第14話
「いやー、よかったですねー。原作への敬意も伝わってくる、良い構成でした」
「う、うん、そうなんだ」
相づちを打ちながら、僕は辺りを見渡してキョロキョロしてしまう。
「ここにしましょう」といって河野さんが入っていったカフェは、僕が聞いたことのないお店だった。チェーン店なのか、個人店なのかもわからなかったが、とにかくお洒落なことだけはわかる。
天井は吹き抜けになっていて、電球の赤みがかった色が、木のインテリアを基調とした室内を映えさせる。要するに、ここは僕には無縁な、すごくおしゃれな場所だった。
……それにしても、河野さんがこういうところに来るのは、ちょっと意外だ。
「……やっぱり柄じゃない、ですよね」
「え!? いや、そ、そんなことないよ!」
自分の心情を見透かされたようで、咄嗟に否定してしまった。
「いいんです、わかってますから。……でも、好きなんですよね。何か、こういう雰囲気」
そういって、河野さんは辛そうに、弱々しく笑った。
「外国みたいで、何だか、フィクションの中に自分もはいったみたいで……それこそ、自分が何だか、主人公になれたみたいで……そんなはずないのに、ふふっ」
照れくさそうにしながら、河野さんはアイスコーヒーを飲んだ。
「……」
その間、僕は言葉が出てこなかった。
だけど、それは共感ができなかったからとか、驚いたとかじゃなくて、図々しくも、余りにも似ていると思ったから。
――何にもなくて誰かの利益になれないなら、せめて邪魔はしないようにって行動している。
そんな誰かの、いつかの会話が脳裏をよぎった。
考え方が、悩みの打ち明け方が、余りに似ていると思えたから。そんな河野さんに対し、内心をえぐられるような気持ちになった。
「……よかったら、またつれてきてよ」
「……えっ?」
か細く、自信なく出た僕の言葉に対して、河野さんが問い返す。
「あっ、嫌、なに言ってんだろ、いま来たばっかなのにね、僕、ハハッ」
「……」
ひとりでに納得する僕に対して、河野さんは視線を向ける。その反応に、僕は改めて、言葉を発する必要性に駆られる。
「……な、なんというかさ、上手くは言えないんだけど、僕も、河野さんの気持ちすごくわかるっていうかさ、だから、もっとその気持ちを共有したいっていうかさ、ええと、何ていえばいいんだろう」
頭がこんがらがって、意図せず後頭部を掻く。
「あっ、ぼ、僕に君のこと、もっと教えて欲しいんだ!」
言った後に、どれだけ自分が恥ずかしいセリフを言ってるか理解して、顔が赤くなった。
「えっ!? あっ、……はっ、はい」
僕と同様かそれ以上に、河野さんの顔も赤くなって顔を俯ける。
カフェにいた人たちの視線がこっちに向いていることが嫌というほどわかって、僕の顔は、更に紅潮した。