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天明学園新聞部活動日誌  作者: 秋晴 将軍
1/1

高校生活の始まりは

 僕の高校生活の話をしよう。

 いろんな人に振り回され、散々だなぁと呟きながらも楽しかった青春のお話だ。

 「弘人くーん、この書類生徒会に回しておいて~」

 「自分でやればいいじゃないですか! あぁもうこんなに部屋を散らかして!」

 「ほら、雑務をすべて処理してくれる弘人くんがいるからきっとか片付けてくれるって私ってば信じてるから」

 「そんな信頼はさっさとごみ箱に捨ててください」

 きっと僕はそんな日々を大人になっても思い出し、感慨にふけるだろう。

 過ぎ去った日々を噛み締め、前に進んでいくのだろう。

 「ちょっと、光姫! そんなところでゲームしてないで手伝ってくれないかな!? 同じ一年だろ!」

 「弘人。私女の子だから力仕事とか無理なの」

 「書類の運搬を力仕事だとっ!?」

 僕にとっての青春っていうのはきっとそういうもので、きっとみんなもそういうものだと感じていると僕は思っている。

 人それぞれの青春があっても、きっとその一点だけは変わらないだろう。

 「こんな時に銀河先輩でもいれば……」

 「あぁ、銀河くんなら今朝『美少女が空から降ってきたからちょっと異世界に行ってくる』ってメールを送ってきたから多分今頃ラスボスと戦ってるんじゃないかな」

 「あの人だけ住んでる世界が違う気がするんですけど気のせいですかね!?」

 そんな僕の青春の、高校生活の話をしよう。



 何もかもの発端はきっと高校受験の面接の時だったのかもしれない。

 やけに目を輝かせながら僕を見つめていた面接官のお姉さんがいたのだ。

 お姉さんと言っても歳は僕とそう変わらないだろう。でも、なんとなく黙っていれば大人びた雰囲気があったし、立ち振る舞いもこの面接という場に馴れしている感じもして面接時はさして違和感はなかったのだ。

 だから、2か月前の、面接を終えたばかりの僕はこれといって疑問は感じなかったのだ。

 でも、それが如実に僕の中に現れたのは入学式の時だ。

 「やぁ、私のこと覚えてる?」

 高校という新しい世界に緊張し、校門の前で多少足が竦んでいた僕に話しかけてきたのはそのお姉さんだった。

 「え? えっと……誰ですか?」

 「おやおや、こんなにプリティなお姉さんを忘れてもらっては困るなぁ。ほら、面接の時あったでしょ」

 僕はそう言われてハッと気づいたのだ。

 しかし、僕がすぐさま気づくことができなかったのはきっと無理もないことだろう。だって、その人は僕が新調したばかりの制服、その女子用の制服に身を包んでいたのだから。

 「あれ? 面接官の方……ですよね?」

 「そうそう、やっと思い出してくれた」

 お姉さんはそう言うと破顔し、楽しそうに、というよりも面白がっているように話しはじめる。

 「私はこの学校の2年になる天明てんみょう 聡里さとりっていうの」

 天明という苗字に少しだけ疑問を覚えるが、きっと関係ないだろう。

 しかし、面接官が学生、だなんてなにかそういう決まりか何かがあるのだろうか。

 「天明先輩…ですか。えっと、僕は駒野こまの 弘人ひろとっていいます。よろしくおねがいします」

 「ふふっ、知ってる。それと、私の事は名前で呼んでくれて構わないわよ」

 「え、えっと、聡里先輩……」

 「そうそう、よろしくね」

 そう言って、聡里先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 面接の時は緊張していてそんな事に気にしていなかったが、改めて一対一ではなしているとこの人はかなり美人なんだという事に気付いた。

 美人というよりも美少女と言った方がいいかもしれない。なんとなく無邪気で活発な人、そんなイメージだった。

 そして、時々なんというかわざとやっているんじゃないかというような可愛らしい仕草をしたりして時々ドキッとなる。

 スタイルもよく、これは男子に人気がありそうだな~と思わせるには十分だった。

「それじゃ、私はこれから始業式だから。弘人くんも入学式頑張ってねー!」

 そういって聡里先輩はさっさと走り去ってしまった。

 入学式の何をがんばればいいのだろうか。

 それよりも早くいかなければ入学式に遅れてしまう。

 聡里先輩の雰囲気にのまれてしまったのか緊張していたはずの僕はなんとなく足取りが軽くなっていた。

 

 

 山々で囲まれた羽名城市はなしろし。南部に行くにつれてさまざまな商店やビルなどが並ぶ街並みにではあるが、それと反対に北部のほとんどは田畑と住宅街で形成されている。

 そんな北部にその学校はある。

 私立天明総合学園。

 進学、芸能、芸術、体育、商業、農業、工業の7つの科を擁するこの学校はもとは隣り合わせの4つの学校でだったらしい。それがすべて合併した結果、有数の巨大校となったわけだ。

