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天界にて1

ここまで一気読みしたあなたはもうこの作品を気に入っているはず。

説明回=先々に影響がある から投稿するのが本当に恐いよー。

「賢一さん、二階が静かだわ。どうしたのかしら」

「母さん、光明に任せたんだろ」

「そうだけど……」


 パリーン


「ねぇ、今の音窓が割れたわよね」

「……光明に任せとけ」


 当然、北村きたむらの大きな羽が窓をぶち破っただけである。





~~~~


「おじいさま、早く二人の治療を」

 地界から戻ってきた北村きたむらが光明とハルをそっと寝かせる。光明は気を失っただけでなくルガリアとの戦闘で軽傷を負っていた。

 だが急いで治療すべきはハルのほうだろう。

「わかっておる」

 おじいさまが何かを唱えながら両手を広げると、光明とハルをそれぞれ包むように、内部が液体で満たされた空色の半透明の球が出来上がる。

「ふん!」

 おじいさまは更に両手をハルを入れた球の中へと突っ込む。

 伊比いびとの戦いで全身に出来た切り傷。そんなものはこの球の中にいればすぐに治る。もし球がなくても中位天使たる者は天心による自然治癒でなんとかなるものだ。

 だが問題は身体の前面全てにまたがる大きな切り傷。切り傷などという生ぬるい表現では足りない重傷。邪心の塊による斬撃は打撃的な一面も持ち合わせており、身体の内部器官へのダメージをも与えていた。

 おじいさまが傷口に触れるとハルの口から空気が漏れる。治すためには通過しなければならない痛みだ。

「ハルよ、頑張るんじゃぞ」

「ハル、しっかり!」

「ハルさんがまさかこんなに重傷とはな……」

 おじいさまの治療に、つばき、北村は固唾を呑んで見守る。おじいさまの力を知っている二人とはいえ、やはり緊張はするものだ。



 しばらくの間の後でおじいさまはハルの球から両手を抜く。ハルは少しの声をあげるが安らいで眠り始める。完全ではないが傷口は塞がり、誰の目から見ても安全な状態となったのは明らかだった。


「ふぅ、これでハルは大丈夫じゃろ。あとは……」

 おじいさまが光明の入った球のほうを向く。と、たまたま同時に中の光明が気を取り戻す。


 バシャッ


「う、ふあっ!?」


 と、動いたせいでさらに同時に球は割れ、光明は天界の地面である雲に落ちる。

「いてぇ……くない……?」

 反射的に光明は叫んだが、ついたしりもちは全く痛くない。むしろ上質なソファーにでも座ったかのようだった。

「ふぅ、こちらも大丈夫なようじゃの」

「俺は……そうだ! 悪魔は!? それにっ……ってハル!?」

「これ、落ち着くのじゃ光明。大丈夫。ここは天界じゃ」

「天界……」

 光明はやっと辺りを見渡す。柔らかい雲の地面、四方にそびえ立つ巨大な円柱。

「えと……」

 そして光明の後ろにいる二人の天使。


「おじいさまから話は聞きました。あなたが山中やまなか光明こうめいくんですね」

「はい……」

「私はヘラの間の上位天使のつばきといいます。そしてこちらが」

「アテナの間の上位天使、北村だ」

「はあ……」

 光明は頭をぺこりと情けなく下げる。いきなり二人もの知らない天使から慣れない単語を使って自己紹介をされても、光明の頭には半分ほどしか入らなかった。光明にとって今はもっと重要なことがあるからだ。

「それよりも、ハルは!?」

「だから大丈夫じゃよ。ワシが治したんじゃ。間違いない」

「じ、じゃあ、悪魔は!?」

「一人は逃げた。もう一人は……君が倒した」

 取り乱す光明に北村が冷静に応える。

「倒した……俺が? でもどうやって」

「光明、あなたは何も覚えていないのですか」

 驚き半分、確認半分といった感じでつばきが尋ねる。

「俺はルガリアって呼ばれてた大男にやられかけて、《降臨》を試そうとして……間違えて……それから……」

「それから君は邪なる神の力を宿した。そして無意識のまま目の前の悪魔を倒し……ハルさんにも傷を与えた」

「そんな!?」

「信じられないのは君だけじゃない。いや、もっといえばこの目で見た僕のほうが信じられないことだと思っている」北村はふちなし眼鏡に手を押し当てて考えを述べていく。

