第10話 今日も神様がうるさいので祈ります
朝の鐘が鳴る。
リリンは目を覚ました。
静かな朝だった。
教会の部屋はいつもと同じ。
小さなベッドと、窓から差し込む光。
リリンはゆっくり体を起こす。
少しだけ待つ。
いつものように。
(祈りなさい)
「はい、神様」
リリンは素直に頷いた。
ベッドから降りて窓を開ける。
朝の風が部屋に入ってきた。
庭では鳥が鳴いている。
とても穏やかな朝だった。
リリンは手を合わせる。
「今日もよろしくお願いします」
(祈りなさい)
「はい」
祈る。
昔は祈りの途中でも、神様はよく話しかけてきた。
『行きなさい』
『助けなさい』
『祈りなさい』
朝から忙しい神様だった。
でも今は違う。
必要なことだけ、静かに教えてくれる。
(行きなさい)
「はい?」
リリンは顔を上げる。
少し考えてから頷いた。
「南の通りですね」
服を整えて教会を出る。
町は今日もいつも通りだった。
パン屋からいい匂いがする。
市場の準備の音。
誰かが水を撒いている。
「おはようございます!」
リリンが声をかけると、パン屋のおばさんが笑った。
「あらリリンちゃん。今日も神様かい?」
「はい」
リリンは笑う。
「今日は南の通りに行きなさいって」
「ははは」
おばさんは楽しそうに笑った。
「相変わらず忙しい神様だねぇ」
「本当にうるさいんですよ」
リリンは照れくさそうに言う。
「朝からずっとお告げなんです」
少し話してから、リリンは歩き出す。
南の通り。
石畳をゆっくり進む。
(祈りなさい)
「はい」
リリンはその場で手を合わせる。
町の人は誰も気にしない。
リリンが祈るのはいつものことだから。
祈り終えて、空を見上げる。
青い空。
雲がゆっくり流れている。
「神様」
リリンは小さく呼ぶ。
少しだけ静かな時間が流れる。
それでも、リリンは微笑んだ。
「ちゃんと聞こえてますよ」
(祈りなさい)
「はい」
リリンはもう一度手を合わせる。
昔より静かになったけれど。
それでも神様は、ちゃんとそこにいる。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
うるさいくらいに。
リリンは笑った。
「神様は本当にうるさいですね」
そして今日も、祈る。
神様のお告げだから。




