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人類に見捨てられた地上で、俺と機械の少女だけが空を見る  作者: RIU


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第21章 :『偽りの蒼穹、あるいは革命の電波ジャック』

地下鉄コロニーに戻った俺たちを迎えたのは、畏怖に近い沈黙だった。


 その原因は、アイリスが背負っている「それ」だ。  『断罪の機鎌アズラエル』。  折りたたまれた状態でも俺の身長ほどある巨大な刃は、赤黒い不気味な光を放ち、周囲の空気をピリピリと震わせている。


「……おいおい、とんでもないモンを拾ってきたな」


 ヴァネッサが呆れたように口笛を吹いた。


「これならアガルタの正門だって紙切れみたいに切り裂けるだろうよ。で? どうするんだ? 正面突破で殴り込みか?」 「いや、それは最終手段だ」


 俺はテーブルに地図を広げた。  アガルタは地下数百メートルに位置する巨大要塞だ。物理的な守りは堅い。だが、脆い場所が一つだけある。


「『空』を落とす」 「空?」 「アガルタの市民が見上げているあの青空は、巨大なホログラムスクリーンだ。あそこで暮らす連中は、その偽物の空の下で、自分たちが守られていると信じ込まされている」


 俺は懐から『原罪コード』のメモリスティックを取り出し、テーブルに突き立てた。


「この中には、奴らが隠してきた汚い真実が詰まってる。養殖される天使、実験体にされる人間……。こいつを、あの綺麗な青空にブチまけてやるんだ」


 ヴァネッサの隻眼がギラリと光った。


「なるほどね。平和ボケした貴族様たちに、現実リアルを見せてやろうって魂胆か。……性格悪いねえ、気に入ったよ」


 ***


 作戦目標は、旧『東京タワー』。  半ばから折れ曲がり、錆びついた鉄の墓標。だが、その基部にある送信ケーブルは、地中深くのアガルタ回線と物理的に繋がっている。


 俺たちは瓦礫の山を登り、地上200メートルの展望台跡地へと到達した。  強風が吹き荒れ、錆びた鉄骨が悲鳴を上げる。


「アイリス、接続コネクトできるか?」 「可能です。ですが、アガルタの防壁ファイアウォールは強固です。私の演算領域の90%をハッキングに回す必要があります」


 アイリスがタワーの露出したケーブルに、自身の指先から伸ばしたコネクタを接続する。  彼女の瞳が、高速演算を示す青白色に染まる。


「防衛システム、検知されました。……逆探知、来ます!」 「守りは任せろ。お前は声を届けることだけに集中しろ!」


 俺は『アズラエル』を構えた。  直後、空からアガルタの無人迎撃ドローンが飛来する。  だが、今の俺たちには『アズラエル』がある。アイリスが演算できなくとも、俺が武器を振るえばいい。


 ――いや、違う。  俺とアイリスは繋がっている。


「右だ!」


 俺の思考に呼応するように、背後のアイリスから補助信号が送られる。  俺はタワーの鉄骨を足場に、巨大な鎌を振るった。  ズバァッ!!  ドローンが一刀両断され、眼下へ落ちていく。


「解析完了。……セキュリティ突破クラッキング! チャンネル、強制開放します!」


 アイリスが叫ぶと同時、ケーブルから火花が散った。


 ***


 地下都市アガルタ。  永遠に晴天が続く、人工の楽園。  カフェでお茶を楽しむ市民、公園で遊ぶ子供たち。彼らはいつものように平和な午後を過ごしていた。


 その時だ。  ブツンッ。  空が、消えた。


 青空がノイズにまみれ、黒い砂嵐となる。  悲鳴が上がる中、巨大なスクリーンに映し出されたのは――地獄だった。


 『タスケテ……』  『ママ、イタイヨ……』


 培養カプセルの中で蠢く天使の胎児。  脳髄だけになって水槽に浮かぶ人間たち。  そして、それらを笑いながら見下ろす軍の上層部たちの映像。


 『な、何だあれは!?』  『嘘だ、あんな……あれが私たちのエネルギー源だというのか!?』


 混乱が伝播する。  そして、ノイズ混じりの空に、俺の声が響き渡った。


 『――聞こえるか、アガルタの羊たちよ』


 俺はマイクを握りしめ、かつての故郷に向けて言葉を放つ。


 『俺の名はクロト。お前たちが「ゴミ」と呼んで捨てた、元指揮官だ。……よく見ろ。それがお前たちの豊かな生活の代償だ。お前たちが安全圏で眠っている間に、どれだけの人間が部品にされたと思っている?』


 画面が切り替わる。  映し出されたのは、俺の隣に立つアイリスの姿。  美しくも悲しい、機械の少女。


 『この少女も、かつては人間だった。俺の姉だった。……アガルタは、お前たちの隣人を食い物にして生き延びている怪物だ!』


 俺は一呼吸置き、司令部にいるはずの「あの男」に向けて告げた。


 『ガランド大佐。そしてゼルマン博士。首を洗って待っていろ。……これから俺たちが、本当の「空」を届けに行く。その偽物の天蓋を叩き割ってな!!』


 ブツン。  通信を切ると同時、タワーの周辺に無数の赤い光が集まってきた。  アガルタの防衛部隊だ。  だが、もう遅い。種は撒かれた。


 アイリスがケーブルを引き抜き、ふらつきながら俺に寄りかかる。  その顔には、大仕事をやり遂げた満足げな笑みが浮かんでいた。


「……届きました、クロト。貴方の怒りも、悲しみも」 「ああ。これで世界はひっくり返る。……さあ、戦争だ」


 俺はアイリスを抱き寄せ、巨大な鎌を担ぎ直した。  偽りの空が消え、本当の夜明けが来るまで、俺たちの進撃は止まらない。

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