたしと亜耶も紫電を飛行甲板に駐機させて「トール」の艦上に降り立った。
艦載機格納庫の扉が陸戦隊の魔法兵による攻撃魔法で吹き飛ばされる。
「行くぞお前ら!」
カールス大尉の声とともに「アトロポス」陸戦隊が「トール」の艦内に突入を開始した。
作戦は第二段回、ドリスコフの身柄確保を主目的とした白兵戦へと移行する。
戦艦「トール」艦橋にて
『総員敵の斬り込みに備えよ!飛行甲板に強行着艦された!敵陸戦隊が白兵戦を挑んでくるぞ!』
「なな、何をやっているのだ!さっさと追い出せ!」
パニックに陥ったドリスコフに艦長は同情するような眼差しを向ける。
「努力はしますが歴戦の強襲揚陸艦の陸戦隊相手にどうしろと?そもそも出港前にもう少し護衛を増やすべきという意見具申を「この最新鋭の航空戦艦、いや不沈戦艦に護衛など不要である」と言い切ったのは閣下、貴方ですよ」
「・・・・・っ!」
ああ、なんでこんな無能な奴が俺の艦に座乗しているのだろう。艦橋の窓から思わず遠い目をして水平線を見つめる。
不憫な艦長であった。
『機関室、敵陸戦隊に抑えられました!』
『弾薬庫から応答がありません!誘爆を恐れて降伏した模様です!』
その間にも頭の痛くなるような報告が次々と飛び込んでくる。
「な・・・・に、逃げるぞ、内火艇があるだろう!すぐに用意しろ!」
「とっくに敵魔導機兵に破壊されてますよ」
「こっ、この無能者が!!貴様艦長だろうが!」
「貴方に言われたくはありませんな、そもそも私は最初からこの航海には反対しておりました故」
「貴様!!!」
ドリスコフの手元の艦内電話が鳴った。
「今度はどうした!・・・・大佐か、何の用だね」
『ドリスコフ閣下、私が出ましょう』
「おお、そうか!頼むぞ大佐!」
『おまかせください』
「・・・見てろよ小娘女王と傭兵共!!」
ドリスコフはいかにも悪役らしいいやらしい笑みを浮かべた。
亜耶 Side
「トール」艦内に突入すると昶と私は二手に分かれた。というのもさっき捕虜にした少尉にドリスコフは艦橋にいると聞いたからだ。昶はその為に陸戦隊2個小隊を引き連れて上がっていった。
一方私はカールス大尉達の小隊と一緒にCIC、つまり戦闘指揮所を制圧するべく向かっていた。
根本的な艦内の構造は艦載機関連の施設を除けば他のラティス帝国の戦艦とはあまり変わらないらしい。
私達はいくらかの抵抗を受けたが「トール」の乗組員達が思いのほかあっさりと白旗を揚げるのを見てどれだけドリスコフは兵たちの人望が無いのかと呆れて驚きつつCICまでたどり着くとそこには顔見知りがいた。
・・・・・・・そこにはアフィッド大佐がいた。
「こうして再び少佐に会えるとは、この艦に乗り組んだ甲斐があったと言うものだ」
「私はできれば二度と会いたくはありませんでしたが」
CICに私達が銃を構えて突入した時には既に担当の乗組員の姿は無かった。少しばかり諦めが早すぎないか。
いや、ドリスコフの為に命をかけたくは無いのであろう事は容易に想像できるが。
アフィッド大佐が剣を抜いて構えるのに合わせて私もソードモードにしたアサルトロッドを抜く。
「大尉達はそのまま次の場所の制圧に向かってください」
「いいんですかい少佐?こいつかなりやる奴と見ましたが」
「大丈夫です大尉・・・・・それに貴方も一対一の決着が望みなのでしょう?アフィッド大佐」
「よくわかっておいでだ少佐」
「・・・わかりました涼月少佐、ご武運を!」
カールス大尉達は私に敬礼するとCICから出ていった。
「ほう、部下に信用されているのだな・・・・うちの司令官と違って羨ましい限りだ」
「上司運が無かったようですね・・・・・20年前も、そして今も」
「・・・ほう、「灼熱の海」戦役を調べたか少佐」
「でも貴方は自分や部下を見殺しにした帝国軍を恨んでいるはず。ドリスコフに手を貸す理由は何故です?それがわかりませんが」
「簡単なことだ、組織にとって一番厄介なのは「無能な指揮官」と「中途半端に知恵の回る馬鹿」だろう?このまま行けば帝国も帝国軍も自壊するだろうさ」
・・・・・・・頭が痛くなってきた。
「・・・・・・・なんだ、単なる馬鹿でしたか」
思わずはぁとため息をつく。結局他力本願じゃないか。
「なんだと!?!?」
アフィッド大佐が気色ばむがそれすらも冷めて見える。
「そうして巻き込まれる部下の兵士の事は考えませんでしたか?自分や自分の部下が上司・組織に見殺しにされた経験があるくせに・・・だから単なる馬鹿と言ったんですよ」
そのまま私は続ける。
「それにこのままドリスコフが軍に君臨して帝国や軍が自壊した所でその原因はドリスコフでしょ・・・・・結局貴方はドリスコフに張り付いて石化やらクーデターやらで暗躍し利用していただけに過ぎない・・・貴方の実力でも何でもありませんね」
「言わせておけば・・・・!」
アフィッド大佐が剣を構えて襲い掛かってきた。
キンッ!と音がしてアサルトロッドで受け流す。怒りで剣筋が乱れている。
アフィッド大佐が振り下ろす剣を受け流し、身体を回転させて避ける。