「おじいさまの話では君が天使の力を貰ったのは昨日だ。そもそもそんな天使に成り立ての者が《降臨》など出来るはずがないんだ。なのに君は《降臨》をした。それでも天なる神の力を宿すならばまだわかる。ところがどうだ!? 君は邪なる神の力を宿した! ありえない! 天使が邪なる神の力を宿す、そんな話聞いたことがない!」

「落ち着きなさい、北村。光明が戸惑っています」

 つばきが手を前に出して北村を制する。そして優しく、しかしどこか鋭い視線を光明へと向ける。

「さて、信じられないことに光明、あなたは邪なる神アポロを《降臨》させていました。そしてその間あなたの意識はなかった、そうですね?」

「はい……、それでハルに傷をつけたのは本当に俺なんですか……?」

「たしかにそうです、が、この際ハルの話は置いておきましょう。おじいさまの治療は絶対ですから。……質問に戻りましょう。意識がなかったということは、《降臨》をしたにも関わらずあなたにはアポロとの対話がなかったということですね?」

「対話……?」

何がなんだか分からないといった感じで光明は聞き返す。

「やはり対話もなく《降臨》をしていましたか……アポロからの一方的な力の受け渡し。でもどうしてそんなことが……」

「あのー、神との対話とか、そもそも《降臨》ってどういうものなんですか?」

 腕を組んで考えるつばきに何も知らない光明がおずおずと尋ねる。

「君は《降臨》を知らなかったのか!?」

 だが応えるのは北村だった。

 光明は身を低くして恥ずかしげに肯定する。

「光明よ、この際ついでじゃ。普通の方法で下位天使となった者が本来最初に受ける説明から北村にしてもらおう」

 そういっておじいさまは北村に目配せをする。北村はふちなし眼鏡に手を押し当て、一つ大きなため息をしてから光明のほうを向いた。

「仕方ない。君も一応天使の一員だ。最低限のことは頭に入れておけよ」

 光明は頷く。天使とは何か。ハルから結局聞けていないことだ。

「まず君は亡くなった。そして霊化した。そして選別されて天使となった。普通の人ならここで驚いて説明どころじゃなくなるときもあるが、まあ君には関係ないな。ここは天界といって地界……つまり人間の世界でいうところの天国みたいなところだ」

「そこら辺はハルから聞いています。天使と悪魔が争っていることまでは聞きました」

「そうだ。天使と悪魔は争っている。だから君にも戦ってもらう……と普通の下位天使に成り立ての人に言うと文句をいわれるが、君はもう理解しているはずだ。天使たる者、悪魔との戦いは避けられない」

 光明は地界での戦いを思い出す。天使を見つけた途端に襲いかかってくるハンカに悪魔たち。抵抗しなければこちらがやられてしまう。

「戦うためには力がいる。そこでまず身につけるのが天心開放だ。文字通り、羽に蓄えられた天心を開放する。これは天使なら誰でもすぐに出来る。ただし、うまく戦えるかは話が別だがな」

 北村は一度喋るのをとめる。そして右手を伸ばす。するとどこからともなく分厚い本が現れてその手の上に乗る。

「ここまでの話はもう君は体験しているからいいだろう。問題は天心開放の次の段階、《降臨》だ。十一の天なる神、ヘラ、ポセイドン、アポロン、アルテミス、ヘファイストス、アフロディテ、アレス、アテナ、ヘルメス、デメテル、ディオニュソス。天使は皆いずれかの神との適性を持っている。それをこいつで判断して、より早く中位天使、つまり神との対話をして《降臨》が出来るように努力してもらう。と言っても《降臨》は簡単なことではないがな」

 北村は本をパラパラとめくっていく。やがて白紙のページで手をとめ、広げる。

「つばきさん、彼の適性を見ます。いいですね」

「お願いします。私も光明が一体何者なのか早く知りたいですから」

 北村の問いにつばきは頷く。微かな緊張の空気が周囲を支配する。

「普通の下位天使ならここに両手を置くだけで適性がわかる……が、君はどうなるかな。まさか邪なる神アポロの適性が出るなんてことはあってほしくないが」

 北村が本を差し出す。光明も恐る恐る手を伸ばす。

「あったらどうなるんですか……?」

「分からない。ただ、」

 光明の両手が、開かれた白紙のページの上に乗る。

「ただ、一般的に例外というのは良いことにならないものだ」


 そして紙面に文字が浮かび上がった。

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