第7話 お告げ
その日の昼。
町の外れで、騒ぎが起きていた。
知らない男が村に入ってきたのだ。
服は破れ、血がにじんでいる。
兵士だった。
村人が小声で言う。
「敵国の兵だ」
「戦争の……」
男は歩く力もないらしく、ふらつきながら倒れた。
それを見た宿屋の主人が駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
男は何か言おうとしたが、声にならない。
主人は周りを見た。
そして小さく言う。
「……中に入れろ」
宿屋の裏口が開く。
男は中へ運ばれていった。
それを見ていた村人たちは、何も言わなかった。
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夕方。
村に馬の音が響く。
憲兵だった。
三人。
鎧の音を鳴らしながら村へ入ってくる。
「敵兵がこの辺りに逃げ込んだ」
「見た者はいるか」
村人たちは顔を見合わせる。
誰も答えない。
その時。
憲兵の一人がリリンたちを見つけた。
「お前たち」
教会の前にいた二人。
リリンとセレナ。
「聖女見習いだな」
リリンはうなずく。
「はい」
「神託が聞けると聞いた」
憲兵は言う。
「敵兵を追っている」
「どこにいる」
セレナが小さく息を呑む。
リリンは目を閉じた。
『リリン』
神様の声。
『宿屋の倉庫』
短い言葉だった。
リリンは目を開ける。
「宿屋の倉庫です」
迷いなく言った。
憲兵はすぐに馬を回す。
「行くぞ」
宿屋の扉が蹴り開けられる。
怒鳴り声。
物が倒れる音。
そして。
引きずり出される男。
宿屋の主人と、その家族。
「かくまっていたな」
「違う、俺はただ……!」
憲兵は聞かない。
兵士は縄をかけられ、乱暴に馬へ縛りつけられる。
宿屋の家族も連れていかれる。
村は静まり返っていた。
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しばらくして。
セレナが言った。
「……今の」
リリンはうなずく。
「神様のお告げです」
その顔は穏やかだった。
セレナはリリンを見る。
「満足なの?」
リリンは不思議そうに言う。
「はい」
「神様のお告げですから」
セレナの顔が歪む。
「……あれで?」
リリンは首をかしげる。
「どういう意味ですか?」
セレナは空を見上げた。
「神様」
声を張る。
「いるんでしょ?」
風が吹く。
何も返らない。
セレナは続けた。
「神様なんていないんじゃない?」
「自分勝手だよ」
「いるなら何か言えよ!」
声が村に響く。
沈黙。
神の声は聞こえない。
リリンには。
いつも通り聞こえていた。
『祈りなさい』
リリンは静かに言う。
「セレナ」
「祈りましょう」
セレナは笑った。
怒った笑いだった。
「……やっぱり変だよ」
⸻
次の朝。
鐘が鳴る。
祈りの時間。
裏庭にいたのは一人だった。
リリン。
セレナは来なかった。
リリンは少しだけ寂しく思う。
でも。
『祈りなさい』
神様の声は、今日もはっきりしている。
だから。
これでいいのだ。
リリンは静かに手を合わせた。




