#10 反乱と脱出 その3
#10 反乱と脱出 その3
亜耶 Side
「みんな大丈夫?」
マスターが拘束されている職員たちに声をかける。
「大丈夫だ、怪我をした職員はいない」
今朝挨拶をした総務課のおじさんがすぐに答えた。
「・・・よかった、みんな無事で」
「知ってはいたが凄いな、連中が来てからまだ30分しか経ってないのにあの人数をあっという間に全滅させるとは」
「・・・・・私はこれくらいしか能がありませんから」
さっき三階の床もろとも落下して死んだ反乱兵の隊長の死体を探って手錠の鍵を見つけると総務課のおじさんから手錠を外し始めた。
このフロアにはまだ僅かな殺気を感じる。
「動かないでください、どこかにまだ一人います」
小さな声でおじさんに言った。
「わかった」
私はわざと殺気に気付かないふりをして無防備に背中を見せる。あと一人。
まだ手錠を付けられたままの女性職員が小さくあっと声を上げた。
「甘いですよ」
私はそうつぶやくと同時に振り向きもせず後ろにダガーを投射した。
ぎゃっという小さな悲鳴と共に私を一階の柱の影から撃とうとしていた、ここを占拠していた反乱兵の最後の一人の眉間にダガーが刺さって倒れる音がした。
「気配だけでよくあそこにいるってわかったなあ」
総務課のおじさんが感心しながら言った。
「・・・・・私は人を殺した数が多いからその分殺気がわかるだけですよ」
自虐的に私は言った。その時、反乱兵の隊長の死体の無線機からコール音が鳴った。
まずいな。どうしよう。
「・・・・・私が誤魔化そう、ちょっと無線機を貸してもらうよ」
総務課のおじさんが言った。
「え?・・・どうぞ」
私が無線のマイクをおじさんに渡すと反乱軍の指令らしき声が聞こえた。
『どうした、定時連絡がないぞ、何かトラブルか』
「先程戦闘が発生しそのために連絡が遅れました」
おじさんが答える。
『その声は隊長ではないな、貴様は誰だ、隊長はどうした』
「隊長は先程の戦闘で戦死されました、今は自分が代わりに指揮をしています」
おじさんに私は自分の首を斬る動作のジェスチャーをした。おじさんが頷いた。
『・・・そうか、戦闘の経過はどうなっている?』
「先ほど最重要目標の涼月亜耶をロケットランチャーで射殺、それに伴う魔法省庁舎の三階、二階の崩落に巻き込まれて死亡しました、冒険者証の確認も取ったので間違いありません」
『そうか、よくやった、予定通り魔法省の占拠を継続させるための魔導機兵1機がそちらに向かっている。間もなく到着する予定だ、そのまま警戒を続けろ』
「了解しました、以上終わり」
おじさんが通信を切った。
「・・・随分と手慣れているんですね」
「若い頃に通信兵をしていた事があってね」
「なるほど・・・ここはもう駄目でしょうから皆さん逃げてください」
「そうだな、お言葉に甘えさせて頂くよ・・・・・みんな、魔導機兵が来ないうちに逃げるぞ!」
私が庁舎の外に反乱兵がいないのを確認すると職員たちが次々に魔法省から避難していった。庁舎の外には魔法省に書籍を搬入するための台車やら公用車がひっくり返されたりして反乱兵に荒らされていた。
最後に総務課のおじさんが無駄死にするなよと言って出ていった。
反乱部隊の魔導機兵が到着したのはその直後だった。私は魔法省の向かいの建物の影からそれを見ていた。
オリーブドラブに塗装された帝国陸軍の「アレス」という名称の魔導機兵のパイロットは魔法省の庁舎から味方部隊の返事が無いのを不審に思ったのだろう。
頭部のセンサーで庁舎内のスキャンを始めた。頭部にあるカメラの周りのセンサーがチカチカと魔力によって点滅し始めた。
マスターは柱の陰から狙いを頭部の魔導通信アンテナ兼センサーユニットに照準を付けると狙撃した。その銃弾はアレスの頭部に命中してユニットを粉々に破壊した。
