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4.8ヶ月前

それは8ヶ月前。

10月の出来事だった。

兄貴は、順風満帆だった人生を自分自身で破綻させたようなものだ。



その日兄貴は優月の家に向かう途中だった。


歩いて15分ほどのところに住んでいる優月の家に向かう時、兄貴はいつも徒歩か自転車だった。

その日は休日で、天気も良くて、兄貴は歩いて家を出た。

それが昼過ぎだったと思う。

それから一時間ほど過ぎた頃、家の電話が鳴った。

いつものように、変に愛想のいい声で電話を取る母さん。

でも、すぐにその様子は変わった。

母さんは、「そんな!!」と言うと、真っ青な顔でその場に崩れ落ちてしまった。

父さんと二人駆け寄ったけれど、「拓ちゃんが…拓ちゃんが…」と言うばかりで、埒が明かない。

父さんが母さんの手から受話器を奪い取る。

静かな声、と言うよりも、押し殺した声の父さん。

母さん同様、父さんの顔も見る間に青ざめていった。

相当よくない内容だということは、簡単に察しがついた。

電話を切った父さんは、震える声で言った。

「病院へ急ごう。拓斗が、事故にあった」


病院に行った俺たちは、すぐに兄貴に会うことはできなかった。

処置が長引いているとかで、ICUの外の廊下で待たされた。

その間に、警察の人が事故の状況を説明してくれた。


兄貴は優月の家に向かう途中で、ボールを追いかけ突然道路に出た子供を助けようとしてトラックに轢かれたということだ。

言葉にしてしまえば、たったこれだけのこと。

兄貴自身、この勇気ある行動がどんな結果を招くかなんて、考えもしなかったんだろう。

どれだけの人を、不幸にするのかなんて。



「あれからもう、8ヶ月近く経つんだね」

優月が静かな声で言った。

俺は自分の考えが覗かれていたような気がして、思わず咳き込む。

「そう、だね」

「なんだか、昨日の事のような気もするし、ずっと昔のような気もする。変だね」

優月は穏やかな顔で笑ったけれど、本当は何を考えているのか、その欠片さえも俺には見つけられなかった。

優月は前からそうだった。

笑顔の中に、いつも何かを隠している気がする。

それが不思議で気になって、俺は優月のそういうところに惹かれているのかもしれない。

強い風が急に病室に吹き込み、優月は小さな声を上げて、窓を閉めに行った。

俺は兄貴を見つめた。


あの日、処置を終えて面会した兄貴には、色々な機械や管がついていた。

何種類もの薬を注入するための機械、血液中の酸素を測るのだという機械、それから、呼吸器。

兄貴は、自分で呼吸することもできない状態だった。

医者は「このまま意識が戻らず、植物状態になる可能性が高い」と言った。

それでも兄貴は数日後、自分で呼吸する能力を取り戻し、呼吸器は外れる。

このことが、両親に奇跡を信じさせることになってしまった。

今でも両親は、8ヶ月経った今でさえ、兄貴が目を覚ます奇跡を信じている。


優月はどうなんだろう。

事故から今まで、兄貴を見つめ続けてきた優月。

優月もまた、奇跡を信じているんだろうか?




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