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#12 アルフォス女王救出作戦

 #12 アルフォス女王救出作戦



 昶 Side


 「ここから行けば陛下の寝室のクローゼットに繋がります」


 ゼノスの案内であたしと亜耶は薄暗い地下通路を進んでいく。


 「なるほど・・・ゼノスさんもここから脱出してきたのね」

 「左様でございます・・・・・しかし陛下はあの場で捕らえられたままであります故・・・・・」

 「大丈夫よ、私達が必ず陛下をお連れします」


 心配そうにしているゼノスに亜耶が優しく声をかける。


 「お願い致します・・・・・この先が階段を登りきってすぐの扉を開けるとそこが陛下の寝室となっております」

 「それにしても・・・・・王城に紛れ込んでも怪しまれない服装がいいとは言ったけどもう少し違うのは無かったのかしら」


 あたしはフリルの付いたスカートを見ながらため息をつく。多分あたしには似合わない。

アルフォス王女お付きのメイド達が着用している物と同様のスカートの丈が膝上くらいまでのメイド服を今は着ている。


 あたしと亜耶は顔を見合わせると普段とはまるで違う自分の服装にため息をついた。

 何故に「メスデック」の主人がこれを持っていたのかが謎である。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 「可愛らしくて大層お似合いでございますよ、若桜様も涼月様も」

 「うー・・・・・とにかくここまででいいわ、ゼノスさんは引き返してシャフリラや麻衣と合流して、あとは予定通りにお願い」

 「かしこまりました・・・・・では念のためこれをお持ちください」


 ゼノスが主神ラティスと帝国王室それぞれの紋章が彫られたペンダント型の護符をあたしと亜耶に握らせた。


 「これを見せれば監禁されているアルフォス女王陛下も、それ以外に陛下のために働いている者達も信用してくれるはずでございます・・・・・ではご武運を」

 「ありがと・・・じゃあアルフォス女王陛下を救出してきます」


 あたしと亜耶は護符のペンダントを付けると駆け出した。



 亜耶 Side


 私とマスターはアルフォス王女の寝室からこっそり出るとゼノスに教わった通り地下の牢屋のあるエリアへと進んだ。

 私達二人は出来るだけ目立たないように髪は短く後ろにまとめた状態だ。


 これまでに何人かの王城で働く人達や反乱兵とすれ違ったが誰何されることは無かった。クーデターは勃発したばかり、オマケに今日いきなりのアルフォス女王の処刑命令と重なり混乱しているのが見て取れる。


 通路の角から奥の方を伺うと通路の向こう側からメイドが一人、昼食を乗せたワゴンを押しながら元気なさそうに歩いてきた。


 私とマスターは手近な部屋の入口に身を隠し、そのメイドが目の前を通りかかった瞬間に後ろからメイドの口を塞ぎ、首に腕を巻き付けて部屋に引きずり込んだ。引きずり込んだのは物置になっている部屋だった。


 メイドを押さえながら後ろ手にドアを閉める。マスターは太腿のホルスターから銃を出すとセーフティを外してスライドさせて銃弾を装填している。流石に今回は愛用のスナイパーライフルは隠せないので持ってきていない。


 「んんーっ!!!」


 じたばたと暴れるメイドの口を塞いだまま私はゼノスから預かっていた護符のペンダントを見せながら言う。


 「静かにして、私はゼノス侍従長にアルフォス女王陛下の救出を依頼されて忍び込んでるの、手荒な真似してごめんなさい」


 メイドは驚いた表情をしながらもこくこくと頷いた。私は口を塞いでいた手を離した。

 マスターが小声でメイドの少女に訊く。


 「アルフォス女王陛下の居場所はわかる?」

 「・・・・・いえ、わかりません、でも地下の牢屋にいるのはあの時に抵抗しようとした陛下お付きの衛兵達だけです」

 「陛下の居場所は不明か・・・・・そりゃわかるようにするわけないか、まいったなあ」

 「確実なのは処刑前に庭にある特設の処刑台まで連れてこられる時くらいしかわかりません」

 「そのタイミング・・・・って言うか正確な時間は知らされてるの?」

 「ええと・・・あと二時間、今日の午後三時きっかりに処刑台にあげて、ドリスコフの演説の後にギロチンによる処刑を行うそうです・・・・・昨日私がドリスコフに夕食を持っていった時に自らそう言っていたので間違いありません・・・・でも」


