#13 アルフォス女王奪還
#13 アルフォス女王奪還
亜耶 Side
王城の正面の大庭園には特設の処刑台が作られていた。
高さは三階とほぼ同等か。面積は学校の教室を田の字型に四個ならべたくらい。その上にギロチンの台やらドリスコフが演説をするための台やらが設置されていた。
そしてその大庭園には反乱兵に加えて沢山の一般市民達は専用エリアをフェンスで区切られて入れるようになっていた。大庭園の左右には魔導機兵が二機監視、警戒にあたっているのが見える。
戦艦トールは先日のクーデターの時とは違い母港のパルマポートの軍港に移動しているらしく姿はない。その代わりに警備のために100m級の空中フリゲート艦が高度およそ100mで停泊、警戒している。
そしてその周りをマスコミらしき何機かの魔導機(民間へと非武装化改造されて払い下げられた魔導機兵なのだそうだ)が飛び回っている。
特設の処刑台の上にはドリスコフの護衛であろう反乱兵の一団にこの王城で働いているメイド達や反乱軍の幹部とおぼしき上級士官等が整列しアルフォス女王陛下とドリスコフが出てくるのを皆待っていた。
「気を付けー!」
ドリスコフの副官らしき士官の号令が響いた。王城の正面入口から伸びている広い通路から特設処刑台に登るスロープを護衛の反乱兵と共に登ってくる。
そのすぐ後ろを首に縄を掛けられ、反乱兵に引っ張られながらアルフォス女王が連行されてくる。
「あら」
アルフォス女王陛下とドリスコフのすぐ後ろをマスターが付き従うように歩いている。
どうやら上手く潜り込んだらしい。本当に私のマスターは死ぬ直前まで普通の女子高生だったのだろうか。謎だ。
ドリスコフの態度はここで見ていてもその賢政故に国民に敬愛されている女王陛下に対して敬意も何も無かった。
処刑台の上にあるギロチンの前にドリスコフが、その横にアルフォス女王が連れてこられるとドリスコフの演説が始まった。
「今ここに集まられている皆さん、今日この時よりこの帝国は大きく変わります!・・・わが帝国軍がすべてを掌握し、国のすべてを動かせるようになった今こそ、これまでの支配者であったアルフォスの弱腰なやり方を捨てて世界に打って出るのです!・・・今や強力な戦力はトールやその同型艦6隻の建造を含めて着々と進行しております!今や我々の進む道をふさぐものは無いのです!」
ドリスコフが拳を振り上げて熱弁する。
「そしてまずその前にその弱腰政治を行い国益を損なった物を排除しなければなりません!」
そう言うとドリスコフはアルフォス女王の首に掛けられた縄をぐいっと引っ張った。アルフォス女王がよろけてドリスコフの前で膝を付いた。
「本気で言っているのですかドリスコフ!貴方のは単なる侵略的思想で国益のために軍を動かすのとは異なります!!」
アルフォス女王がドリスコフを睨みつけながら言う。
「本気ですよ、貴方のような弱腰な為政者は国にとって害でしか無いのでね・・・・・せめて死ぬ前にお詫びを兼ねて国民を楽しませたらどうですか!」
「きゃあっ!」
ドリスコフは乱暴に縄を引っ張ってアルフォス女王陛下を立ち上がらせると持っている儀礼用の剣で着せられていたローブを破り、裂いた。アルフォス女王はあっという間に粗末な、それも下着姿同然の囚人服にされた。
顔を真っ赤にして手で隠そうとするがドリスコフに腕を掴まれて抵抗出来ずにいた。
アルフォス女王陛下ってスタイルいいな。着痩せするタイプだ・・・・と言うか何なのこのスケベオヤジ。
「さて、その格好のままでアルフォス女王陛下には死んで頂きましょう、いや違いますな「元女王陛下」」
その時、魔弾が飛びギロチンの刃を吊っているロープを切断した。ズンっと重い音を立てて刃が落ちた。これでギロチンによる処刑は出来なくなった。
