#16 女王陛下のアトロポス号
#16 女王陛下のアトロポス号
亜耶 Side
アルフォス女王陛下救出作戦から五日たった。
この日、会議室に坂崎艦長とティア副長、魔導機兵部隊の各部隊長や「アトロポス」の各部署の責任者が集まっていた。
先程興味深い情報が「メスデック」の主人からもたらされたのである。
この数日間ライルやアスティ、「メスデック」の主人達のパルマポート居残り組の3人は情報収集にあたっていたのだがアスティが帝国正規軍で戦艦「トール」の主計長をしているという大尉からある情報を聞き出したという。
それによると撃墜したVTOLの破片は帝国正規軍の駆逐艦が発見して女王陛下死亡と現状で判断され、そのような報道もされている事。
次に戦艦「トール」には現在次々に贅沢品、嗜好品が積み込まれていてドリスコフ自ら周辺国へ「トール」による砲艦外交、恫喝外交をするために南方へ向けて三日後にパルマポートを出港する予定で実戦出動では無い事と名目上外交目的であるために「トール」一隻で出動するという情報であった。
最近のドリスコフは大した政策も打ち出せず、肝心の帝国正規軍にすらその能力に疑問を持たれつつあるらしい。
それというのも先日のアルフォス女王陛下救出作戦ではマスコミの前で肝心の女王陛下に逃げられたばかりか私達にいいようにあしらわれコケにされた事に加えてナカザワ大尉麾下の衛兵達に王城を追いだされるという失態。
その一部始終はマスコミによってホログラフで中継され、受像端末のある裕福な商人や貴族、また一般国民は自治体や村長宅に国から配布されている受像端末で全国に広まってしまった。
あれ以降ドリスコフは帝国軍総司令部にひきこもっていたのだが部下たちに白い目で見られるのがいたたまれなくなったからという噂すら流れているという。
それともう一つあった。例のメデューサシステムだけど装置に致命的な欠陥があって一回照射しただけで装置に負担がかかって使用不能になってしまうのだそうだ。
つまり恐ろしく費用対効果、コストパフォーマンスが悪くて使い物にならず計画は全面的に中止、結局二基(麻衣を石化させた小型の試作品と女王陛下救出作戦の時に魔導機兵に装備されていた合計二基)だけの試作品を製造しただけで既に解体廃棄処分されてしまったそうだ。
今回の件のそもそも発端はこのメデューサシステムだったのだがこうもあっさり計画が立ち消えになって終わるとはなんとも皮肉な話である。
「向こうから出てくるのならこれを逃がす手は無いですね」
アルフォス女王陛下が口を開いた。
「ただ問題なのは最新鋭の戦艦に座乗しているという事実です」
ティアさんが「トール」の簡易図面を広げた。最新鋭の艦ではあるがある程度の内部構造は公開されているらしい。
「おそらく彼はあの目立ちたがり屋な性格から考えて「トール」に乗っている間はこの艦橋か賓客用の部屋にいるでしょう」
図面を指差してティアさんが説明する。
「そしてどうやって「トール」相手に奴を捕まえるかなんだが・・・・そこでだ、ちょっと変わった提案を若桜少佐から具申されているんだがまずはみんなの意見を聞かせて貰いたい」
坂崎艦長は昶が作成した作戦計画の草案をテーブルに広げた。その場にいた全員がそれを覗き込む。
「なるほど、これは有効かもしれないな」
魔導機兵第一飛行隊の隊長ルスター大尉が腕を組みながら頷く。
「確かにこれなら俺達みたいな強襲揚陸艦の装備でも「トール」を拿捕してドリスコフの身柄の確保を出来るかもしれないな」
「アトロポス」所属の陸戦隊の隊長のカールス大尉は上陸用舟艇を「トール」に接舷させる方法に興味津々だ。
「女王陛下はどうお考えになりますか?」
「私は軍事作戦のプロでは無いので細かいことはわかりません、ですがこうして皆さんの意見を聞く限りこのチャンスを逃す手はないと考えています」
「決まりだな艦長、面白そうじゃねえか俺はこの作戦に乗らせてもらう、そうなると姐さん達コンビの役目も大きいですなあ、頼りにしてますぜ」
カールス大尉の言葉に私と昶は頷いた。
ドリスコフの身柄を確保しクーデター政権からアルフォス女王陛下へと政権を奪還するための作戦の細かい検討が始まった。
そして三日後の作戦決行日。
『強襲揚陸艦「アトロポス」の勇敢なる乗組員の皆さん。私はラティス帝国代28代国家元首であるアルフォス=ラーズ女王です』
艦内のいたるところにあるスピーカーから凛とした、そして毅然としたアルフォス女王陛下の声が流れ始めた。
