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4話 ある日本人達の苦悩

 革命は当事者達のみの手によって成就するべきだ。他国の、ましてや汚らわしい犯罪者の助力など乞うべきではない。


 男がある提案をした時、同志達は口々にそう言った。

 確かにその通りだ。男自身の考えも同志達とまったく同じだった。


「しかし我々は国内で騒乱を起こす術を知らない。作戦の初期段階においてのみ、『彼ら』の支援を得るのも仕方のない事だと判断する。」


「だが、あの連中の手を借りるとなれば我々に大義がなくなる。作戦は絶対に失敗する」


「構わんさ。元々成功する見込みのない作戦だ。そもそも政治に関わるべきでない我々が、政治的な主張を持って決起すること自体がおかしいのだ。それに我々の作戦目標は革命の成就ではない。実力を持ってしての問題提起だ。我々の行動を見て、この国の人々が意識を変えることになれば、例え我々が戦闘中に全滅しようと目標は達したと言える」


 男は既に何度も繰り返された目的を語る。その男を含めて、本気でそのお題目を信じ切っている者は一人もいなかったのだが。


「……少し話題を変えよう。西村、協力者の件はどうなっている?」


「なかなか進んでいませんね。帰還者を中心に集めてはいますが、前段階として当局の紐付きかどうか調べるのに手間取っています」


「想定されていたことだ。応じたものには決起の日までスリーパーとして待機しておくよう、徹底してくれ」


「了解」


「次回の会合は『彼ら』も交えて行う。当局に嗅ぎつけられないよう、各自注意してくれ」



 †



 芦屋健二は元軍人だ。輸送部隊の運転手として中東に派遣され、帰国してすぐに任意除隊を選んだ。


 芦屋は実戦を経験したことがなかった。ほとんどを後方の安全地帯で各国の前線基地を往復して過ごしていた。それでも、彼の精神は耐えられなかったのだ。


 いくら後方の安全地帯と言えど、どこにゲリラが潜んでいるかわからない。移動中は常に気を張り続けていた。


 そうしてやっとの思いで前線基地にたどり着けば、戦闘で心身を負傷した兵士達を見ることになる。いつか、自分もああなってしまうのではないか。そう思うと夜もまともに寝ることができなかった。


 近年、米軍では精神的に負傷した兵士にもパープルハート勲章を授与するようになった。過去のイラク・アフガニスタン戦争での精神的負傷者があまりにも多く発生し、ベトナム戦争以来の社会問題になったのがきっかけらしい。ともかく、米軍はそういう精神的負傷者も絶対に見捨てず、ケアすることを内外に示したのだ。


 だが、芦屋の所属していた日本国防軍にはそういった制度はなかった。精神的負傷者に報いることは全くなかった。その事が戦地にいた頃の芦屋をだんだんと追い詰めていった。


 だが、一番のきっかけは派遣中に妻が一方的に離婚を通達してきたことだろう。


 帰国した時、家に妻の姿はなかった。通達された時から、実際に家に帰るまで芦屋はその事実を認めようとしなかった。



 元軍人はアルバイトですらまともに採用されなくなっていた。採用があったところで、人を奴隷か家畜かと勘違いしたようなふざけた経営者しかいなかった。


「人殺しなんかまともに仕事できると思ってるのか? この程度の事も出来ないから、あんたは人を殺すんだよ」


 そう、芦屋よりも若い上司が芦屋を詰った。まだ二十代の、軍にいた頃なら絶対にそんな口の利き方は許さなかったような若造だ。

 一日十四時間労働が、そんなにも当たり前なんだろうか。自分は、公務員という立場に甘んじていただけなのだろうか。


 除隊時に受け取った退職金は、ほとんどが酒代に消えて行った。なにもせず、ふらふらと歩き回り、以前は全く飲まなかった酒に溺れる日々。生きているのか死んでいるのか、自分でもよくわからない。


「久し振りだな、芦屋伍長」


 いつものように公園でぼうっとしていると、聞き慣れた声が芦屋を呼んだ。


 頭は相変わらず酒にふらついていたが、長年の軍隊生活で染み付いた行動習慣は芦屋を直立不動にさせた。




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