#14 強襲揚陸艦「アトロポス」
#14 強襲揚陸艦「アトロポス」
昶 Side
あたし達一行を乗せたVTOLは海上を飛行していた。
パルマポートに戻る事も考えていたのだが帝国軍の軍港に向かっている正規軍艦艇が数隻いるという通信が「メスデック」の主人から入り、シャフリラが昔乗っていたという傭兵部隊が運用している強襲揚陸艦「アトロポス」へと向かっていた。
「みんな、見えてきたわよ」
窓から外を見るとあたし達のVTOLよりも500m程下方を魔法の粒子の航跡を引きながら高度1000mを航行している大型の艦艇が見えた。
着艦するためにVTOLが接近していくとその艦は航空母艦のような全通甲板に右舷に寄った艦橋とその前後に主砲と舷側エレベーター、艦尾には強襲揚陸艦らしく空中揚陸艇が発進するためのウェルドック、その左右に魔力を圧縮して噴射、推進するための魔導エンジンの巨大なノズルが左右二基ずつの合計四基が装備されているのがわかる。
全長は200mくらいか。その飛行甲板にはオプション装備の飛行ユニットであるランドウイングを装着した魔導機兵が数機と哨戒や偵察・索敵等に使用される小型のVTOLが駐機されているのが見える。
艦橋の前後に装備されている主砲配置が太平洋戦争での米海軍エセックス級空母にも似ていた。
シャフリラが言うにはヴェネラブル級という軽巡洋艦を大改造しているそうだから構造的には同じくクリーブランド級軽巡洋艦の船体をベースにした米軍のインディペンデンス級軽空母に近いのかもしれない。
よく見ると船体の右舷と左舷の両舷側面には対地支援砲撃等の下方への砲撃もできる舷側砲塔と呼ばれる主砲が左右に一基ずつ装備されている。
全体的なシルエットというか構造はアニメの艦艇で例えるとアンドロメダ星雲を往復した某有名宇宙戦艦よりもスペースコロニーを舞台にした超有名リアルロボットアニメの地球側の宇宙戦艦や巡洋艦に近いと言った方がいいだろう。
話を戻すが軽巡洋艦ベースであるが故に右舷に寄った艦橋や正規空母に比べて短く狭い飛行甲板や艦載機格納庫の設置といった大改造による重心の高さを解決するために元のヴェネラブル級軽巡洋艦よりも幅は広がっているのだそうだ。
そうこうしているうちにVTOLは艦橋(いや、全通甲板の母艦だしアイランドと呼称するべきなのか)に近い3番の着艦スポットに無事着艦した。
着艦してVTOLから降りると中佐の階級章を付けた中年男性が飛行甲板まで出迎えてくれた。
まずあたしと亜耶が武器を持って降りる、その後をゼノスがエスコートしながらアルフォス女王陛下が、その後にミキ、最後にシャフリラと麻衣が降りてきた。
ちなみにライルとアスティにはパルマポートに残って貰って「メスデック」の主人と共に情報収集をお願いしている。
「アルフォス女王陛下、わが強襲揚陸艦「アトロポス」にようこそ。艦長の坂崎と申します。この傭兵部隊「アトロポス」の元締めも兼ねております。しがない傭兵の軍艦ですが出来る限りのおもてなしをさせて頂きます」
「よろしくお願いします坂崎艦長、しばらくこちらでお世話になるかと思います」
跪いて礼をする坂崎中佐にアルフォス女王陛下が優雅な仕草で挨拶をする。うーん、育ちの良さってこういう何気ない仕草にやはり出るものなんだなあ。
ちなみにアルフォス女王陛下は取り敢えずVTOLの中にあった帝国軍の軍服に着替えている。
ところでこの艦の名前でもあるアトロポスというのはギリシャ神話の三相女神で確か「切る者」とか「破壊者」に相当する女神だったと記憶している。傭兵部隊の名前としては妥当なのかもしれない。
あたし達が乗ってきたVTOLは一機の魔導機兵と再び離艦していった。この後VTOLから魔導機兵にパイロットが乗り移ったら魔導機兵でこのVTOLを撃墜して女王陛下救出作戦を失敗したように見せかける手筈になっている。
あたし達は「アトロポス」の艦長室に通された。大型艦とは言っても艦内スペースは限られているから艦長室と言えどもそんなに広いわけではない。
艦長室はベッドや艦長用の執務机、洗面台などが機能的に配置され、更にソファーが置いてあった。執務机と応接セットとベッドで一杯と言えばいいだろうか。
そのソファーには坂崎艦長と副長のティア=シャフリルさん、彼女はこの「アトロポス」の副長にして魔導機兵パイロットで精霊使いの資格を持っていて外見は金髪碧眼のショートヘアのエルフである。20代前半に見えるがエルフである為に実年齢は結構行っているのかもしれない。
シャフリラと似ていると思ったら姉妹で妹なのだそうだ。だからすぐに話しを通せたらしい。
そして坂崎艦長とティア副長の対面にアルフォス女王陛下、その後ろに護衛を兼ねてあたしと亜耶が立っている。
ゼノスとミキは士官食堂で待つそうなのでここにはいない。
ちなみに亜耶はあたしが同人誌に描いた時のいつものヘソ出しの魔法兵の衣装に、あたし自身はこの艦で借りた軍服へとメイド服から着替えさせて貰っている。
「それにしても驚きました、久しぶりに姉のシャフリラから連絡が来たと思ったら女王陛下を匿ってくれと言われるとは・・・」
「お騒がせしてしまったようですね」
「いえいえとんでもない、私達傭兵はドリスコフに良いイメージは持っておりませんし・・・・何しろ本来なら正規軍を出すような任務でも正規軍装備の消耗をケチって安いギャラで我々をこき使おうとする人物ですから・・・・・それに我々はドリスコフ体勢にはそもそも反対ですので」
