#9 反乱と脱出 その2
#9 反乱と脱出 その2
亜耶 Side
魔法省調査部のオフィスは五階建ての魔法省庁舎五階にある。私とマスター、麻衣は階段を駆け下りる。一階から五階までの大きな吹き抜けの所まで来たときだった。
五階の吹き抜けからそっと覗くと60人ほどの帝国軍の正規兵(とは言ってもこの場合は反乱兵だが)が正面エントランス広場にいるのが見えた。
「予想以上に動きが早いな・・・とにかくみんなも助けないと」
マスターが集まっている反乱兵を見ながら考え込む。
広場の中心のあたりには既に投降させられた魔法省の顔見知りの職員達が反乱兵に小銃で小突かれているのが見える。その周りには反乱兵達が突入してきた時に荒らされた書類だのそれを納めていた本棚だのがひっくり返されたりして散乱していた。
「様子はどう?」
私は身を乗り出して下を覗こうとした麻衣の襟首を掴んで引き戻して伏せる。麻衣がうげっと声をあげる。
「見つかっちゃうから静かにして・・・・・ドリスコフは真っ先にここを抑えるつもりか、大方ここにある魔法の資料の独占が目的なんだろうけど」
まだ一階にいる敵からは五階で伏せながら吹き抜けの下方を伺う私達は見えない。
「もう来ちゃったの?」
ひそひそ声で麻衣が聞いた。私は無言で頷く。
「脱出できるの?あれ相手に・・・・あれだと一個小隊はいるよ亜耶」
「あの程度なら大丈夫」
私は答えるが予想以上に魔法省の占拠が早かったためにどう脱出するかのプランが固まっているわけではない。
少しずつ誘い出して各個に潰すしかないなと考えていると一階から敵の隊長らしき声が聞こえてきた。
「いいかお前ら、この建物の占拠はほぼできているがまだ一番やばい奴が見つかっていない!」
反乱兵達がどよめく。
「こんなお役所にどんなやばい奴がいるんです隊長」
まだ若い兵が声を上げた。ついさっき魔法省の職員達を魔導銃で小突いていた奴だ。
「貴様らこれを見ろ」
隊長が一枚の大きな写真を兵達に見せた。
「まだ高校生程度の子供じゃないですか、それがどうだって言うんです隊長!」
「・・・・その高校生みたいな少女が魔法省調査部の涼月亜耶だ。この見かけでもレベル50でカテゴリーⅡの冒険者だそうだ。最重要目標で見つけ次第殺せとの命令がアフィッド大佐より出ている。レベル50を敵に回すと厄介だからな・・・他の者は貴重な情報源だ、拘束しておけ」
反乱兵達がどよめいた。
まあ予想はしていたが。
「亜耶ってば人気者だねー、さすがあたしの創造した娘♪」
「あまり嬉しいモテ方じゃありません・・・・・麻衣、私が囮になるからその隙にここから脱出してここに行って下さい」
私は伏せたまま麻衣に小さく畳んだメモを渡す。さっきオフィスから出る時にシャフリラから合流場所のメモを貰っていたのだ。
「そんな・・・!」
「あの人数相手に麻衣は生きてここを出られるの?」
「・・・・・無理だと思う」
私はにべもなく言った。
「決定ですね」
麻衣は泣きそうな顔をしている。
「あたし達ならこれくらいは何とか出来るから心配しないでいいよ」
「あの程度の人数なら大丈夫・・・・・私とマスターを信用して、麻衣」
「・・・・・わかった、どうすればいい?」
「麻衣はあそこの通風口の点検用はしごでタイミングを見計らって裏から逃げて、メモの場所で落ち合いましょ」
「うん・・・でも私にはどんなタイミングで地下から出ればいいのかわからないよ」
「簡単です」
「そうだね、多分すぐわかる」
マスターも察しているらしい。
「・・・・?」
「「大騒ぎになる」」
期せずして私とマスターの言葉が重なった。あとで聞いた話だがマスターお気に入りのハリウッドのアクション映画の名セリフらしい。
麻衣は頷くとフロアの端にある通風口の蓋を外すとその中に潜り込んで行った。
「さて、手加減無しで行くしかないかな」
私はマスターの言葉に無言で頷くと立ち上がった。
6人ほどの反乱兵達が階段を警戒しながら登ってくる。
「どなたかお探しですか?」
私はフロアの上から声をかけた。
反乱兵達が振り向く。