アレスはすぐに体勢を立て直すと私の方に向き直る。マスターと私はアレスの眼が使えないうちに駆け出す。
サブカメラに切り替えたらしいアレスが小型のランチャーから対人用のグレネードを発射した。
「くっ!」
マジックウォールで間一髪防ぐ。グレネードは魔法陣に阻まれて爆発した。
私はその隙にアレスの脇を駆け抜けた。
「・・・え?」
アレスがぐらりと傾いた。
アレスが私の駆け抜けた方向に向きを変えようとした瞬間、何故かよろけて転倒したのだ。
その足元を見ると魔法省の前に転がっていた書籍搬入用の台車を踏んで脚を取られて転倒したらしい。
「おじさん!」
魔法省の建物の影に隠れていた総務課のおじさんが私達の窮地を見てアレスの足元に台車を蹴飛ばしたのだ。
その時、魔法省の向かいの建物からラピッドファイアが飛んでアレスの右手に構えられていた大型のライフルが爆発した。
向かいの建物のテラスにシャフリラの姿が見えた。一足先に脱出に成功していた彼女が援護してくれたのだ。
援護のお陰でアレスの真後ろに回り込む。
「こいつっ!!」
私は背中の魔導エンジンのノズルにランケンダートの魔法を連続して叩き込んだ。あっという間にエンジンノズルがランケンダートの焼夷効果で赤熱する。
エンジンがオーバーヒートしてアレスの動きが極端に鈍くなった。
エンジンの自動消火システムが作動し始めてノズルの周辺から消火剤が噴出され始める。
私の魔法じゃこれ以上のアレスの破壊は難しい。
私は攻撃魔法の緻密な制御は得意だが大ダメージを与えるような魔法とは相性が悪くて上手く扱えない。
「私にできるのはここまで、あいつが動けないうちに逃げてください・・・・でもよくあんな事できましたね」
「いやいや・・・あんなにうまい事転んでくれるとは思わなかったよ」
「ありがとうございます、助かりました」
「どっちにしてもこいつが動けるようになる前に離れた方が良さそうだね」
「そうですね、早く離れた方が・・・」
次の瞬間、アレスの周りの空間が爆発的に輝いた。
「きゃあっ!!」
その破壊的な光が終息するとそこにはついさっきまでアレスだった残骸が横たわっていた。
驚きのあまり私は呆然とした。ストラトスファイア。はるか上空から魔力の粒子によす特大の破壊の光芒を照射して目標を仕留める軍用魔法。
私にもシャフリラにもこんな大ダメージを与えるような魔法は使えない。マスターはほぼ射撃専門だから同じくこんな魔法は使えない。
「亜耶―!!大丈夫だったー??」
麻衣の大きな声が聞こえた。魔法省の地下にある倉庫の入り口から麻衣が姿を表した。
「麻衣!!?まさか今のストラトスファイア・・・!」
「うん、私がやったの」
えへ、と麻衣が笑った。
「私に構わず逃げろって言ったのに・・・・!」
「あのね、入口の前に反乱兵がいて逃げられなかったのよ、あ、シャフリラ部長!」
「みんな無事だったみたいね、総務部長も大丈夫でしたか?」
「ああ、若桜少佐と涼月少佐が反乱兵達を全員倒してくれたお陰でね、私の部下もみんな無事だよ、ありがとう・・・君たちはこれからどうする?」
「あたしは涼月少佐と一緒に行動します、シャフリラ部長と総務部長さんは?」
「私はパルマポートに行って傭兵時代の仲間に頼ろうと思っています」
「私は家に戻って妻と子を連れてラティスポリスから離れさせて貰うよ、これでしばらく魔法省は機能不全になるだろうからね」
「わかりました、ご無事で」
私達は反乱兵達が乗ってきた車を奪って総務部長を彼の家の近くまで送るとそのままパルマポートへと向かった。
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