「あれではトール級戦艦を何隻か配備したところで役に立つ運用は出来ないでしょうね」
「彼を任命したにも関わらず御しきれなかった私達王家の責任ですね・・・・皆様にはなんと言えばよいやら・・・」
アルフォス女王陛下が申し訳無さそうな顔をする。
「いえいえ・・・・彼の資質の問題ですし陛下が落ち込む必要はありません・・・・それよりも大切なのは今後の方針です・・・陛下としてはどうなさるおつもりですか?」
「私は・・・・ドリスコフの一党を追い出してこの国を、いえ国民達を安心させたいと考えています、もう彼に対して寛大でいる理由もありませんし」
結局今日決まったのはドリスコフに対抗するという大まかな方針と取り敢えず補給にパルマポートの軍港に立ち寄る事(勿論私達は降りないが)、自分達の部屋割やこの艦に乗っている間の自分達の役割とかで政権奪還の作戦まではもう少し状況を見ようと言う事になった。
あたしと亜耶は士官用の小さな二人部屋をあてがわれていた。スペースの限られた艦内でこの待遇は破格と言っていいだろう。
士官用の部屋なのは亜耶の衣装に付けられている階級章が少佐のものだからだ。あたし達二人はこの艦では女王陛下の口添えと亜耶のレベル50もあって少佐待遇と言う事になっている。
ちなみにアルフォス女王陛下は賓客用の専用室、シャフリラは妹のティアさんの副長室、ゼノスとミキはそれぞれこの艦の男性用の士官室と女性用の士官室にそれぞれ乗組員達と相部屋となった。
「あの、マスターに質問があるのですが」
「え?質問?」
亜耶が質問なんて珍しい。悩みでもあるんだろうか。
「はい」
「質問ってどんな?」
「えーと・・・」
亜耶が少し口ごもった。
「言ってみなよ、あたしに答えられる事なのかもしれないんだし」
「実はですね・・・・以前から気になっていて」
「うんうん」
「マスターは何者なのですか?」
「へ?何者ってどういう事?」
また妙な質問が来たな。
「以前マスターは「軍人や警官の経験も無ければ狩猟や射撃競技の経験も全然無い」と言っていましたけど、それならどうやってあれだけの射撃・狙撃や銃剣術の腕前を得たんだろうって・・・以前から不思議に思っていました」
「あー・・・・そういやまだ話して無かったっけ」
あたしは亜耶に自分の事を話し始めた。
あたしは現世で生きていた時はとある私立高校に通うごく普通の女子高校生だった。
そして親父が陸上自衛隊に勤めているのと2次元系以外の趣味の一つがミリタリー系という事もあって防衛大学を目指していた。
最もそれはあのうっかり女神のせいでかなわぬ望みとなってしまったが。
あたしの親父の仕事場は陸上自衛隊習志野駐屯地だった。
仕事柄所属している部隊とか詳しい任務は教えてくれなかったが親父と演習を通じて知り合った在日米軍のおっちゃん曰く。
「昶、お前の親父さんは凄いんだぞ。戦場では絶対に敵にしたくない、自衛隊で一番やばい部隊にいるからな。誇りに思っていい」
と言っていた。
習志野駐屯地にいて自衛隊で一番やばい部隊。
うん、多分あの部隊。
その親父と以前何回かグアムやアメリカ本土へ家族旅行に行った時に親父の趣味も兼ねて何度も拳銃やライフルの実弾射撃をあたしは親父に教わった。
他にも親父が非番の時に銃剣の扱い方も教わったりもした。
・・・・・・・父親が娘に何かを教えるにしてもそれはどうなんだ、とツッコミが聞こえてきそうだが正直あたしもそう思う。
親父としては護身術でも教える感覚だったのだろうか。
今となっては確認のしようもないが。
ともあれ射撃や銃剣術、格闘に関してはそこらの一般兵士には負けない自信があるし、こんな状況に置かれていてもこの通り元気に生きていられるのは親父にしごかれたおかげというのも確かだ。とは言え多分あたしの実力は親父の十分の一も無いだろうと思う。
そしてその知識や経験は趣味で描いていた同人誌で魔法を駆使する特殊部隊の所属という設定にした亜耶を描く時に大いに役に立った。そのキャラ設定もあって亜耶が非常識に強い娘になってしまったのだ。
亜耶は同人誌のキャラとして設定した時はファンタジー世界で魔法と近接戦闘を得意とする特殊部隊の魔法兵という設定にしたがここまでこの世界と相性がいいとは、いや、それ以前に自分が創造したキャラクターとこうして一緒に生きていく事になろうとは思ってもいなかった。
今ではあたしにとって亜耶は唯一の家族だし妹や娘のような感覚を持っている。なにしろこの世界には身寄りもなく一緒に生きていこうと思えるのは今の所は亜耶ただ一人だけなのだ。
「・・・なるほど、納得です。一度マスターのお父様とじっくり話をしてみたかったですね」
「あともう一つ、これは亜耶へのお願いになるんだけど」
「はい?」
亜耶がきょとんとした表情であたしを見つめる。ああ、可愛いなもう!
「その「マスター」ってのやめようよ、なんか他人行儀だし」
「あの、じゃあ何とお呼びすれば・・・?」
「昶、でいいよ」
「え???」
「あたしにとって亜耶は家族みたいなもんだし、それでマスターって言うのも変だしさ」
「わかりました・・・昶・・さん」
「さんはいらないよ」
「はい、昶」
「うん、それでいいよ」
照れたように少し下を向いて言った銀色の髪の美少女をあたしは抱きしめた。
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