表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類に見捨てられた地上で、俺と機械の少女だけが空を見る  作者: RIU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/37

第35章(前編):『星の海より愛を込めて(前編):全能なる女王と、欠落した心』

ステーションの最深部は、教会のように静謐だった。  壁一面の窓の向こうには、圧倒的な質量の地球が青く輝いている。


「綺麗でしょう?」


 イヴは窓辺に立ち、愛おしそうに地球を撫でる仕草をした。


「あそこには何十億もの人間がいる。でも、みんなバラバラで、喧嘩して、傷つけ合ってる。……見ていて可哀想になっちゃう」


 彼女が振り返る。黄金の瞳が、無垢な聖女のように潤んでいる。


「だから、助けてあげるの。私の細胞(胞子)を撒いて、全員私と一つにしてあげる。そうすれば、もう誰も寂しくない。みんなが私で、私がみんな。……最高のハッピーエンドだと思わない?」


 狂気だ。  彼女は本気で、それが善行だと信じている。人類を滅ぼすのではなく、自分の体に取り込んで「管理」しようとしているのだ。


「……お断りだ。俺たちは誰かの一部になりたいわけじゃない」 「そう。残念。……お兄ちゃんたちは、特等席を用意してあげようと思ったのに」


 イヴの表情から笑みが消えた。  空気が凍りつく。


「わからず屋な子供には、お仕置きが必要だね」


 彼女が指を鳴らした瞬間、床から巨大ないばらが噴出し、同時に空気が絶対零度まで低下した。


「なッ……『庭師』と『彫刻家』の能力!?」 「警告! 複合攻撃コンボ来ます!」


 アイリスが『アズラエル』で茨を切り裂くが、その断面から今度は衝撃波(歌)が放たれる。  『歌姫』の超音波だ。  アイリスが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「ぐっ……!」 「遅いよ」


 俺がライフルを構えるより早く、イヴが目の前に転移していた。『観測者』の未来予測だ。  彼女は軽くデコピンをするように、俺の胸を突いた。  ドンッ!!  重力操作による衝撃。俺の体は砲弾のように弾き飛ばされ、アイリスの隣に転がった。


「が、はッ……」 「マスター!」


 強すぎる。  四天王の能力すべてを、オリジナル以上の出力で使いこなしている。  イヴは床に浮遊したまま、退屈そうにあくびをした。


「ねえ、弱いなぁ。お姉ちゃんは失敗作だから仕方ないけど、お兄ちゃんは人間なのにどうしてそんなに脆いの?」


 イヴが黒い翼を広げる。  そこから放たれた黒い羽が、雨のように降り注ぐ。一本一本が、鋼鉄を貫く槍だ。


「しまっ――」 「シールド展開!!」


 アイリスが俺に覆いかぶさる。  ガガガガガッ!!  背中の装甲が削れ、火花が散る。彼女の悲痛な呻き声がインカムに響く。


「アイリス! もういい、離れろ!」 「いいえ……離しません! 私は、貴方の盾です!」


 羽根の雨が止むと、アイリスはボロボロだった。  美しい銀髪は焦げ、白い肌には無数の亀裂が走っている。  それでも、彼女の瞳は死んでいなかった。


「……あら、まだ動くの? しぶといね」


 イヴが右手を掲げる。  その掌に、どす黒いエネルギーが収束していく。  ステーション全体が振動するほどの高エネルギー反応。


「もういいや。まとめて消えちゃえ」


 『地球同化砲』。  これを撃ち込まれれば、俺たちどころか、眼下の日本列島ごと消滅するだろう。  万事休すか。  俺が歯噛みした時、アイリスがよろりと立ち上がった。


「……クロト」 「アイリス?」 「データ収集、完了しました。……彼女の攻撃パターン、思考ロジック、すべて解析しました」


 アイリスはオイルを流しながら、不敵に笑った。


「彼女は『最強』です。ですが、だからこそ致命的な弱点バグがあります」 「弱点だと?」 「はい。……彼女は『痛み』を知りません。傷ついたことがないから、守る方法も、立ち上がる方法も知らない」


 アイリスが『アズラエル』を構える。  その刃は折れかけ、エンジンは異音を上げている。だが、その闘志は最高潮に達していた。


「教えてあげましょう、イヴ。……傷だらけの私たちが、なぜ貴女より強いのかを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