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第3話 祈りの届かない朝

朝の祈りが終わる頃だった。


リリンはふと顔を上げる。


「……神様?」


『川へ行きなさい』


短いお告げだった。


リリンは目を開ける。


隣を見る。


セレナも同じ顔をしていた。


「聞こえた?」


「川でしょ?」


二人は同時に言う。


リリンは小さくうなずいた。


「やっぱり」


セレナはすぐ立ち上がる。


「行こ!」


「え、もう?」


「急いだ方がいい気がする!」


セレナはそう言って走り出す。


リリンも慌てて後を追った。


裏庭に残ったのはヴィオラだけだった。


白金の髪が、朝の光を受けて静かに揺れる。


ヴィオラは空を見上げた。


「神様」


静かに祈る。


「私にも、お告げを」


風が通り過ぎる。


声は聞こえない。


ヴィオラは少しだけ首をかしげた。


「……今日はまだでしょうか」


その時だった。


教会の扉が勢いよく開いた。


「すみません!」


女性が駆け込んできた。


顔色が真っ青だ。


「どうしました?」


ヴィオラはすぐに近づく。


「息子が……帰ってこないんです」


「帰ってこない?」


「朝からいなくて……どこに行ったのか分からなくて……」


女性は震える声で続ける。


「町中探したんです。でも……」


「もしかして、神様のお告げが聞けるかもしれないって……」


ヴィオラはうなずいた。


「分かりました」


手を合わせる。


祈る。


深く、静かに。


「神様」


「どうか、お導きを」


教会は静かだった。


鐘も鳴らない。


鳥の声も遠い。


ヴィオラはもう一度祈る。


「神様」


「どうか……」


沈黙。


何も聞こえない。


ヴィオラの指先がわずかに震える。


どうして。


いつもなら。


その時だった。


教会の外から声が聞こえた。


「ただいまー!」


扉が勢いよく開く。


びしょ濡れのセレナが飛び込んできた。


その後ろには、同じく濡れたリリン。


そして。


小さな男の子。


「お母さん!」


女性が駆け寄る。


「よかった……!」


男の子を抱きしめる。


セレナが笑う。


「川に落ちてたんだよ」


リリンも息を整えながら言う。


「神様が教えてくれました」


女性は何度も頭を下げた。


「ありがとうございます……!」


教会の中に安堵の空気が広がる。


その少し後ろで。


ヴィオラは静かに立っていた。


二人を見る。


濡れた服。


震える肩。


助けた子供。


全部、本物だ。


ヴィオラは空を見上げた。


「神様」


小さく祈る。


声は返らない。


ヴィオラはゆっくり微笑んだ。


「……そうですか」


その笑顔は、とても優しかった。


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