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9話

 武内さんが手にした角材でおっさんを殴り殺している最中に狙撃班の連中が捕縛した二人組を連れてきた。アジア人の方は殴られ続けて顔の原型をなくしたおっさんを見て顔を顰め、白人の方はなんとも言えない嫌そうな表情を浮かべている。


「身元割れた?」


「ダメですね。二人とも財布の中には円とドルが少々入っているだけで、IDの類は何も」


 まあ予想はしていたことだ。


 工作員が捕虜の膝裏を蹴って座らせる。周りにいる工作員達も、銃こそ向けないもののいつでも撃てる体勢だ。


 アジア人の方は二十代後半くらい。髪は短髪で体つきも締まってる。左目の下から首筋にかけて火傷の痕があるのが特徴だ。


 白人の方は四十代くらい。泥とかで汚れているけど上等なスーツを着ている。ジャージ姿のアジア人とは対称的だな。ジャケットの前が開いていて、空のホルスターが見える。


「捕虜の武装です」


 狙撃班の人員が差し出してきたのは二丁のグロック17だ。


「ありがとう。……さて、お話の時間だ。あ、武内さん、そいつうるさいから静かにさせて」


 楽しいお話が始まるというのに、さっきまで股間を潰され続けていたおっさんは呻き続けていた。


 銃声が響く。


「ありがとう。さ、気を取り直して質問を始めようか。まず一つ目は……そうだな。お二人の国籍と関係性を聞こうかな」


「……日本」


 若い方が先に答えた。白人の方は黙ったまま。


「おっ、お兄さんの方は素直だねえ。さて、おじさんは? あ、もしかして日本語が分からない? Vous ou le français?」


 フランス語で話しかけても黙ったまま。せっかく丁寧な言葉遣いにしてやったというのに……。


「ま、いいや。お兄さんの方に聞こうか。今のうちに答えてくれたら無傷で優しい日本のおまわりさんに引き渡す事を約束しよう」


「こいつは取引先からの連絡員だ。……あんたの事は知ってるぜ、遠野少尉」


 気になる事を言うな。僕は鹵獲したグロックで白人の太ももを撃った。


「アアアアアアアアァァ!!」


「話を聞いておけ。俺はこっちと話しておく。おい、話したら止血してやる」


 そう指示を出して僕は若い方と比較的穏便に会話を始めた。


 †


 帰りのバンの中で今日得た情報を整理する。


 あの二人のうち、白人の方はただの犯罪者だったから公安に引き渡した。だけど若い方は僕の独断で組織の方に戻してやる事にした。


 あいつの話だと、やはり最近まで国防軍にいたらしい。四月の攻勢の前に任期満了して除隊していたようだ。その後攻勢での政府の対応に腹を据えかねて退役軍人やらなにやらで構成された過激派に加わり、各地で武器の調達なんかを任されていたようだ。


 過激派ねえ。ああいった手合いは僕の趣味に合わない。けど、気になることを言っていたので個人的に紐をつけておくことにしたんだ。


 リュシフェール。彼の所属する組織はそう名乗る白人と手を組むことになったらしい。


 その名前を聞いた瞬間、全身の血が沸騰したかのように感じた。


 リュシフェール。僕の両親を殺し、僕の人生をズタズタにした、糞野郎の名前だ。僕は今の今まで、そいつを追いかけ、殺すことだけを目的に生きてきた。そいつを殺してケジメをつけなけりゃ、僕の人生は始まらない。僕の家族を殺した奴がまだ生きて糞をひり出していることが、この世のなによりも耐え難い。


 思い出しただけで、頭の中で考えるだけで叫びだしそうになる。


 衝動を全力で抑える。ここで僕の本心を晒すような、そんなみっともない真似はしない。


「どしたん? なんか具合悪そうだけど」


 隣に座った長田が声を掛けてきた。冷水を浴びせられたように、正気に戻る。


「……ああ、久しぶりの実戦だったから疲れが出たみたいだ。問題はない」


「そ。んならいいや」


 心底どうでもよさそうに携帯をいじり始める長田に、僕は一種の感動すら覚えていた。


 ともあれ、頭を冷やしてくれた事には感謝しておこう。あとはリュシフェールを追い詰める為の、具体策を考えるのが一番の鎮静剤になる。



 †



「久しぶり、遠野」


 都内の公園で声をかけてきたのは、国防軍での同期、西村幸平だ。あの攻勢の前に負傷して本国に後送、復帰は不可能と診断されて除隊していた。


「脚、調子はどうだ?」


「たまに痛むぐらいだ。義足も馴染んできてるし。そっちこそ除隊してから一度も退役軍人会に顔を出さないなんてどうしたんだ?」


 西村は即席の地雷で脚をずたずたにされて右脚に義足を装着している。それでもいい加減に慣れてきた所作で僕の隣に座った。


「新しい生活に慣れてきたらそのうち顔を出すつもりだったよ」


「ならいいんだ。……にしても、お前が俺達みたいな活動に興味を持つなんてな。こういうの、嫌いだったろ?」


 西村はあの時の若者に聞いた組織の構成員だった。同期ということもあって連絡をとるのは簡単だったのが少し拍子抜けだ。


「まあね。正直今でもそんなに好んじゃいない。だけど

 それ以上に気に食わないものがあるってことさ。ま、人間は変わるって言うしね」


「……お前はあの攻勢の時の生き残りだったな。なら、他の同志達もお前の事を認めてくれると思う。少し待っていてくれないか」


「わかった。それじゃ」


 連絡先を交換し、その日は別れた。


 帰りの電車の中で今日の会合を分析してみる。


 物騒なことを考えている割に、接触は簡単にいった。人員集めがよほど上手くいっていないか、あるいは罠か。国防軍時代はほとんどDGSEとの接触を断っていたから後者の可能性はほとんどない……はず。いや、正規のルートで情報を入手している可能性もある。どちらにせよ、あの中に入らなければこれ以上の情報を得るのは難しいだろう。



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