私はそのまま正面から対峙すると胴を狙うようにフェイントをかけてアフィッド大佐の持つ剣を弾き飛ばそうとした。
「あっ?!」
アフィッド大佐がかけた足払いに引っかかり私はバランスを崩した。
「死ね!」
そのまま私は咄嗟に転がってアフィッド大佐が上から突き刺してくる剣を避ける。
「そう簡単に私を殺せると思うな!」
私はアフィッド大佐が打ち下ろす剣をアサルトロッドで防ぐとその鳩尾に蹴りを入れて間合いを取り直そうと下がる。
時々爆発音やら銃声やら聞こえる。
「もうあなた達に勝機はありませんよ、降伏したらいかがですか」
「立場上そうもいかんのでな!」
言い終わると同時に魔法の炎の矢、ファイヤーダーツが数発飛んできた。
「はぁっ!」
魔法攻撃に対する防御魔法、フォースフィールドを展開して防ぐ。
しかしフォースフィールドはあくまでも対魔法攻撃用だから物理攻撃は防げない。
アフィッド大佐はその隙を突いて私の首に手を伸ばそうとするが右手をアフィッド大佐の腕の上から被せつつ体重を載せ上半身を捻ってその腕で私を掴ませないようにした。
「このっ!」
そのまま肘打ちでアフィッド大佐の顔面を打って再び腕を取ると肩を掴んで肘を捻り更に手首を捻り肩を下の方へ抑えつける。
「あっ!?」
思わず私は声を挙げた。普通ならこれで強引に抵抗すると脱臼の一つもするのだがその体勢のまま私は身体ごと浮かされて外されてしまった。
「っ!!!」
そのまま投げ飛ばされた私は受け身を取りつつ立ち上がる。
お互い睨み合う。手詰まりな状況が続いたがその均衡を崩したのはアフィッド大佐だった。
アフィッド大佐が剣を構えると突く姿勢で突っ込んで来る。
私は身体を回転させて避けるとそのまま懐に入り右アッパーを叩き込んだ。
それは見事に決まりアフィッド大佐は後ろに仰け反る。
続けて2発3発と殴り最後に回し蹴りを頭に叩き込む。
アフィッド大佐は倒れそうになったが背後の壁にもたれかかるようにして立ち上がる。
その時に大きな爆発音と同時に艦が大きく振動して床に私は投げ出された。
「このっ・・・!、喰らえ!」
「あぅっ!!!」
アフィッド大佐が私の左胸を刺そうと剣を放った。
咄嗟に身体をひねったがその剣は私の左肩に深々と刺さった。
「うあ・・・・!」
アフィッド大佐はそのまま私の肩から剣を引き抜きその剣は更に右脚太腿に突き立てられた。
「きゃあああーっ!」
刺された激痛に思わず悲鳴をあげながら肩と太腿を抑えて床をのたうち回る私にアフィッド大佐は次々と刺突しようとする。
私は左脚払いでそれを防ぎつつアサルトロッドを床に突いてなんとか立ち上がる。
「いい覚悟だ!」
「・・・う・・・・」
私は肩の傷口を抑えつつ少し間合いを取ってソードモードのままアサルトロッドを構え直す。
昶 Side
「こりゃ手間取るかな・・・・」
「どうします少佐?」
陸戦隊2個小隊を引き連れてドリスコフが立てこもっている艦橋に向かっていたのだが抵抗が激しく艦橋への通路で激しい戦闘になっていた。
「降伏勧告でもするしかないかな・・・?」
「それを連中が聞きますかね?」
「ドリスコフはともかくその下の連中には効くんじゃないかなあ・・・今も制空権は確保できてるんだよね」
「それは大丈夫です問題ありません」
「よし、じゃああの人にやってもらおう、幸い対空兵装は全部あたし達が潰したし」
「どうするつもりなんです?」
怪訝な顔で聞く小隊副官にあたしは耳打ちした。
「・・・・・・・本気ですか?」
「勿論本気よ」
「分かりました・・・・通信兵!」
「じゃあそれまで少しでも敵を潰すよ!」
「了解です昶姐さん!」
「その「姐さん」ってのやめてよ・・・・・・」
「アトロポス」艦橋にて
「・・・・という通信が若桜少佐からあったのですがどうなさいますか?」
「アトロポス」副長のティアが通信をアルフォス女王と坂崎艦長に読み上げた。
「確かにこっちが制空権は取っているし効果は大きいが・・・・・」
「・・・私は反対です!万一の事があったら・・・・!」
アルフォスの後ろに控えているミキが反対する。
「・・・それが普通でしょうなあ・・・・しかし女王陛下の意見も聞くべきでしょう」
逆にゼノスは本人の意見を促すようにアルフォスに視線を送った。
「・・・私は行こうと思います。二人乗れる魔導機兵はあるのでしょう?」
「はい、今すぐにでも出られるようになっています」
ティアが飛行甲板に駐機してある複座型の紫電を見ながら答える。
「ですが陛下!」
「皆が、あのドリスコフですら命がけでいるのに私が出ないのは皆が納得しないでしょう」
「・・・・・わかりました、陛下がそう決心されたのならもう差し出がましい事は申しません」
アルフォスは小さく頷くと坂崎艦長に向き直った。
「お願いします、艦長」
「了解しました、副長、パイロットを頼む」
「はい、では女王陛下、こちらへ」
「わかりました、ではまいりましょう」
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