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黒羽の天使2

最初の戦闘入ります

 光明は宙を舞った。

 意識を背中の筋肉へ集中させ羽をはばたかせようとする。

「何やってるの?」

「羽を……だな……あれ?」

 羽はほとんど動かない。けれど身体は宙に浮いていた。

「天使は意志だけで空を動けるよ。羽の役割はまた別にあるし」

「それを早く言え!」

 静かな夜空に光明の叫び声が響きわたる。

「ほら、分かったら早く行くよ。ついてきて」

 ハルはなかなかの速度で移動していく。

「く、くそ」

 初飛行ながら光明も遅れずについていった。



「なあ、仕事って何なんだ?」

 移動しながら光明は疑問をハルにぶつける。

「ハンカとの戦いよ」

「ハンカ?」

「そう、ハンカ。簡単に言えば悪魔の手下」

「悪魔の手下? それと戦うのか?」

「そうよ」

 ハルはさらりというが光明は恐ろしくなった。天使としてハルの手伝いをするということは己も悪魔の手下、ハンカとやらと戦うということだ。

「ほら、あれよ」

 ハルが前方を細剣で指す。

「えっ、まさか……」

「そ、あれがハンカ」

 そこには夜空で見失ってしまいそうなほど真っ黒な、体長三メートル程度の化け物がいた。手足は驚くほど小さく、大きな口にある前歯が唯一の攻撃手段に思えた。そんなハンカの黄色に光る目が二人の存在を捉えたとき、


キシャーー


 大気を揺るがすハンカの叫び声。その振動が光明の身体をすくませる。

「さがって!」

 ハルの声が響くが光明は動けない。だがハンカはその口を大きく開けて一気に二人へと迫ってくる。


「天心開放!」

 そのとき、ハルの背中の羽が大きく開いた。青白い光りを周りに纏い、ハルは細剣を突き出してハンカへと向かっていく。

 一筋の光となったハルがハンカの口から足先までを貫く。直後、聴く者を不快にする悲鳴と共にハンカの黒い身体が消滅した。



「す、すげえ……」

 光明はそれだけしか言えなかった。目の前で起きたことにただただ驚くだけだ。

「光明もハンカぐらい倒せるよ」

「お、俺があんな化け物を!?」

「だって天使の力が宿ってるんだもん」

「い、いや無理だって」

「大丈夫。意識すれば武器は出せるし素早く移動も出来る。天心開放だってそれだけ立派な羽をもらったなら多分いけるはずよ」

「そ、そんなこと言われたって……」

 そのときハルと光明は何かを感じとった。

「まずい、ここは任せたわ。私は急いであっちに向かうから」

「おい、ハル!」

 ハルはありえない速さで飛んでいく。その行く先には光明でもわかる強力な何かがいる。

 代わりにここには……


キシャーー


「うへ!?」

 光明の目の前に一匹のハンカが現れる。少しだけ歯の形が違うがそこ以外はハルが倒したものとほぼ同じだった。巨体ながら素早く動き、一気に間合いを詰めてくる。

「ひっ!」

 避けたい、と光明が意識したとき身体は驚くほど速く移動していた。攻撃をすかされたハンカが勢いを殺しきれずに光明の横を通りすぎていく。が、振り返り、再び光明に狙いを定めて襲いかかる。

「ほっ!」

 その攻撃を光明は反射的ではなく意図的に避けることができた。そして光明の中で微かに自信が芽生える。

 ハンカは再び振り返り、イラついたように叫び声をあげる。だが光明は動じなかった。己の力がハンカを越えていると思えたから。

 直後、光明の手に純白の剣が形成される。それはハルのもつ細剣よりも大きく、少し長かった。光明の意志が無意識に身体に合わせた長さだった。光明はその白剣を握り、感触を確かめて静かに笑った。

 ハンカが大きく口を開けて光明に迫る。対して光明は剣を構える。そしてハルがしたように叫ぶ。


「天心開放!」

 光明の背の真っ白な羽が大きく開く。羽に蓄えられていた聖なる力が全身と剣に行き渡るのを光明は感じた。

 ハンカの大きな口が目前に迫ったとき、光明は剣を振るう。直後、白き太刀筋がハンカの身を両断し、消滅させた。



「はあ……はあ……」

 羽が一気に縮こまる。光明はへなへなと夜空に座り込む。落下しないのは天使としての意志があるからだ。

 己の力が強いのか、ハンカが弱いのかは分からない。ハルだってハンカは一撃で倒していた。化け物といえどやはり悪魔の手下はしょせん手下なのか。


 なら悪魔相手なら?