 自分の腕時計を見ながらメイドが答えた。どうやら号外に書いてあった情報は正しかったようだ。


 「女王陛下のいる場所の何か手がかりがあるの?」

 「陛下の居場所はわかりませんがドリスコフの部屋と指揮所代わりにしているホールならわかります」

 「ねえ、ドリスコフは目立ちたがり屋に思えるんだけど貴女は間近で見てどう思う?」

 「その通りだと思います、今朝も陛下に散々嫌味を言ってきたのを自慢していました・・・・器の小さな男です」

 「じゃああたしはドリスコフに接近するよ、目立ちたがり屋なら多分直接女王陛下を外の処刑台まで連れてきて自分の威光を見せようとするだろうしね」

 「貴方は・・・ええと・・・」

 「私はミキって言います」

 「私は魔法省の涼月亜耶でこっちは相棒の若桜昶・・・・・ミキさん、貴女はこの後どうするの?」

 「・・・私も含めたメイド全員がドリスコフに処刑の瞬間は立ち会うように命令されています」

 「じゃあミキ、ちょっとお願いがあるの」


 マスターがミキの眼を見ながら言った。


 マスターとはアルフォス女王陛下を探す為に一旦別れた。

 私は衛兵達を開放するために地下牢へと向かった。


 「不愉快な空気・・・・・」


 食事の載ったワゴンを押しながら思わずつぶやきが出る。薄暗く、湿気の多い通路をあたしは歩いていた。

 ここは地下の牢獄につながる通路である。牢獄のある大きな空間の入口のドアの隙間から照明の光が漏れている。ここに昼食を運ぶ予定だったミキと入れ替わってもらったのだ。

 私はドアをノックした。


 「昼食をお持ち致しました」

 「今開ける、入れ!」


 反乱兵がドアを開けると私はワゴンを押しながら部屋に入った。

 ・・・・見張りの反乱兵は二人、騒がれないように倒さないとちょっと面倒な事になるな。

 牢獄の一番大きい部屋に陛下お付きの衛兵達が閉じ込められていた。


 「面倒だ、お前がこいつらに食事を渡してやってくれ」

 「かしこまりました」


 私は素直に頷くと閉じ込められている衛兵達に昼食を配り始めた。

すぐに牢に閉じ込められていた隊長らしき衛兵に小声で聞かれる。


 「見覚えの無い顔だな、君は誰だ?」

 「ゼノス侍従長にアルフォス女王陛下の救出を依頼されました」


  例の護符が見えるようにしながら小声で答える。

  隊長は無言で頷いた。

  衛兵達全員に食事を配り終えた時に見張りの反乱兵が私の肩に手を回してきた。


 「ほう、お前さん綺麗だな、どうだ少し俺と遊んでいかないか?」


 そのまま後ろから抱きついて来ると無遠慮に両手で私の胸を触ってくる。

 恥を知れと衛兵達の怒りの声が上がる。


 「ふん、牢に放り込まれるてめぇら衛兵と違ってなぁ、ドリスコフ側に付いた俺は勝ち組なんだよ!」

 「遊んであげてもいいですよ・・・・私よりも強ければね」

 「なんだと?」


 次の瞬間、私は反乱兵の脛に踵蹴りを食らわせる。


 「ぎゃあっ!」

 「やっ!」


  脛の痛みに悲鳴を上げた反乱兵の腕を取ると短い気合と共に投げ飛ばす。


 「うおっ?」


挿絵(By みてみん)