「何だ、何が起こった!!」
「ドリスコフ閣下、貴方には無理よ」
「な・・・・メイドの分際で邪魔する気か貴様!」
私はミキに頼んでギロチン台の周囲に整列しているメイド達の中に紛れ込んでいた。
「メイドも何も・・・・・・自分で賞金首にした人間が目の前に参列しているのに気付かない間抜けが何を言っているんですか」
私は後ろでまとめていた髪をほどいた。銀色の髪がふわっと広がった。
「アルフォス女王陛下は返して頂きますよ」
私に向かって10人ほどの反乱兵達が駆け寄ってくる。
「お前は魔法省の・・・射殺されたのでは無かったのか!・・・確保しろ!いや、殺してもかまわん!」
「・・・悪役フラグ全開の命令、何の面白みも無いですよドリスコフ閣下」
私はビットを発動させると反乱兵達に飛ばす。あっという間に10人がビットに撃ち抜かれて倒れる。
その時、大庭園で警戒している魔導機兵「アレス」が二機とも爆発した。
撹乱をお願いしたナカザワ大尉達の衛兵部隊が動いて対魔導機兵ライフルで王城から狙撃してくれたらしい。その結果として動力部を撃ち抜かれて誘爆したのだ。
「なんだ?!どういうことだ!誰か説明しろ!」
「・・・私が地下牢から開放した衛兵達が協力してくれたんですよ」
「貴様!!台無しにする気か!!」
「貴方はこの国を台無しにしようとしてるでしょ」
私はその場を跳躍して処刑台の前に着地するとそこで警備していた数人の反乱兵が剣を抜くと私に斬りかかって来た。ステップを踏んですべての斬撃をかわす。右手にアストラルソードを発生させると反乱兵を次々に斬り倒す。
後ろに気配を感じてちらっと見ると更に10人程の反乱兵が私に向かって来る。右手がアストラルソードでふさがっている。近すぎてちょっと面倒だな。
その時銃声がして次々に反乱兵が頭を撃ち抜かれて数人が倒れた。残りの反乱兵は警戒して近寄って来ようとしない。ちらりと見るとマスターがスカートの中、太腿のホルスターに隠していた銃を撃ったのだ。
すぐ目の前で反乱兵を射殺した黒髪ポニーテールのメイドにドリスコフが目を丸くする。
「な・・・・貴様は歴史専攻の学生では無かったのか!」
「あんたバカぁ?」
マスターはどこかのアニメで聞いたような言葉を容赦なくドリスコフに叩きつける。
「なっ・・・!」
ドリスコフは眼を白黒させている。それはそうだろう、閣下と言われる立場の人物相手に有無を言わさずいきなりバカ扱いする者はまずいない。
「大体こんな時に得体の知れない奴をわざわざ近づけるなんてリスクマネジメントがなってないわよ?クーデターで政権乗っ取る位の奴なら少しは面白い人かと思ったら単なる目立ちたがり屋のバカじゃない。あーあ、がっかりだわ」
その時、後ろから同士討ちを恐れた反乱兵が銃剣でマスターを突き殺そうとしたがマスターは振り返りもせずに勘だけで右腕を肩越しに後ろに向けて反乱兵の頭を撃ち抜く。
「動きがわかりやす過ぎ、あんた達ちゃんと訓練してるの?」
倒れる反乱兵からマスターはその銃剣を奪った。
え??マスターってそんな事まで出来るの?!本当に何者??
「あたしの背後からかかってくる以上死ぬ覚悟くらいはできてるよね?」
マスターは奪った銃剣で反乱兵の一人が斬りかかってきた銃剣を銃を斜めに構えて弾倉を利用して防御するとそのまま斜め上方からの斬撃でその首筋を斬り払う。続けてマスターは刺突技と銃のストック部を使った打撃技で次々と反乱兵達を倒していく。
たかがメイドと侮ってもいたのだろうけどそれを差し引いてもマスターの銃剣術の動きは冒険者というよりも訓練された兵士の動きに見える。なんでつい最近まで女子高生してた人がそんな事出来るんだろう?
