第5話 祈りなさい
ヴィオラがいなくなってから、数日が過ぎた。
教会の朝は、少しだけ静かになった。
祈りの時間。
並んでいるのは二人だけ。
リリンとセレナ。
リリンは目を閉じる。
『祈りなさい』
神様の声は、今日も変わらない。
隣を見る。
セレナも祈っている。
祈りが終わると、セレナが小さく息を吐いた。
「なんか静かだね」
「そうですね」
リリンも少し寂しそうに笑う。
「ヴィオラがいないと」
「教会、広く感じます」
セレナは肩をすくめた。
「戻ってくるかな」
「どうでしょう」
リリンは少し考える。
それから言う。
「でも、神様の判断ですから」
セレナは何も言わなかった。
⸻
その日の昼。
町の通りで声が上がった。
「誰か!」
「助けてくれ!」
人が集まっている。
リリンとセレナも駆け寄る。
地面に倒れている男。
足が腫れている。
誰かが言う。
「毒蛇だ」
「さっき噛まれたんだ!」
男は苦しそうに呼吸している。
その時。
『祈りなさい』
リリンの耳に声が届く。
隣を見る。
セレナも同じ顔をしていた。
「……聞こえた?」
「うん」
二人は同時に言う。
「祈りなさい、でしょ」
リリンはすぐに膝をついた。
「神様」
手を合わせる。
祈る。
ただ、それだけ。
セレナは立ったままだった。
倒れている男を見る。
青い顔。
荒い呼吸。
セレナはリリンを見る。
「祈るの?」
「はい」
リリンは迷わない。
「神様のお告げです」
セレナは空を見上げた。
「……」
それから言った。
「ごめん」
「私は違うと思う」
リリンが顔を上げる。
「セレナ?」
セレナは周りの人を見る。
「隣町に医者いるよね」
「馬車!」
「馬車出して!」
人々がざわめく。
セレナは男を支える。
「病院まで運ぶ!」
リリンはその背中を見ていた。
⸻
夜。
教会の扉が開く。
セレナが帰ってきた。
服が汚れている。
疲れた顔だった。
リリンはすぐ立ち上がる。
「どうでしたか」
セレナは少し黙る。
それから言った。
「……間に合わなかった」
静かな声だった。
教会は静まり返る。
リリンは目を伏せた。
「そうですか」
それから、ゆっくり聞く。
「セレナ」
「祈らなかったのですね」
セレナはうなずく。
「うん」
「違うと思ったから」
リリンは首を振った。
「神様が違うわけありません」
その言葉は、迷いがなかった。
セレナは少しだけ眉を寄せる。
「……そうかな」
リリンは静かに言う。
「神様のお告げです」
「従うべきです」
セレナは何も言わなかった。
ただ。
ほんの少しだけ。
リリンを見る目が変わっていた。