 「気安く私に触るな!」


 起き上がりかけた所をそのまま回し蹴りで反乱兵の顔面を手加減無しで蹴り飛ばした。

 あっけなく反乱兵は気絶した。ふざけるな気持ち悪い。


 「お話になりませんね、もっと鍛えてから出直して下さい」


 衛兵達からざまあみろと歓声が上がった。


 「貴様!!何者だ!」


 もう一人の反乱兵が銃を抜こうとする。

 私はスカートの中、太腿のホルスターに付けていたダガーを振り向かずに後ろへ投射、そのダガーは一人の反乱兵の喉を貫いた。あまり大声を出されては困る。

 反乱兵は銃を持ったまま倒れた。

 衛兵達がどよめく。

 私は倒れた反乱兵から鍵束を取り上げると牢屋の鍵を外した。


 「すまんな、助かったよ・・・・君は?」

 「私は魔法省調査部の涼月少佐です、さっき話した通りゼノス侍従長にアルフォス女王陛下の救出を依頼されました。もう一人の仲間が今はそちらに向かっています」

 「失礼しました、私は衛兵部隊隊長のナカザワ大尉です・・・・女王陛下の消息はわかりますか?」


 私はナカザワ大尉にこれからの私の救出作戦の予定とミキに聞いたアルフォス女王陛下の処刑の予定時刻を伝えると同時に救出時に反乱兵を分断させるための撹乱を依頼した。


 「わかりました、その通りに動きましょう」

 「お願いします」


 その時、衛兵の一人が倒れた。


 「舐めやがって、ぶっ殺してやる!!」


 倒れた衛兵の後ろには帝国軍の軍服を着たライカンスロープ・・・狼男が立っていた。軍服を見るとさっき回し蹴りで張り倒した奴らしい。


 「ふうん・・・・・狼男でしたか」

 「お前の言うとおり俺は強いぞ、命乞いするなら今のうちだ」

 「お断りします、本当に強い人はそんな事言いませんよ」

 「ほざけ!銀の武器など持ってはいないだろう、ろくな武器も持たずにどうやって俺を倒すつもりだ、衛兵ともども全員あの世に送ってやるからそのつもりでいろ!」


 衛兵達は全員が武器を取り上げられたままの丸腰だ。銀の武器どころか素手ではお話にならない。戦力にはならないと思っていいだろう。しかも狼男の後ろにはさっき張り倒した時と違って今は牢から出た衛兵達がいるから銃も迂闊に撃てない。

 おまけにラピッドファイアみたいに破壊力の大きな魔法は他の反乱兵に勘付かれるし、天井が低いからビットを飛ばすのも無理がある。しかも飛び道具系の魔法は銃と同じように衛兵を巻き込む危険がある。


 「うおおおお!」

 「やっ!」


 受け流しつつ狼男が私をその鋭い爪で切り裂こうと伸ばしてきた右腕を掴んで再び投げ飛ばし狼男は転がった。


 「隙だらけです、口だけですか?」

 「この野郎!」


 狼男が襲いかかってきた。

今度は投げ飛ばされまいと一定の距離を置きつつ次々と両手の鋭い爪で更に攻撃をしてくる。

 私はステップバックしながら上半身でかわすが狼の運動能力だけあって流石に動きが早く避けるのが精一杯だ。

 せめての魔力のかかった剣が使えれば、と思うが今悔やんでもどうしようもない。メイド服じゃアサルトロッドを持ち歩くわけにもいかないし。


 「どうした、避けるだけしかできないのか!」

 「・・・く・・・・・」

 「お前は嬲り殺しにして犯してやるから覚悟しておけ」


 じりじりと追い詰められて少しずつ後ろに下がる。


 「・・・あっ!」


 後ずさりした時に私がさっきダガーの投射で殺した反乱兵の死体に私の足が引っかかった。


 「喰らえ!」


 バランスを崩した私の脇腹に狼男の蹴りが命中した。


 「ぐぅっ!!!」


 私は蹴り飛ばされて転がり、牢の鉄格子に身体を打ち付けた。

 ゴキッという嫌な感触。


 「・・う・・・!」


 痛みですぐに起き上がれない。今ので肋骨が折れたかもしれない。


 「このままとどめを刺して楽にしてやる!」


 狼男がジャンプして飛びかかってきた。

 しかし、とどめを刺されたのは狼男だった。倒れたまま私が突き出した右腕から出現した魔力の粒子で輝く剣が狼男の左胸を背中まで貫いていた。


 「・・・なんだと・・・・・」


 アストラルソード、腕から魔力を放出させて魔力の粒子の剣を一時的に発生させる軍用魔法である。魔法攻撃だから当然狼男のような銀の武器や魔法攻撃しか通用しない相手にも有効である。

