第9話 神様のお告げ
朝の鐘が鳴る。
リリンは目を開けた。
静かな朝だった。
……静かすぎるくらいに。
しばらく天井を見つめてから、ゆっくり体を起こす。
(祈りなさい)
「はい、神様」
リリンは素直に頷いた。
ベッドから降り、窓を開ける。
朝の光が部屋に流れ込む。
庭では鳥がさえずり、教会の木々が風に揺れていた。
とても穏やかな朝だ。
リリンは胸の前で手を合わせる。
「今日もよろしくお願いします」
(祈りなさい)
「はい」
祈る。
いつも通りだ。
昔は祈りの途中でも、神様はよく話しかけてきた。
『行きなさい』
『助けなさい』
『祈りなさい』
朝からとても忙しい神様だった。
でも最近は、少し落ち着いた気がする。
きっとリリンが慣れたのだろう。
神様のお告げも、ちゃんと分かるようになった。
(行きなさい)
「はい?」
リリンは顔を上げた。
「どこへですか?」
少しだけ考える。
それから、うんと頷いた。
「南の通りですね」
聖女見習いの服を羽織り、教会を出る。
朝の町はいつも通りだ。
パン屋からいい匂いがしている。
市場では野菜を並べる音。
誰かが水を撒いている。
「おはようございます!」
リリンが声をかけると、パン屋のおばさんが笑った。
「あらリリンちゃん。今日も神様かい?」
「はい」
リリンはにこっと笑う。
「今日は南の通りに行きなさいって」
「はは、朝から忙しい神様だねぇ」
おばさんは楽しそうに笑った。
リリンもつられて笑う。
「本当にうるさいんですよ」
そう言いながら、南の通りへ向かう。
歩いていると、小さな声が聞こえた。
「……あれ?」
道端に、籠が置いてある。
中にはパンが入っていた。
まだ温かい。
でも、持ち主がいない。
リリンは周りを見回す。
すると少し先で、若い女の人が慌てているのが見えた。
「すみません!パン屋さんの籠見ませんでした?」
「あ、これですか?」
リリンが持ち上げると、女性はほっと息をついた。
「よかった……途中で落としたみたいで」
「神様のお告げですから」
リリンは笑う。
女性は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「やっぱり聖女見習いさんですね」
「まだ見習いですけど」
籠を渡すと、女性は何度も頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
リリンは軽く手を振る。
女性が去っていくのを見送ってから、空を見上げた。
「神様、これでしたか?」
(祈りなさい)
「あ、そうでした」
リリンは少し笑った。
「神様、最近ちょっと静かですね」
昔はもっとたくさん話しかけてきた。
でも今は、必要なことだけ言う。
きっと神様も忙しいのだろう。
それでも。
「ちゃんと聞こえてますからね」
リリンは胸の前で手を合わせる。
町の人たちは普通に歩いている。
誰も不思議そうな顔はしない。
リリンが神様と話すのは、いつものことだから。
(祈りなさい)
「はい」
リリンは小さく笑った。
「神様は、本当にうるさいですね」