 ハルが向かった先。そこには何か、ハンカよりも強力な何かが現れていた。

 光明は天使の力も悪魔の存在も詳しいことは分からない。ただハルが戦っていることだけは分かった。


 光明は力のする方向へと夜空を移動した。自分が行って役に立つかは分からなかったが、もしハルがピンチになっていたらと考えると動かずにはいられなかった。

 仮にも、ハルの手伝いが生き返るための条件だったのだから。



 だが光明の心配は杞憂に終わる。


 黒い衣服にカラスのような黒い羽、その場所には悪魔のような男がいた。


 ただし胸に大きな穴を開けて。


 光明が感じていた強力な力が失せていく。それと同時に男の身体も消えていく。

 男の背中側では戦闘の終わりを告げるかのようにハルの大きな白い羽が縮んでいった。

「ハ、ハル……お前……」

「お、初戦闘でハンカを倒すなんて光明やるじゃん」

 余裕たっぷりにハルが笑う。さきの戦闘に疲れなどまるで感じていないようだ。

「ハルこそ、なんだよ今の相手……簡単に倒せる相手なのか?」

「低級悪魔ぐらい倒せないようじゃ中位天使失格だよ」

「ちゅうい天使……」

「ま、敵も倒したことだし、詳しい話は家でしましょ」

「家?」

「そっ。光明の家。おじいさまと約束したでしょ。地界での私の生活をサポートするって」

 ハルは勢いよく移動を始め、まっすぐ光明の家へと向かっていく。光明も慌てて後に続きながら考えを巡らせる。しかしたどり着く答えは一つだけだった。


(ハルがうちに居候!?)


~~~~


 開けっ放しの窓からハルが室内へと戻る。少し遅れて光明。

「さ、私はどこに寝ればいい?」

 ハルがいきなり問題の核心をつく。

「どこって……」

 光明の両親はばっちり健在しているのでハルの存在は隠すしかない。

 しかし土地代込みで一千万円の頭金と三千万円の三十五年ローンで建てられた洋風二階の一戸建てにハルを隠すことができるような部屋はないと思われた。

 光明は考える。そして気づく。

「……姉ちゃんの部屋だ」

「お姉さんの部屋?」

「ハル、こっち来い」

 光明は自分の隣の部屋へとハルを導く。

「えっ、汚な」

 女の子の部屋とは思えないほど散らかった五畳間にはとりあえずベッドが置いてある。

「普段はお姉さんがここで寝てるの?」

「いや、姉ちゃんは今地方の大学で一人暮らし中」

「じゃあ、私がここを使えるのね」

「いや、お前が使えるのはここだ」

 そういって光明は押し入れの扉を開ける。こじんまりとしたスペースにはリュックやらおもちゃやらが詰まっていた。

「な、なんでよ、この部屋は空いてるんでしょ!?」

「バカ野郎、親に見つからないためには押し入れしかないだろ」

「いやよ、押し入れで居候なんて! そもそも私を親から隠すつもり!?」

「自分の格好見てから言え! ただでさえ居候なんて無理なのに天使の姿をどうやって親に説明する気だ!」


「こうちゃん、うるさいわね、どうした……の……」

「か、母さん……こ、これは……」

 二人の言い争いはヒートアップしすぎた。これまた隣の部屋から光明にとって一番来てはいけない人物が起きてしまった。

「まっ、こうちゃん、いつの間に!?」

「違うんだ母さん、これは……その……あの」

「そうよね、こうちゃんだってもうそういうお年頃よね」

「だから、違うって、母さん、これは……」

「でも、こうちゃん……コスプレ趣味だなんて」

 一番厄介なところを光明は指摘された。ハルを彼女だと勘違いされるのはまだなんとかなるが(むしろ好意的に母親は捉えたようだが)光明もハルも天使の格好だ。ここから居候の話には絶対に持っていけない。少なくとも光明は諦めた。

 しかし、

「違うんですお義母かあ様。私は光明君に助けてもらったんです!」

 ここでハルがうってでる。

「私の両親は借金で蒸発して、頼るあてもない私はこんな格好をしなきゃいけないお店で働くしかなくて……」

 ハルが迫真の演技をする。今にも泣き出しそうに弱った顔で嘘八百を並べていく。光明の母親も母親で、口を押さえて真に受けている。

「そんなときに光明君が手を差し伸べてくれて……なんとか居候させてもらえるように説得するって……でもやっぱり迷惑ですよね……」

 どんな技術なのか、ハルはついに涙を流す。話は無茶苦茶だがハルの涙は絵になる。いつの間にか光明の母親まで涙を流していた。

「いいのよ、うちに泊まりなさい。いつまででも泊まりなさい。この部屋はしばらく使わないから」

「お義母様……」

 かくして山中家でのハルの居候は認められた。


「うるさいぞ、母さん、いったい誰と話して……」

「お義父とう様!」


 同様の茶番がもう一度行われて、ハルの居候は涙を流した山中家の大黒柱によって完全に認められるのであった。

ところでどうしてこうちゃんまでコスプレを?

いやーーあはは

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