 ただし金属製の剣のように物理的な実体が無いから剣と剣のつばぜり合いとかはできないし持続時間も短いのが欠点である。


 「貴様・・・・魔法兵か・・・」


 帝国軍の軍服を着た狼男は吐血しながらつぶやくとそのまま倒れて絶命した。

私は鉄格子に手を突いて立ち上がる。途端に脇腹に鈍い痛みが走り少しよろけそうになった。


 「うっ・・・・・!」

 「大丈夫ですか!ちょっと待って下さい・・・カイン!ちょっと頼む」

 「わかりました」

 「・・・・?」


 ナカザワ大尉にカインと呼ばれた主神ラティスの神官用の護符を身に着けている若い衛兵が私の脇腹に手を当てると治癒魔法をかけてくれた。

 私も自分で治癒魔法を使おうとしたのだがナカザワ大尉に魔力をこの先のために温存しておいてくださいと言われてしまったので素直に厚意を受けることにした。ありがたい。


 「ナカザワ大尉、あとはさっき話したようにお願いします」

 「任せてください」


 そして私はナカザワ大尉に女王陛下救出作戦に付いて詳しく伝えた。

 腕時計を確認すると午後二時、タイムリミットまであと一時間。



 昶 Side


 あたしはミキに連れられてドリスコフの執務室へと紅茶のセットの乗ったワゴンを押していた。


 「この部屋です・・・・・ドリスコフ閣下、お茶菓子をお持ち致しました」

 「うむ、入れ」


 私が扉を開けるとそのままミキがワゴンを押して執務室に入りその執務机で偉そうにふんぞり返っているドリスコフの前に紅茶とお茶受けのお菓子のセットを並べるとティーポットから慣れた手つきで紅茶を淹れる。


 「・・・・ん?君は新人かね?」

 「はい、まだ研修中ですが宜しくお願い致します」


 ミキが更に言葉を続ける。


 「実は彼女は私の従姉妹で歴史を専攻しておりまして・・・それでどうしても歴史が変わる瞬間を見たい、歴史を自分の手で変えることの出来る人物をこの目で見たいと言うもので・・・・忙しい時に申し訳ありません」

「あの・・・ご迷惑でしょうか、閣下」


 あたしはしおらしく両手を胸の前であわせてうるうるとした眼でドリスコフの顔を真っ直ぐ見つめる。

嫌だなあ・・・・なんであたしがこんなヒキガエルを伸ばして太らせたような不細工なオッサンのツラを見つめなきゃならんのだ。ちっ。

 とは言えこいつが目立ちたがり屋で無駄に自尊心を満たしたいタイプなら間違いなく何らかの反応があるはずだ。


 「おおおおお・・・・・そうかそうか、歴史の変わる瞬間を、歴史の証人になりたいのか君は」

 「・・・はっ、はい!」


 いやいやいや近い近い近い。オマケにチョロい。

あたしは亜耶ほどの美人じゃないけどそれなりに自分の容姿には自信がある。が、そんなに乗り出して顔を近づけるな。もう少しでドン引きするどころか一発ぶん殴る所だった。


 「よし。では時間になったらここへ来なさい、そしてワシと女王陛下・・・・いや「元」女王陛下の後ろを付いてきなさい。ワシの演説とこの国の歴史の変わる瞬間を見せてやろう」

 「あ、ありがとう御座います閣下!」


 ・・・・・・・・・軍務大臣ともあろう者がチョロ過ぎないか、オッサン。まああたしを単なるメイド、学生と思い込んで油断してるってのもあるんだろうけどさ。

もうちょい歳相応に落ち着けや。はあ。


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よろしくお願い致しますヽ(´▽`)/!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです!昶ちゃんと亜耶ちゃん、カッコイイ。 その前にメイドのイラストがすごくかわいいです! [一言] 亜耶ちゃんの戦闘シーンがリアルでよかったです。 ビット、使えないのに、すごい。 や…
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