第17話
首の違和感に気づき、目を開いた。
「いった……」
慣れない環境で寝ていたからか、目覚めの気分はあまり良いものではなかった。セカイにせっかく紹介してもらった昼寝スポットなのに、何だか申し訳ない。
当のセカイはすーすーと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ていた。
どのぐらい寝ていたかはわからない。だが結構な時間が経っているということは、夕焼けで若干赤みがかった菜の花畑をみてわかる。
もっと近くで見てみたい。そう考えた僕は丘を滑り、菜の花畑に降りてみる。
「……すごい」
菜の花畑は近くでみると、より一層迫力を増した。一つ一つの花がしっかり咲いていることがわかり、遠くで見た時とはまた違う美しさがそこにはあった。
「……?」
しかしそんな景色の中にひとつ、違和感を覚える部分があった。
ある部分だけ、菜の花の茎が左右に割れており、それが菜の花畑の中心のまで続いていることがわかる。それは明らかに不自然で、人為的に誰かが通らなければ、このような跡は出来ないだろう。
……セカイが中心に行くために、踏み分けたものなのだろうか。この世界には、僕とセカイしかいない。妥当な線で考えればそうなのだが、もし違ったら。
……考えても答えは出なかった。
「……」
前回の扉の件もあるし、誰かが、まだこの世界に存在している可能性も大いにありえる。
様々なことを考えながらも、僕はその先に進んでみることにした。
菜の花畑を踏みわけていくと、より一層その匂いは強くなっていく。
我ながら偽善的な考えだと思うが、綺麗な景色をいま自分が壊してしまっている事実に、少なからず罪悪感を覚える。
だが、それでも調べなくちゃいけない気がした。それは、この世界にとってすごく大切なことのような気がするから。
人が通った形跡を追っていくと、菜の花畑の中心にたどり着いた。そして、その形跡はちょうど中心付近で途切れている。
そこには盛られた土の上に、一つの木札が立てられていた。
「……お墓だ」
誰が作ったのかはわからないが、そこには簡易的なお墓があった。僕が昔、死んでしまったカブトムシのためにつくったみたいな、急造なお墓だった。
「……」
ヒトが埋まっている程、土は盛られていなくて、僕は一安心する。だけど次に、地面の下に埋まっているんじゃないかという、不必要な推測が生まれてきた。
「……いや、流石に」
お墓を荒らす気にはなれなかった。何か、人として越えてはいけない一線のような、そんな気がして、大人しく踵を返すことにした。
「……何だったんだろう、あれは」
セカイのところに戻るまで、僕は真相を考えながら歩く。しかし答えが見つかることは、当然なかった。