6話
目標は東京都大田区の港湾地帯にある、小規模な物流倉庫だ。
DGSEの人員は僕を含めて十五名。本国から直接派遣されているのは四名だけど、戦闘要員は全員日本で調達した工作員だ。彼らは指揮車両とは別のワゴン車で現場まで来た。
武装は全員がシグ社のサブマシンガン、MPXを装備している。ああ、長田だけはなぜか私物のM4だ。アクセサリーはどこのメーカーなのかも分からないホロサイトとフォアグリップだけ。弾倉は……八つ? なんだ、一人で戦争でもする気か?
簡単な私服か、ノーブランドの作業服。その上からタクティカルベストを着ている。
「地図だ、作戦前にきちんと頭に叩き込んでおけよ」
五フロア分の見取り図と周辺地図が描かれた紙を配る。
「目標は小規模な物流倉庫。周囲十キロ、というかこの埋め立て地は公安が完全に封鎖している。状況終了後、掃除が終わるまで、完全に無人だ」
「そこまで派手にやって、目標はちゃんといるんですかね?」
実行班の一人が言った。
「この状況がクライアントの要求するものなら、それでいいんだろう。求められているのは形だけ、捕まえたところで大した情報も得られないだろう。
……まあ、今回は気に入らない点がいくつもある。いつも以上に、不測の事態には気を付けろ」
「不測の事態って、例えば?」
「目標も完全武装で待ち構えてるとか」
「いっそのこと更地にしちゃった方が手っ取り早いんじゃない?」
実行班の間に笑いが漏れる。
「俺もそうしたいのは山々なんだけどね、クライアントはもっと手間暇を掛けて欲しいそうだ。
おい、先行した偵察班から連絡は?」
「これを」
車内で通信を管理していたフランス人がヘッドセットを渡してきた。
『管理官? 出入りした人間を監視していたところ、現在内部には少なくとも二十名は残っています』
「武装は確認できたか?」
『少なくとも七名がアサルトライフルを持ち込んでいます。盗聴器は仕掛けられなかったので内部の音声は拾えてませんが』
「連中はヤクザに銃器を流してる。重火器の類はないだろう。偵察班は引き続き監視と狙撃に当たれ」
『了解』
この時間帯に二十名? 警戒の度合いが強過ぎる。やはり、目標は作戦に勘付いているのか? いや、普段からこの程度の人員は残しているのか?
くそ、あまりに急過ぎて情報収集が不十分だ。何も、確信を得て伝えられる情報がない。
通信を切り、実行班の面々に情報を伝える。
「内部には少なくとも二十名。こちらの動向が露呈している可能性が高い。危険度の評価を修正する、全員アサルトライフルを携行しろ」
「管理官、クライアントから通達が」
「貸せ」
通信担当官からノートブックを受け取り、公安からのメールを確認する。
内部にフランス語話者を三名確認?
なんだこれ。なに、こんな重要な情報を今更?
「……作戦変更。内部にフランス人と思われる者が三名。その三名に関してはできる限り捕縛する。くそ、俺も出るぞ」
本国の人間が関わっているとなれば僕も出るしかない。大急ぎで、余りのM4を装備。弾倉は三つ持っていく。
くそ、くそ、くそ! なんで帰国早々こんな糞めんどくさい糞仕事に巻き込まれなきゃなんないんだ!
「いいか、最初だけはサイレントエントリー、接敵後は派手にぶちかませ!」
「あれ、いいんですか?」
「喋れるんだったらどこをどれくらい撃とうがいい、他の連中は皆殺しだ、めんどくせえ」
この国で、アサルトライフルを持ち出さなきゃならないような連中を相手すんのは、少なくとも諜報機関の仕事じゃない。特殊部隊の職域だ。ましてや俺達は他国の機関なんだぞ? ふざけた話だ。まったく、ふざけてる!
「まあこの国でおおっぴらにこいつをぶっ放せる機会なんてそうそうないですからね。我々はまったく大歓迎なんですが……長田ちゃん、何してんの?」
長田が何やら自分のM4を弄くり回してる。
「いや、なんか派手になりそうだからお洒落させたげないとな、って思って」
言いながらハンドガードの下に取り付けているのはグレネードランチャーだ。こいつは、本当に……。だけど今は許してやれる。こいつよりもムカつく連中がわんさかいるからな。
にしても、この国の非合法組織の内部にフランス語話者だと? こんな辺境の地に用があるフランス人なんて、僕達くらいしかいないだろうに。
次点で考えられるとすれば今はもうすっかり元気のないアラブどもか。欧州で暴れられなくなった連中がアフリカに流れたのは知ってるけど、日本にも来た連中がいるのか?
というか、そもそもこの情報の精度が分からない。確認する手段も時間もない。
あとは考えたくもないけど、公安が僕達の同士討ちを狙ってのことか。ギリギリまで情報を明かさなかったのも理解できなくはない。
「シャブランに繋げ、急いで!」
待つこと数分。ヘッドセットの向こうからやっと愛しの管理官殿の声が聞こえてきた。
「おい、目標の中にフランス語話者がいるという情報が公安から入った。心当たりは?」
『私のところには何も。どちらにせよ、私を通さずにこの地で商売しようという不届き者だ、綺麗に掃除してくれて構わん』
くそ! 僕はヘッドセットを地面に叩きつけた。