#11 作戦会議
#11 作戦会議
昶 Side
「で、行き先はやはりさっきのメモの場所?」
麻衣は魔法省で私が手渡したメモを見ながら聞いた。
「そうよ」
「じゃあ涼月少佐、ナビはお願いするわね」
ハンドルを握るシャフリラが言った。
目的地はパルマポートの港湾エリアの、帝国軍の空中艦軍港から離れた民間用の飛行船港の外れに傭兵部隊用の空中艦埠頭が複数存在する。そこからほど近い場所の歓楽街にあるバー「メスデック」である。
メスデックと言うのは船の構造に関する専門用語でダイニングルームを指す言葉である。そこからも客に船乗りが多いことが窺い知れる。
シャフリラにこの前聞いた話なのだが彼女が魔法兵として以前傭兵部隊に所属していた頃に乗り組んでいた空中強襲揚陸艦「アトロポス」の母港がパルマポート軍港でよく寄っていたらしくそこの主人と顔なじみなのだそうだ。
反乱軍が検問をしそうな道路を迂回しつつ移動したために「メスデック」に到着したのは既に夕暮れで薄暗くなる時刻だった。
亜耶は髪が目立たないように途中で麻衣に買ってきてもらったパーカーを着てフードを目深に被ったまま馬車から降りるとそのまま「メスデック」に入った。それに続いてあたしも入っていく。
「こんにちは、マスター」
「・・・・・ん?どなた?」
「久しぶりね、二年ぶりかしら」
シャフリラはフードを下ろすと改めてマスターに挨拶した。
「おー、シャフリラかまだ生きてたか」
「・・・?」
「さっきニュースで魔法省の占拠を反乱軍がした時に武装して抵抗した職員を射殺したってやってたんだよ」
「ああ、それならニセの無線で一芝居打ったんですよ、それに魔法省に最初に突入、占拠した反乱軍の一個小隊はこの2人が全滅させましたから今あそこを占拠してるのは別の部隊です」
「魔法省に転職しても腕は落ちてないな・・・ところでそちらの銀髪の美人さんと綺麗な黒髪の狙撃手さんと可愛い魔導士さんは同僚かい」
主人があたしと亜耶と麻衣を見ながらシャフリラに聞いた。うむ、見る目があるなこの店の主人。
「初めまして、若桜昶です。この銀髪の娘があたしの大切な相棒の涼月亜耶で魔法兵なの」
「私も同じく魔法省調査部の新條麻衣少佐です・・・よろしくお願いします、すごかったんですよー、60人の反乱兵を亜耶さんと昶さんが全滅させるまで30分もかからなかったんですから」
「大した腕じゃないか・・・ほれ、これで顔についた返り血を拭いとけ」
主人がみんなにおしぼりを渡してくれた。
「ありがと、みんな腹ペコだから適当な物をお願い」
「あいよ、シャフリラはいつも食ってたのでいいな」
あたし達は適当なテーブルに座ると食事の注文をした。今日は朝食以降何も食べていなかったからみんな腹ペコだ。
「それで、こっちのみんなの反応はいかがなんですか?」
シャフリラが以前ここでよく食べていたという彼女オススメの特製パスタを調理しながら質問に主人が答える。
「ここに来る連中は経験豊富な奴が多いからね、落ち着いたもんだよ。ただドリスコフに好感持ってる奴は少ないかな」
「傭兵の仕事が増えそうな気もしますけどそうでも無いんですか」
あたしは疑問を口にした。
「理由は単純よ」
シャフリラがあたしの疑問に答える。
「いくら給料になると言ってもドリスコフの為に命を張るのはまっぴらだって事よ」
「なるほど、そりゃそうか」
「で、お前さん達これからどうするんだ?どっちみちシャフリラが生きてるのはすぐバレるぞ」
「そうですね・・・今は「アトロポス」に頼ろうかと思ってます、古巣ですし」
「「アトロポス」が戻ってくるのは一週間後だ、それまでウチの空き部屋貸してやるから休んどけ・・・そうだ、今回の一件絡みで脱出した冒険者二人とその家族一名がいるんだが話を聞いてみるか?」
それは気になる。
「ぜひとも話を聞いてみたいわね」
シャフリラが即答した。
それは見知った顔だった。
マスターに呼ばれて不安そうな表情で二階の部屋から降りてきたのはライルとアスティ、それに上品な雰囲気の初老の男性だった。
「あれ?ライルにアスティ?」
「え?どうして昶と亜耶がここに?!」
アスティが眼を丸くして私達3人を見た。
「あー・・・・大方メデューサシステム関連の事を知ってそうだから始末されそうになったとかそういう事ね」
「ええまあ・・・・・実はそれ以外にも理由があるんですがこっちは私の祖父のゼノスです」
アスティが初老の男性を紹介した。
あたし達はそれぞれ簡単に挨拶をした。
アスティの祖父というお爺さんは(と言っても60才くらいだが)私達3人に名刺を渡してくれた。それは驚くべき肩書だった。
「え?アルフォス女王の侍従長さん??」
「はい、今朝のクーデターの時に女王陛下に「お前は逃げて今後の対策をしなさい」と言われ逃がされました、そして孫のアスティとそのご友人と合流して今ここにおります」
