第24章:『黄金の孵化、あるいは最悪の協定(アライアンス)』
世界が、金色に染まった。
ゼルマンを飲み込んだ肉塊が内側から破裂し、眩い光の奔流が噴き出した。 衝撃波がアガルタの最深部を揺るがし、分厚い隔壁が紙のように千切れ飛ぶ。
「……エネルギー係数、測定不能。クロト、防御姿勢を!」
アイリスが即座に展開した電磁シールドの陰で、俺は目を見開いたまま固まっていた。 光の中から現れた「それ」は、あまりにも美しく、そして冒涜的だった。
透き通るような白磁の肌。黄金に輝く瞳。 そして背中には、ステンドグラスのような幾何学模様の光翼が六枚、神々しく広がっている。 顔立ちはアイリスに似ている。イヴにも似ている。 だが、決定的に違うのは――その瞳に「意志」が存在しないことだ。
『――システム再起動。汚染領域の浄化を開始します』
唇を動かさず、脳に直接響く声。 彼女が手をかざすと、空間そのものが削り取られたように消滅した。 床が、壁が、瓦礫が、原子レベルで分解され、光の粒子になって消えていく。
「な……ッ!?」 「回避ッ!」
アイリスが俺を抱えて跳躍する。 一瞬前まで俺たちがいた場所は、綺麗にえぐり取られて虚空になっていた。 戦う? 無理だ。あんなもの、どうやって倒す?
『検出。不確定要素。……削除します』
黄金の女神――『オリジナル』の視線が、空中の俺たちを捉えた。 終わった。 そう思った瞬間。
ドゴォォォォン!!
頭上の瓦礫の山が吹き飛び、赤い流星が降ってきた。 ド派手な着地音と共に現れたのは、赤いレインコートの少女。
「ちょっとママ! いきなり部屋を壊すのはナシでしょ!」
イヴだ。 彼女は不機嫌そうに頬を膨らませ、オリジナルに向けて黒い泥の弾丸を放った。 だが、泥はオリジナルの光に触れた瞬間、ジュッと蒸発して消えた。
「うわ、堅っ! パパ(ゼルマン)を食べたからパワーアップしてる!」
イヴが舌打ちをしてバックステップする。 オリジナルは無表情のまま、イヴにも光の雨を降らせる。 敵味方の区別などない。動くものはすべて「汚れ」として浄化するつもりだ。
「おい、そこの人間!」
瓦礫を避けて着地した俺たちに、イヴが声を張り上げた。 その顔からは、いつもの余裕が消えている。
「あいつ、放っておくとアガルタごと地上も消し飛ばす気だよ! 私の食事場がなくなっちゃう!」 「……それで?」 「取引しよっか!」
イヴはニカっと笑った。八重歯が光る。
「私一人じゃママは大きすぎて食べきれない。……あんたたち、手伝ってよ。あいつを殺す間だけ、休戦してあげる」 「ふざけるな! お前も人類の敵だろうが!」 「死んだら敵も味方もないでしょ? ……それとも、ここで仲良く一緒に消滅する?」
イヴの背後で、オリジナルの光翼が輝きを増し、巨大なエネルギー球が生成されていく。 あれが放たれれば、地下都市どころか、地上の一区画まで蒸発するだろう。
俺は歯を食いしばり、アイリスを見た。 彼女は『アズラエル』を構えたまま、俺の決断を待っている。
「……アイリス、やれるか?」 「推奨はしません。イヴの危険度はSクラスです。……ですが、生存確率をゼロからイチにする唯一の方法です」 「よし」
俺は叫んだ。
「乗ったぞ、イヴ! ただし、背中から撃ったら承知しねえぞ!」 「あはは! お兄ちゃん、大好き!」
イヴは無邪気に笑い、レインコートを脱ぎ捨てた。 その下には、黒いボンデージ風の戦闘スーツと、背中から生えるコウモリのような二枚の翼。
「行くよ、お姉ちゃん! 私が囮になるから、そのデカい鎌でガツンといって!」 「……命令しないでください。ですが――合わせます!」
『浄化光、照射』
オリジナルが腕を振り下ろす。 極大の閃光が放たれた。
「散開ッ!!」
俺の号令と共に、赤と黒、二つの影が左右に弾けた。 かつて殺し合った最強の二機が、今、神殺しのために並び立つ。 最悪で、最強の共同戦線の始まりだ。




