表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話 神様がうるさい朝

朝の鐘が鳴るよりも早く、リリンは目を覚ました。


というより、起こされた。


『リリン。起きなさい』


「……はいはい、起きますよぉ」


眠たい目をこすりながら、リリンは小さく文句を言う。


「神様、朝から元気すぎません?」


返事はない。

けれど声は続く。


『祈りなさい』


「今からやりますって」


ベッドから降りて、窓を開ける。

朝の光が小さな部屋に流れ込んだ。


教会の庭はまだ静かで、鳥の声だけが聞こえる。


平和な朝だ。


……ただ一つを除けば。


『リリン。南の通りへ行きなさい』


「はい?」


祈りの途中で、リリンは首をかしげた。


「今ですか?」


『南の通りへ行きなさい』


「祈りは?」


『あとで構いません』


リリンは少し考えた。


神様の声は、いつもこうだ。

優しいのに、妙に急かす。


「……分かりましたよ」


祈りを途中で切り上げると、聖女見習いの白い服を羽織り、外へ出た。



朝の町はゆっくり目を覚ましていた。


パン屋からはいい匂い。

市場では店を広げる準備。


リリンは軽く手を振る。


「おはようございます!」


「ああ、リリンちゃん。今日も神様とおしゃべりかい?」


パン屋のおばさんが笑う。


「うーん、今日はちょっとお告げ多めです」


「ははは」


軽い笑い声。


この町では、神様の声が聞こえることは珍しくない。

少なくとも、そう言う人は何人かいる。


だからリリンも特別ではない。


……ただ、少しだけよく当たる。


リリンは南の通りへ向かった。


朝の光が石畳を照らしている。


その時。


小さな泣き声が聞こえた。


「……え?」


角を曲がると、小さな男の子が座り込んでいた。


「う、うぇ……」


迷子だ。


リリンはしゃがみ込む。


「どうしたの?」


男の子は涙を拭きながら言った。


「……お母さん、いない」


「あー、迷子かぁ」


リリンは困った顔で空を見る。


「神様、これですか?」


『そう』


「やっぱりですか」


男の子の頭を撫でる。


「大丈夫。すぐ見つかるよ」


ちょうどその時。


「ルーク!」


遠くから声がした。


振り向くと、慌てた様子の女性が走ってくる。


「お母さん!」


男の子は飛びついた。


女性は何度も頭を下げる。


「ありがとうございます……!この子、気づいたらいなくなっていて……」


「いえいえ」


リリンは笑った。


「神様のお告げですから!」


女性は驚いた顔をする。


「やっぱり……神託なんですね」


周りの人も集まり始めていた。


「すごいなぁ」


「神様のお告げだ」


「本物の聖女になるかもな」


そんな声が聞こえる。


リリンは照れくさそうに頭をかいた。


「そんな大げさじゃないですよ」


ただ。


神様が言ったから。


それだけだ。


リリンは空を見上げる。


「ね、神様」


『リリン』


「はい?」


『祈りなさい』


「あ、そうでした」


リリンはくすっと笑った。


「神様は本当にうるさいですね」


その言葉は、町の人たちをまた笑わせた。


朝の光の中で、リリンは手を合わせる。


そして、いつものように思う。


神様は、今日も元気だなぁ、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