「でもよく王城から脱出する事が出来ましたね」
「私と陛下しか知らない脱出用の通路がございますので・・・・ですが陛下は未だに反乱軍共に囚われたままとなっております」
「私達は今朝のクーデターの直後に職場・・・魔法省が反乱軍に突入・占拠されて脱出して来ました・・・囚われたままということは御存命なんですね」
「はい・・・・・ですがドリスコフは陛下の事を心良くは思っておりません故、どんな目に合わされているのかが・・・・」
「確かに帝国軍に対する考え方一つ取っても根本的にお互いが受け入れられるような考えじゃないですもんねえ」
麻衣が紅茶を飲みながらうんうんと頷く。
「そこで、です。皆さんにお願いしたい事がございます」
「嫌よ」
あたしはゼノスの言葉を全部聞かずに即答した。
「・・・・・まだ何も言ってないわよ」
アスティが不満そうに言った。
「アルフォス女王を救出して欲しい・・・・でしょ?」
亜耶があたしの言葉の後を継いで言った。
「・・・まあその通りなんですが」
「装備も情報も、何も無し。オマケに王城は敵だらけでトール級戦艦の51cm砲が常時狙っているかもしれません・・・・死にに行くのと同じですよアスティ、貴女にだって理解できるでしょう」
亜耶が冷静に畳み掛けた。
「・・・でも皆さん現在は賞金首になってますよ?」
「へ?」
これを見てくださいとライルが示した号外の記事曰く。
シャフリラと亜耶は生死を問わず。あたしと麻衣は生死を問わずでは無いものの一生遊んで暮らせて豪邸も買えるくらいの金額が賞金として掛けられていた。
「現状で賞金首の解除は不可能だと思いますよ?」
「・・・・・だからアルフォス女王を救出して賞金首を正当な政府として否定して頂く、と?」
シャフリラの言葉にライルが頷く。
「このまま賞金首の人生が永遠に続くのはどうかと思うんだけど?」
「・・・・・う・・・・・・」
「それに、祖父がかなりの情報を持っていますからそうそう不利な潜入救出作戦にはならないと思いますよ」
「・・・・・・・・・・・・」
色々と、ああでもないこうでもないと今後どう動くべきなのか話し合ったものの疲労しきっていたあたし達は結局結論を出せずにその日は早めに寝て休むことになった。
翌朝、サンドイッチと紅茶の朝食を食べているとアスティとゼノスの二人が血相を変えて店に降りてきた。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
慌てすぎて階段から店に入る時に転びそうになったアスティに呆れて主人が聞いた。
ゼノスも明らかに顔色を変えている。
「と、とにかくこれを皆さんご覧になってください!」
ゼノスが号外をあたし達に見せる。
その号外の記事にあたし達は驚いた。
「アルフォス=ラーズ女王のギロチンによる処刑が明日の午後三時に決定?!」
記事の内容に麻衣が素っ頓狂な声をあげた。
「待ったなしで自分の権力を誇示したいのかしら・・・・・まるで子供だわ」
あたしはドリスコフへの嫌悪感を隠さずに吐き捨てた。
「帝国軍の動きは?クーデターに参加してない部隊や貴族達の部隊はどうしてるかわかる?」
「俺の情報網でもあまり詳しいことは分からないが貴族の直属の騎士団の部隊、それに帝国軍の空挺部隊や水陸機動団みたいな連中はすべての部隊が基地ごとクーデター部隊に取り囲まれて身動き取れないらしい、なんでも連中の基地近くに進出しているクーデター側の空中艦隊がそれぞれ張り付いて主砲で威嚇しているそうだ」
「正規軍によるアルフォス女王陛下救出作戦は絶望的となりましたな・・・・」
ゼノスががっくりと肩を落とした。
「傭兵部隊はどうですマスター?」
シャフリラが主人に聞く。
「一番近い傭兵部隊は強襲揚陸艦「アトロポス」だが戻るまで最大速力でもあと二日はかかるから無理だ、それに他の強襲作戦が得意な傭兵の連中はドリスコフに干渉されるのを嫌ってみんな離脱しつつあるか奴の監視下にある。今すぐアルフォス女王陛下の救助作戦を行える部隊は現状では無いと考えていいだろうな」
「・・・・う・・・・・」
自然とみんなの視線があたしと亜耶に集まる。
「・・・・・もう!なんで私はこう貧乏クジが多いんだろ」
「・・・・・同感です」
あたしはやれやれとため息をつき、亜耶は額に右手をあててため息を付きながら言った。
「やってくださいますか!」
感極まったゼノスがあたしの手を掴んでぶんぶん上下に振る。
「いや、あの・・・ゼノスさん、わかりましたから・・・・ねえ、これからあたしの言う物を用意できる?」
シャフリラに訊くと彼女は主人に目配せした。
「任せとけ、戦艦とか空母とか言わん限りは見つけて用意してやる」
「じゃあ・・・・・」
あたしは必要な物の手配を主人に頼んだ。
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