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1話

 やっと日本に帰ってきた。仕事の終わり方は最悪だったけど、岩と砂しかないあの国から生きて帰ってきただけでも十分だ。

 どれくらい最悪かは詳しく話したくないが、仮にも国防軍少尉の身分にありながら一般の航空機で帰国させられた事から察して欲しい。何回も乗り換えを強いられたのには辟易したけど、思えば民間機に乗ったのは今までの人生で一回しかないからそれなりに貴重な経験をしたと

 考えようか。


 さて、今日これからの予定はなにもない。ちなみに出迎えもない。

 僕が乗った飛行機の同乗者は皆あの国に滞在していた日本人達だ。彼らはやっとの思いで帰国が叶い、出迎えに来た家族や友人達とその喜びを噛み締めている。その様子を取材しにきたマスコミの姿も多い。この位置から確認できるだけで七社は来ていた。


 どういう基準で選抜されたのかわからないが、マスコミの連れているカメラマンはどの社も小太りで背の高い男達だ。とてもあの国や軍じゃ見かけない太り方をしている。整髪料なのか頭皮の脂なのかわからないが頭髪がテカテカしていて不愉快だ。精神的にも肉体的にも不健康な生活を送っていることをうかがわせる。


 そんなカメラマンに、というかカメラに向かって笑顔を振りまく女子アナはこれまたみんな同じような見た目だ。同じような顔に同じような髪型、同じ笑顔を顔面に貼り付けていた。


 なんとも呑気な事だ。海の向こうじゃ日本人が殺し合いに参加していたというのに……


 一般人の群れの中で、一人だけBDUを着た僕はあからさまに浮いていた。遠巻きに僕を訝しげに、またはあからさまに嫌悪感を滲ませた視線で僕を舐め回すのがわかった。

 そんな視線に晒されているからこそ僕は背筋を伸ばし、私物の入ったボストンバッグを掴み直した。


 国防軍のイメージダウンなんてもう関係無いのだからだらしなくしても構わないのだけどけど、僕のちっぽけなプライドと言うか矜恃というか、とにかくそのようなものが僕に毅然とすることを要求したのだ。


 僕にそんなものが残っていたことに驚きだけど、残っていたのだから仕方ない。僕に出来ることは、僕の行動原理に忠実に生きることだけだ。


 少し歩くとマスコミ達が僕に気付いた。ディレクターだかなんだか知らないが、現場の指揮官が僕を指差して指示を出す。

 先ほどまで笑顔を貼り付けていた女子アナ達が今度は厳しい(ように見える)表情を顔に貼り付けて駆け寄ってきた。


「国防軍の関係者の方ですか!?」


 見れば分かるだろう、そんな事は。


「四月の大規模戦闘についてなにか!」


 何かってなんだよ、曖昧過ぎるだろ。質問はもっと明確に。

 と、脳裏に書類上の上官から出発前に言われた事を思い出した。


 曰く、マスコミの取材は絶対に受けないこと。


「申し訳ありませんが戦闘の詳細は軍機に当たりますのでお答えできません」


 既に手慣れた『お上品な』返答をする。


「上層部の杜撰な作戦立案のせいで亡くなった軍人や戦闘に巻き込まれた民間人について何か!」


 ……言いたいことはたくさんある。ただし戦死者達ではなくマスコミに対してだ。僕は書類上の事とは言え国防軍の士官で、軍では上官の命令に逆らうことは出来ない。彼らに対して何らかの答えを返すのは許されていないから、僕はお上品な返答を繰り返した。


 普通なら十分も掛からない距離を一時間近く掛けて飛行場を抜け出すと、流石にマスコミ達も追っては来なかった。


 ……杜撰な作戦立案だと? 作戦通りに行けばあの在外邦人救出作戦は想定外のイレギュラーな要素がなければ必ず成功したと言えるし、想定できるあらゆるイレギュラーに対応策を盛り込んだ参謀連中は称賛に値する。


 そして作戦失敗の直接の原因は、マスコミによる情報漏洩だ。まさか自国のマスコミが救出部隊の行動を逐一報道しているとは参謀達も考えていなかった。


 結果は見事なまでの皆殺しだ。救出部隊の千二百人も、街に囚われていた二百人を超える民間人も、ほとんどが殺された。生きて街を脱出出来たのは僕を含めた国防軍数十名と作戦開始直後に救出できた数名の民間人だけだった。


 ほとんどの軍人が街の中に包囲され、絶望的な戦闘を続けたのだ。必ず救援が来ると信じて。


 だが、政府は彼らを見捨てた。理由なんかは知らない。なんとか身柄を保護した民間人の為に戦い続けた彼らを、国は見捨てたんだ。



 ……胸の中で事実を再確認することで、多少の鬱憤は晴れた。

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