 この学校は西側に高校、東側に大学を備えていて、僕は晴れて西側の高校へと進学したわけだ。

 志望動機はいたって単純で「将来の目標が見つかってないから」だ。

 この学校は手続きを踏めば転科することができる。そして、これだけの科があればいつか将来の目標が見つかった時、すぐにそれに向けて取り組むことができるという寸法だ。

 僕と同じように、考えているものは多くいつもこの学校への志望者が後を絶たない。

 けれど、面接重視の受験ということもあってか、僕はその定員に入ることができたわけだ。

 そう、最初はこの大きな学校に足が竦んだりもした。けれど僕は無事に入学式からの2週間をこの学校で過ごせている。

 「まあ、クラスの雰囲気はほとんど葬式ムードみたいなかんじなんだけどね」

 僕は小声でそう呟いた。

 そう、そこが問題なのだ。

 今は昼休みだ。しかし、席を立ち友達と談笑するもの、一緒に購買にでも行って何か買ってこようと誘っているもの、そんな高校生なら当たり前の風景の代わりに、クラスメイト達は揃いも揃って静かに黙々と弁当を食べている。

 誰一人、声を発しない。

 誰一人、席を立たない。

 そんな生活がかれこれ2週間続いている。

 今までオリエンテーションとかそういうものはあったし、親睦を深めるためのイベント的なのもHRホームルームでやったはずだ。しかし、今の状態を見る限りこのクラスには内向的な人物が多いらしい。

 僕の通う進学科は3クラス存在する。しかし、廊下の賑わいを見る限りこんな葬式ムードになっているのはこのクラスだけのようだ。

 もしも、同じタイプの人間だけをこのクラスに固めたというなら面接官の慧眼には敬服せざるをえない。

 かくいう僕も内向的な人間なので、結局この場で静かに弁当を食べることしかできないのだけれど。

 中学時代の学友のことごとくは違う科に進学しており、ちがう校舎にまで足を伸ばすのも気が引ける。

 だからまあ、この現象は時間がたてばどうにかなるだろうと諦めるしかない。

 弁当も食べ終わり、このどんよりとしたムードの中にいるのはなんとも心苦しいものがあったので、僕は図書室で残りの時間を過ごすため、教室を出た。

 



 この学校の図書館は4つの学校が合併しただけあってかなりの蔵書量がある。きっと小説だけでもこの高校生活ですべて読み切ることは難しいだろう。

 そんな図書館は一般の人たちにも貸し出せるように学校の校門近くに建てられている。

 幸運なことに、校舎側からその図書館に通じる唯一の渡り廊下は進学科一階から伸びており、昼休みの暇な時間を過ごすにはうってつけだった。

 この二週間、昼食後の昼休みの過ごし方と言ったらこの図書館で静かに本を読むことだった。

 静かなところっていうなら教室で読めばいいじゃないか、と言う人もいるかと思うがそれは大きな間違いだ。

 なんとなく気まずさからくる沈黙と、規則としての沈黙では雰囲気というものが全く違うのだ。

 気まずさからくる沈黙すら心地がいいと思う人がいるならば僕は素直にその人を尊敬しよう。

 それは置いておいて、だ。僕は後者の沈黙は心地がいいと思うわけだけれど、それは所詮規則によって発生しているものだ。

 だから、規則からくる沈黙というのは基本的に皆の良心に頼っている節があるので、稀にあぁやって騒ぐ人も出てくる。

 「あの、何か用ですか?」

 「そこの君、ちょっと今時間あいてる? 俺たちと一緒にお茶でもしようぜ」

 お決まりの文句を言いながらナンパをしているのは他校の男子生徒だろう。一人の女子生徒の行く手を塞いでいる。

 この時間にこの場所にいるというのはきっと学校を抜け出しているからだろう。

 しかし、ナンパをするにも場所というのがある。なぜ図書館を選んだのか疑問だ。

 もしかしたら、この学校を志望校にしていたが落ちてしまい、仕方なく違う学校に進学したけれど空気に馴染めず抜け出し、しかしこの学校に未練があり一般公開されている図書館へ来て、そこにいた女の子に一目惚れし、ナンパした。という妄想をしたが所詮妄想だ。真実は定かじゃない。

 どちらにしろ場違いなことこの上ない。

 「すいません、もうすぐ次の授業が始まるのでご遠慮させていただきます」

 「そう言わずにさ~。俺今チョー暇だからさ。付き合ってよ」

 「ですから……」

 女子生徒が断ってもしつこく付きまとっている。

 んー、これは助け舟を出したほうがいいのかな。

 僕はそう思い、本をたたんで立ち上がろうとした。

 「あーもうめんどくさいなぁ」

 僕が腰を浮かしたその瞬間、女子生徒は心底面倒くさそうにそう呟き、手を上げる。

 するとどこからともなく黒服のがたいのいい男が数人現れ男をどこかへ連れさっていった。

 え、えー。あれってボディガード? 