とにかく私は混乱に乗じて処刑台に登るとアルフォス女王につながれていた縄をアストラルソードで切断した。
アルフォス女王が私の方に駆け寄る。
「貴方達は?」
「私達二名はゼノス侍従長の依頼で陛下の救出に参りました・・・魔法省の涼月と若桜です」
ゼノスから預かった護符を見せると納得したようだった。取り敢えず目の前に倒れている反乱兵から上着を取って女王陛下に羽織らせる。
「この賞金首風情が!!・・・・うわっ!!」
ドリスコフが拳銃を抜いて女王陛下に向けようとするがそれは鋭い銃声と共に手から弾き飛ばされた。マスターがその正確な射撃で銃だけを弾き跳ばしたのだ。
「くそっ!」
だがドリスコフはそのまま儀礼用の剣を抜いた。今度は護衛の反乱兵がマスターとドリスコフの間に入ったためにマスターは射撃でドリスコフを狙えなかった。
「知っているぞ。実体の無いアストラルソードで金属製の剣は受け止められないんだったな!!」
私は反射的にドリスコフが振り下ろしてきた剣をアストラルソードで薙ぎ払った。
次の瞬間、ビキーンと言う音がしてドリスコフの儀礼用の剣は薙ぎ払った部分から切断された。
「な・・・・・!」
途中から真っ二つになった剣を見てドリスコフが絶句した。
「そう、普通の術者ならアストラルソードで受け止めることは出来ません・・・でも術者の魔力の強さ次第で相手の剣そのものを切断できるんです・・・・・・剣を抜いた以上は私とやりあって死にたいという理解で良いですね閣下?」
私はドリスコフを睨んだまま自分の周囲に次々と魔法陣とビットを発生させる。
・・・・うん、メイド服を着てるせいであまり説得力がある気がしない。
「ひっ・・・・」
ドリスコフが尻もちを突いて後ずさる。あれ、そうでもなかったか。
その時、特設の処刑台の前の空間に大きな魔法陣が浮かび上がるとその中から中型ヘリコプター位の大きさのVTOLが浮上した。
反乱部隊の迎撃を避けるために麻衣が転送の魔法、ディメンションゲートでVTOLごと一気に転送突入させたのだ。
私は周囲に発生させたビットを一旦消すと後ろにいるアルフォス女王に声をかけた。
「迎えが来てくれました。行きましょう陛下、衛兵達が援護してくれています」
「ほら、貴女も」
「は、はいっ!」
マスターがミキを連れてこっちに来る。
「わかりました、ご一緒します・・・あっ!」
アルフォス女王の声に後ろを見るとドリスコフが生き残った反乱兵をおいて王城へと逃げていくのが見えた。
「部下を見捨てて逃げるつもりなの?!」
明らかに怒気をはらんだ声でマスターがドリスコフに向けて連続して発砲するが護衛に付いている周りの反乱兵を何人か倒しただけで結局ドリスコフは城内へと逃げ込んでしまった。
処刑台の周りは大混乱に陥っていた。
私達を撃とうとした何人かの反乱兵がメイド達に処刑台から突き落とされているのが見えた。
VTOLが処刑台の前までホバリングしつつ接近するとドアが開きゼノス侍従長が顔を出した。
「ゼノス!無事だったのですね!」
「はい!陛下こそよくご無事で・・・とにかくこちらへ!!」
「陛下、ちょっと失礼します!」
私はアルフォス女王陛下を両手で、所謂「お姫様抱っこ」で抱きかかえるとそのまま処刑台から身を躍らせてVTOLの主翼の上に飛び降りた。続いて同じようにミキを抱きかかえたマスターも乗り込む。
ゼノスがドアから差し出した手に掴まってアルフォス女王陛下はVTOLのキャビンに乗り移った。続いて私とマスター、ミキもVTOLに乗り移る。
上空ではマスコミの航空機がこの一部始終をずっとホログラフの中継をしているらしい。
警戒にあたっているフリゲート艦もドリスコフがいる事に加えて同士討ちと混乱を恐れて発砲してこない。
「みんな乗ったわね?掴まって!」
機長席のシャフリラがスロットルを目一杯押し込むとVTOLの魔導エンジンが唸りをあげて機体は一気に上昇し離脱を始めた。
窓から下を見ると混乱に乗じて衛兵やメイド達が王城から次々と出ていくのが見えた。
救出が上手く行ったら王城から離脱しろと伝えておいたのを実行しているようだ。
このまま王城に残っていても現状では反乱軍に掴まって拘束されてしまうだろう。
それにさっきの魔導機兵への射撃を見てもナカザワ大尉達の技量、練度共に高かったから彼らの脱出も心配ないだろう。
「ディメンションゲートで追跡をかわします」
麻衣が副操縦士席からみんなに伝えると間もなくVTOLは魔法陣に突入し王城を後にした。
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