私と昶は飛行甲板に駐機している自分達が搭乗する予定の複座型紫電の前でそれを聞いていた。
アルフォス女王陛下は艦橋でマイクを握っていた。艦橋の窓からは飛行甲板で武器装備が装着された魔導機兵とその整備兵達が整列して放送に耳を傾けているのが見えるはずだ。
『私は大きな過ちを犯しました。それは逆賊であるアレクセイ=ドリスコフの暴走を止められず、そしてその為に愛する帝国国民や国のために日夜命がけで任務を遂行している兵士の皆様に多大な迷惑をかける事態に至ってしまいました。いくら悔やんでも悔やみきれません』
艦内は静まり返って皆がアルフォス女王陛下の言葉に耳を傾けている。
『私はある大きな決意をしました。それは逆賊、奸臣であるドリスコフの身柄を確保し法の裁きを受けさせる事です』
艦橋では広報担当の乗組員がホログラフの中継をするための術式を組んだカメラを構えて演説をするアルフォス女王陛下を写している。
その映像はパルマポートで待機している「メスデック」の主人の知り合いの帝国軍広報部隊と繋がりのあるマスコミによってホログラフで帝国全土に中継されていた。
帝国軍にも反ドリスコフ勢力は多いのだ。
今頃はあの目立ちたがり屋の馬鹿軍務大臣は頭に血を上らせているに違いない。
『そして、その為にはこの「アトロポス」の皆さんの力が必要なのです。この国に再び安らぎと平和をもたらすために。そして大切な家族や恋人、同胞達を理不尽な政権から守るために!』
乗組員達からどよめきと雄叫びが上がる。意外と扇動演説が上手な王女様だ。
アルフォス女王陛下がその声に答えるように手を挙げた。そしてひときわ大きな声で宣言する。
『今、この瞬間より本艦、強襲揚陸艦「アトロポス」をラティス帝国軍総旗艦とし、逆賊であるドリスコフの身柄を確保する為の作戦、「オペレーション・ボルケーノ」を発動します!・・・・・Z旗を掲げよ!!帝国の興廃此の一戦にあり各員一層奮励努力せよ!!』
女王陛下の凛とした、そして力強い口調の言葉に「アトロポス」の艦内は爆発的な盛り上がりを見せた。女王陛下万歳の声すら聞こえてくる。
「女王陛下のユリシーズ号」ならぬ「女王陛下のアトロポス号」だな。
「アトロポス」のマストに黒、黄色、青、赤を組み合わせた旗、Z旗が掲揚された。
既に合流して一緒に行動している軽巡洋艦「ヴェネラブル」と駆逐艦「雷風」にも同様にZ旗が揚がる。
飛行甲板では次々と魔導機兵のパイロット達が愛機へと搭乗していく。
『総魔導機兵、発動!』
飛行甲板に魔導機兵の主機関始動を命じる放送が流れた。
「亜耶、行くよ!」
「はい!」
私は昶と共に目の前に駐機している私達専用に魔力増幅アンプを背面に装備した複座型紫電のコクピットハッチを開けて乗り込んだ。
いよいよ始まる。
戦艦「トール」艦橋にて
「ふ、ふざけおって!!軍事も理解できない小娘が!!」
大方の予想通りドリスコフはアルフォス女王の演説を聴いて頭に血を上らせていた。
艦長をはじめとして一緒に艦橋にいる航海長や通信長が露骨に迷惑そうな顔をする。
「艦長、直掩機と攻撃隊の準備だ!強襲揚陸艦の一隻や二隻、簡単に沈められるだろう!」
「・・・・わかりました、聞いてのとおりだ、直ちに魔導機兵の準備だ!相手は魔導機兵装備の強襲揚陸艦だ、すぐにACM(空中戦)装備で出せ!」
「了解しました」
艦長はやれやれと言いたげな表情で前方に見える沢山の活火山からなる群島、「灼熱の海」を見ながら呟いた。
「既に我々が「アトロポス」に追い込まれている事にも気付かないとは・・・!」
戦艦「トール」は火山島とその噴煙を避けながら航行している。
「灼熱の海」には回廊と呼ばれる大型の空中船舶が通過出来る空間はいくつか存在する。
しかし大型艦が艦隊機動出来るほどの広さはほとんど無い。比較的小型の駆逐艦や軽巡洋艦ならまだしも「トール」のような大型戦艦は自由には動き回れないだろう。狭い鳥籠に閉じ込められたようなものである。
主砲で長距離からの射撃で敵を潰すかその艦載機の運用能力を活かして戦うしか方法は無いがこの空域では火山島の噴煙が障害となり測距儀を使用しての照準すらつけづらい。
相手は強襲揚陸艦だがこの狭い空間ではそう簡単に接舷も出来まいと「トール」の艦長は考えていたがその考えが甘かったことを彼はこの後思い知る事になる。
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