 今見た光景が僕の中でいまいち現実味を帯びず、硬直してしまう。

 そんな僕の視線に気づいたのか、女子生徒がこちらを向いた。

 「んー? 君、どこかで………」

 最初、自分の事だとは気付かず、キョロキョロと周りを見まわし、付近にほかの人の姿が無いことを確認したあと僕はその事実に気付く。

 「えっと、僕?」

 「そうだよ、君」

 ハッキリ言って僕の記憶が正しければ女子生徒との面識はないはずだ。

 それとも僕が忘れているだけなのだろうか。

 「君の名前は?」

 「………駒野弘人、ですけど」

 「駒野、駒野………あぁ、そうお姉ちゃんの……」

 ぶつぶつと呟いた後、何かを思い出したかのように大きくうなずいた。

 「ん、弘人ね。近いうちにまた会うことになるだろうからその時はよろしくね」

 そう言うと彼女は何事もなかったかのように背を向け、そそくさと図書館から出て行ってしまった。

 「は、はぁ………」

 いまいち状況が呑み込めず立ち尽くす僕の耳には次の授業を知らせる予鈴が鳴り響いた



 次の授業は滑り込みで遅刻を回避し、息を切らし席に着いたのと同時に担任教師が教室へと入ってきた。

 「はい、これよりHRホームルームを始めます。今日は部活動についての説明をするのでしっかりと聞くように」

 そう言いながら担任教師はプリントを配り始める。

 前の席から回ってきたプリントを一枚抜き取り、残りを後ろの席へと回し、俺は今しがた抜き取ったプリントに目を通す。

 どうやら部活動の申請書のようだ。

 部活か……面倒だし帰宅部でもいいかな。

 たしか、この学校は部活動に入るかどうかは自由だったはずだ。これといってやりたいことのない僕が選ぶには妥当なところだろう。

 「あのー先生、一枚プリントが足りないんですが」

 一人の生徒が席を立ち、教卓に戻って説明を始めようとしていた担任に駆け寄っていった。

 「ん? きっちり必要分刷ってきたはずなんだがな……」

 担任は首をかしげたが、すぐにハッと何かを思い出したような顔をする。

 「おい、駒野。お前もう部活動決まってたろ。その用紙を返してくれ」

 え? 僕?

 このクラスには駒野という苗字は僕しかいないはずだ。つまりそれは人違いでもなんでもなく僕を指しているという事だ。

 だからこそ疑問が生じる。

 「あのー、僕、部活を決めた覚えはないんで、何かの間違いじゃないですか?」

 「そんな事はないはずだぞ。一週間前、俺の机の上に確かにお前の名前の入部届が置かれていたし、親の印と署名もしっかりあったしな」

 あれー? おかしいな。

 「………ちなみに何部ですか?」

 「新聞部だな」



 入部してしまっているからには規則に従い、退部届を書くしかないらしい。

 先生から退部届を受け取り、放課後、僕は新聞部があるという特別棟へ行く。

 何とも厄介なことに退部には顧問の署名が必要らしい。しかも、その顧問の先生は基本的に新聞部の部室にいるらしい。むしろ新聞部顧問のためだけに出勤しているとかなんとか。

 なんだそりゃ、としか言いようがないが事実なのだから仕方ない。職員室には本当にその先生の机はなかったし、他の学科の友人に聞いても学科ごとの職員室にはその先生の机はなかったそうだ。

 なんとなく嫌な予感しかしないなぁ。

 僕は生徒会直属新聞部部室と大きくプレートの掲げられたドアの前に立ち尽くしていた。

 3階ということもあってか人気がまるでない。どうやらこの階にはほかの部活動の部室などはないようだ。

 グラウンドからは帰路に就く生徒や部活動に勤しむ生徒の笑い声や、掛け声が聞こえてくる。本来なら僕は今頃あの一団に交じって自宅を目指していたことだろ。

 早く家に帰ってだらけたいというのは学生ならば当然の思考だ。

 いつまでもここで突っ立っていても仕方がない。僕は緊張しつつも扉をノックする。

 「失礼します」

 「おぉ~、弘人君じゃないか! 待っていたんだよー」

 僕が扉を開けると目の前の長机でだらけていた座っていたその人は、顔をあげ嬉しそうにそういった。

 「えっと、聡里先輩?」

 そう、その場にいたのは入学式、突然僕に話しかけてきた聡里先輩だった。

 「そうだよ~そうそう。今回は覚えていてくれたんだね」

 「流石に2度も会って、しかも自己紹介までしてもらった人の名前を忘れるほど僕は記憶力が悪くはないですよ。……それにしても、聡里先輩はどうしてここに?」

 「やっだなー、もうわかってるんでしょー。それと、ここでは部長って呼んでね!」

 「えっと、それってつまり…………」

 僕の言葉に、さも当然のようにそして心から楽しんでいるかのように先輩は両手を広げ、こう告げる。

 「ようこそ新聞部へ。部長の天明聡里が心から君を歓迎するよ」

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