病弱な婚約者が幼馴染を優先して呼びつけます
「またですか…」私は、伝令の従者に向かってためいきをついた。
先週に続いて、アラン様が体調を理由に私との約束をキャンセルした。
今日は朝からピクニックに行く予定だったのに…。
お弁当も用意したのに…。
アラン様との顔合わせの時は、とても元気そうだったし、体格も良かったし、体が弱そうには見えなかったけれど…。
「アラン様は、どこかお悪いのですか?」
と聞いてみると
「いえ、そういうわけでは…」
従者は目を泳がせながら
「あっでも、たまにあの、持病の頭痛が出ることがありまして。でもあの、1日で治るので、何もご心配はいらないのです」
と言う。
ものすごくうさんくさい。
まさか、仮病?
私と会いたくないとか?
向こうからの「たっての望み」で婚約したはずだったけど、実は違うのかしら…。
『疑問はすぐに解決するに限る』が信条の私なので、とっとと確かめに行くことにした。
「心配だからお見舞いに参ります」
「え!!!」
なぜかうろたえる従者。
「今から伺いますとお伝えください」
「えっいや、それは」
「何か問題でも?」
「あのその、今日は、マチルダ様が看病に来てくださっているので…」
私は眉をピクリと動かし
「マチルダ様?」
と聞き返した。
「は、はい、イカンセン子爵家のご令嬢で、アラン様の幼馴染なのです。アラン様の持病にも慣れていらっしゃるので、ご心配は無用だと思うのです」
「よけい心配になったわ」
「ええ~~~~~?!」
なんでそこで驚くんだ。バカなのかこの従者。
「そのマチルダって人。幼馴染とはいえ、婚約者のいる異性の看病にくるなんて、おかしいでしょう。下心があるとしか思えない」
「そ、それはないです。アラン様がお呼びになったので」
「アラン様が!?」
私の剣幕にびびったのか、従者がびびっと硬直する。
「そう、アラン様が呼びつけたの。体調が悪い時に、子爵家の令嬢を。それはどういうつもりか、はっきり問いたださないといけませんね。マチルダ様にもぜひ、お会いしてお話を伺いたいので、帰らないで
下さいと、伝えてくださいな」
「え、あの」
「私は侯爵家の人間ですわ。子爵家の小娘にバカにされる筋合いはないし、伯爵家のアラン様に浮気を許すつもりもない。自分のしたことの責任は、きっちり取ってもらわないと」
「や、あの、ちょっと待ってちょっと待ってクラウディア様」
自分がとてつもない失言をしたことに気づいたのか、従者はがくがく震えていたが
「早く伝えに行きなさい!」
と一喝したら、わたわたと早馬を走らせに行った。
私もすぐに馬車を用意させ、アラン様のお邸に向かった。
ほどなくアラン様のお邸に着いて、鼻息荒く案内を待っていると、
「バカじゃないのー! なんでそんなこと言ったのー! いやあああ、侯爵家に睨まれたら、うちなんかゴミムシよーー!」
「ほんとだよー! どうしてもっとうまく言い訳しなかったんだよ!浮気してると思われたらどうすんだよーー!」
と叫ぶ声が聞こえた。
思われるもなにも、浮気してたんでしょうに、なんて往生際の悪い。
そう思いながら、通された応接間に入ると、
アラン様と、マチルダ様と思しき令嬢が、ジャンピング土下座した。
「ごめんなさい!」
「申し訳ありません!」
2人して頭をこすりつけている。
「……いいから頭を上げて説明して。これはどういうことですの?」
アラン様がおそるおそる顔をあげて
「実は…」
と話し出した。
「二日酔いで…」
は?
「頭がガンガンして、これで馬車に乗ってピクニックは無理だと思って、断りを入れてしまったんです…本当にごめんなさい…」
は?
「どういう言い訳? 今日のキャンセルが二日酔いのせいだとしても、私という婚約者のいるあなたが、他の令嬢を呼ぶ必要はないわよね?」
あわててマチルダ様が頭をあげる。
「それはあの、私が、アラン様の二日酔いによくきく薬草茶の作り方を知ってるもので、二日酔いになるといつも呼び出されるんです…」
「……」
「ごめん! 本当にごめん! デートの約束を、二日酔いなんかで破ったら嫌われると思って、ごまかそうとして、ごめん!」
「……」
「アラン様! お酒を飲んだ理由もちゃんと言うのよ! デート前につぶれるほど飲む男なんて、最低なんだから!」
マチルダ様が叫んだ。
「え、え、だって」
「言え! ちゃんと言うのよ! クラウディア様とデートすると思ったら、うれしくてうれしくて、緊張して眠れなくて、眠れるまで飲もうとしたら飲み過ぎたって!」
え…
「わああああ言うなよ恥ずかしいいいいいいい」
「言わないほうがやばいんだってば! ちゃんと言え~~~~!」
マチルダ様は顔を上げて私を見ると、
「私はちゃんと言ったんです!『私がここに来たら、クラウディア様が不快に思うかもしれないから、薬草茶の作り方をクラウディア様に教えるから、クラウディア様に作ってもらいなさい』って!」
「なのに、『こんなみっともない姿をあのかたに見せられない』だの『クラウディア様が作ったものなんて、緊張で飲み込めるわけがない』だの言って! 結局こんなふうに誤解されて! ほんとバカ!」
「だって…」
しょんぼりするアラン様と、お母さんのようにぷりぷりするマチルダ様。
そっかあ。なんだ、そうだったのかあ。
「ほんとバカね…」
「ご、ごめんなさいクラウディア様、嫌いにならないで…」
土下座したまま、うるうると私をみるアラン様の姿に、つい、「かわいい」と思ってしまった。
なので「わかったわ。今日のところは信じてあげる」と言って2人を立たせ、
「薬草茶の作り方を教えてくれる?」
とマチルダ様にお願いした。
「幼馴染を優先する婚約者」に挑戦してみたんですけど、なんか違う。