「・・・・・いたぞ!こっちだ!!」
私はすぐに身体をひるがえしてその場を後にして駆け出した。案の定、追いかけてくる足音の数が増える。
・・・・10人、いや12人くらいか。
反乱兵達が四階のフロアに着いた。口々にどこへ隠れた、徹底的に探せ、見つけ次第射殺しろ、とか聞こえてくる。
通路の角からコンパクトの鏡を出して向こう側を見ながら様子を見た。
「あの程度の人数ならこれでいいか」
私は魔法省調査部から借りた拳銃を適当な方向に一発撃った。
乾いた発射音が響く。彼らの動きを見る限り練度はあまり高くはない。連中の注意を引きつけるにはこれで充分だ。
「あっちだ!!!」
反乱兵達がこちらに駆けてくる音がする。
彼らが通路の角を曲がって出てきた瞬間に通路の照明を消す。反乱兵達の慌てる声が聞こえた。
私は彼らのいる場所に出力の手加減無しでエレクトリッガーを発動させた。反乱兵達の悲鳴が上がった直後に通路は静かになった。
12人の反乱兵は感電で全員即死だった。
「あと約50人・・・面倒ですね」
私は倒さなければならない反乱兵の人数を考えるとため息をついた。
三階のいくつかの部署が共同使用している大きなフロアで不意に魔力の気配を感じた。反乱兵の中に魔法兵がいる。
柱の影に身を隠していると次の瞬間、2個程ビットが飛んできた。
「!」
フォースフィールドの発動は間に合わない。私はとっさに剣にしたアサルトロッドでビットを斬り払った。
たった二個とはいえビットを使える魔法兵がいる。
敵の隠れている場所に見当を付けるとそこに適当に魔弾を飛ばす。
魔弾が飛んでいった場所が薄くオレンジ色に光り命中するはずだった魔弾は弾けた。フォースフィールドだ。これで敵魔法兵の場所はわかった。
私はタイミングを見て柱の影から飛び出して連続して魔弾を放った。その全てが弾き返された。走る私に次々敵の魔法兵が撃った魔弾と銃の光芒が襲いかかる。私は敵が狙いにくいように緩やかにスラロームするように駆けて敵魔法兵との距離を詰めた。
敵魔法兵が慌てて次の攻撃魔法の動作に入ろうとした時、私は机に手をついてジャンプするとそのまま反乱兵達がバリケードにしていた机を飛び越えて宙返りで魔法兵の背後に着地した。
「悪く思わないで下さいね」
敵魔法兵の首に背後から腕を巻き付け、首の急所をダガーで一突きして倒した。
一瞬敵の攻撃がやんだが、またすぐに左右から私に火線が集中する。
ステップバックで火線をかわすと机の影に転がり込む。攻撃してくる射線から見ても20人程度の人数は軽くいるだろう。
「一気にやるしか無いか、増援を頼まれても面倒ですし」
敵が左右から少しずつ距離を詰めてくるのがわかった。どうやら右から詰めてくる連中のほうが人数が少ない。机の影からダッシュすると左側の一団にビットを放って牽制しつつ左右両方の反乱兵達の目の前に大きな光球をそれぞれ発生させ、炸裂させると同時に柱の影に飛び込んだ。暴力的な光芒が反乱兵達に襲いかかった。
スタンライトニング。光球を破壊ではなく純粋な光エネルギーにのみ変換する目潰しだ。
私は柱の影から再び飛び出すと視界が奪われてパニックになった反乱兵達を剣で次々と斬り倒した。剣を使ったのは出来るだけ魔法は使わずに魔力は温存しておきたいからだ。反乱兵を斬った時に少し返り血を浴びてしまったが気にしてはいられない。
私が左の一団へ振り向くと同じく視界を光芒で奪われた左の一団全員の眉間に次々と銃弾が命中して連射して倒れるのが見えた。マスターの狙撃だ。
この部屋にいた反乱兵全員を倒し終わると部屋の隅の机の陰からマスターが出てくる。
「この部屋にはもう敵はいないみたいよ」
「次は二階ですけどまだそこそこ数がいそうですね」
倒した人数を数えてみると合計でほぼ30人。
占拠するために突入してきたのは60人位。あと30人倒さなければならないし、拘束されている職員たちも開放しなければならない。
二階に降りて吹き抜けの近くを警戒しながら移動しているとほんの僅かなカシャという音が聞こえた。
「!!」
私はとっさに吹き抜け柱の陰の部分に転がり込んだ。それと同時に銃の斉射がきた。
「あそこだ!撃て撃て!こっちに近づけさせるな!!重火器を使っても構わん!」
反乱兵達の怒鳴り声が聞こえた。まずいな、あまり魔力の消費はしたくはないんだけど。
一旦銃の斉射が収まった時に再び鏡で壁の影から覗いて人数を見ると三階から私に向けて吹き抜けの壁に17人ほどが並んで一斉射撃の構えをしていた。
ちょっと魔力の消費が多いけど仕方がないか。
私はまず少し威力を落としたディスインテグレイト、特定の対象物を破壊する魔法を吹き抜けの向こう側の二階にかけた。二階の壁や床に光の粒子が集まりボロボロになって亀裂が入った。
「どこを狙っている!!」
反乱兵達の嘲る声が聞こえる。
再度三階を吹き抜けから見上げるとロケットランチャーを持った反乱兵が三人ほど私を狙っていた。
「いいぞ、やっちまえ!!」
「あいつらの仇だ、ぶっ殺してやれ!!」
銃声と同時に彼らが構えていたロケットランチャーが次々に爆発した。
「な、なんだ?!?!」
「狙撃だ!みんな伏せ・・・・」
警戒を促そうとした反乱兵は全部言い終わる前にこめかみを正確に撃ち抜かれた。
「おい!お前たち援護に向かえ!」
「はい!・・うっ!」
一階の反乱兵が隊長らしき男の命令で二階へと階段に向かおうとしたのだが、その反乱兵が次々にマスターの狙撃で頭を撃ち抜かれて倒れる。
一階のエントランス広場から反乱兵の混乱する声が聞こえる。
「ディスインテグレイト!」
私は更にもう一度、今度は手加減無しでディスインテグレイトの魔法を発動させた。
三階で反乱兵が集まっているあたりの床にまた光の粒子が急速に集まる。すると床は無数の欠片に変化した。次の瞬間、反乱兵のいる床が一斉に崩壊して二階に反乱兵ごと落下していく。
だが私があらかじめ最初のディスインテグレイトで亀裂を入れておいた二階の床が支えられるわけもなく、三階、二階もろとも17人の反乱兵は盛大な悲鳴と共に床の崩壊に巻き込まれて一階まで落下した。
あれでは生きている者は一人もいるまい。これで反乱兵の人数は一階のエントランスで職員を拘束している連中だけになった。
「馬鹿な!!」
ロケットランチャーで私が確実に仕留められると信じていた一階の反乱兵達の驚愕の声が上がる。
反乱兵達が魔法省に突入してからまだ30分ほど。あっという間に生き残りは彼らだけになってしまったのだ。
私は二階の吹き抜けの手すりを飛び越えると一階で職員たちを拘束している反乱兵達の前に飛び降りた。
反乱兵達は突然目の前に現れた私の姿にパニックになり慌てて銃を向けようとする。
着地した私の前にいたのはさっき魔法省の職員たちを銃で小突き回していた奴だった。彼の表情が急速に驚きから恐怖の表情へと変わった。
「ひっ・・・!」
私はソードモードのアサルトロッドを抜く一挙動で彼の喉笛の急所を斬り払った。
「私は弱い人を武器で脅すような卑怯者が大嫌いです、あの世で反省してください」
冷たく言い放ってアサルトロッドを鞘に収めると反乱兵は首から血しぶきをあげて倒れた。私の顔に返り血がかかった。そのまま反乱兵達に顔を向ける。
彼らが破壊した正面入口から流れてきた風で私の銀色の長い髪がふわりと揺れた。
「さあレベル50と戦って死にたいのは誰です?・・・・・遠慮はいりませんよ?」
後ずさる反乱兵達に言いながらゆっくりと一歩踏み出した。
同時に私の周囲に淡く輝く12個の魔法陣が出現しビットがその中から現れる。
私の殺気に怯える反乱兵達から返事の代わりに返ってきたのは統制のまるで取れていない銃の斉射だった。
私は斉射と同時に跳躍すると体操選手のように空中で身体を捻りながらビットを飛ばした。
「ビットよ!あたれ!」
12個のビットはそれぞれ別々に誘導されて一瞬で私の前にいた反乱兵達全員の頭を貫き、私が彼らの背後に着地すると同時にばたばたと倒れた。
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