表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類に見捨てられた地上で、俺と機械の少女だけが空を見る  作者: RIU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/37

第19章:『機械の墓場と、偏屈な鉄槌(ハンマー)』

西への道は、文字通り鉄のしかばねで埋め尽くされていた。


 ガシャコン、ガシャコン……。  霧の中から現れたのは、半壊した建設用重機だ。AIがバグり、動くものすべてを粉砕しようとショベルを振り回している。


「障害物、接近! クロト、頭を下げて!」


 アイリスがバイクの後部座席から飛び出した。  彼女の手には剣がない。あるのは己の拳と、奪ったアサルトライフルのみ。  彼女は重機のアームを駆け上がり、コクピットへゼロ距離射撃を叩き込んだ。


 ドォォン!  重機が火を噴いて沈黙する。  アイリスは回転しながらバイクのシートへと戻ってきた。


「……打撃力不足です。チェーンソー剣があれば、一撃で切断できたものを」 「贅沢言うな。ナイスカバーだ」


 俺たちは荒野を駆ける。  メインウェポンを失ったアイリスは、それでも必死に俺を守ろうとしていた。その健気さが、痛いほど胸に刺さる。  早く、新しい牙を与えてやらなければ。


 ***


 瓦礫の山の頂上に、その「城」はあった。  トラックの荷台や鉄骨を無造作に積み上げて作られた、奇怪な要塞。  煙突からは黒煙が上がり、ハンマーを叩く重低音が地響きのように聞こえてくる。


 伝説の職人、ガンテツの工房だ。


「行くぞ。……っと、危ない!」


 俺はバイクを急停止させた。  直感リンクが警鐘を鳴らしたのだ。  次の瞬間、俺たちが踏み込もうとした地面が爆発し、隠されていた自動砲台セントリーガンが鎌首をもたげた。


「侵入者検知。排除シマス」 「ちっ、歓迎なしかよ!」


 俺は対物ライフルで砲台のセンサーを撃ち抜く。  だが、次々と新たな砲台が起動する。弾幕が厚い。


「クロト、私が盾になります! その隙に!」 「馬鹿野郎、お前を盾にするために来たんじゃない!」


 俺はバイクを捨て、アイリスの手を引いて瓦礫の影へ滑り込んだ。  そして、スピーカーに向かって怒鳴った。


「おいクソ親父! 客に向かって銃を向けるのがアンタの流儀か!?」


 一瞬の静寂。  やがて、ガーッというノイズと共に、ダミ声が響き渡った。


『客だと? アガルタの刻印が入った人形を連れたネズミが、客なわけあるか! 失せろ!』


 頑固だとは聞いていたが、ここまでとは。  だが、ここで引くわけにはいかない。


「アガルタの犬じゃない! 俺たちはアガルタを潰すために来た! ……そのための武器がいるんだ!」 『ハッ、笑わせるな! 人形風情に何ができる!』


 轟音と共に、要塞の重厚なゲートが開いた。  中から現れたのは、身の丈2メートルはあるパワードスーツを着込んだ老人だった。  白髪交じりの髭、ゴーグル越しの鋭い眼光。そして右腕そのものが、巨大な油圧式ハンマーになっている。


 ガンテツだ。


「ワシはな、魂のない人形が大嫌いなんだ。プログラム通りに人を殺す鉄屑に、ワシの作品は渡さん!」


 彼はハンマーを地面に叩きつけた。衝撃で地面が揺れる。  完全な拒絶。  俺が言葉に詰まった時、アイリスが前に出た。


「……下がれ、アイリス」 「いいえ、クロト。これは私の問題です」


 アイリスはガンテツの目の前まで歩み寄ると、汚れたドレスの裾を翻し――その場に膝をついた。  土下座だ。  プライドも、アガルタのプログラムも関係ない。ただの懇願。


「……なんだ、命乞いか?」 「違います。私の命など、再利用可能な資源に過ぎません」


 アイリスは地面に額を擦り付けたまま、凛とした声で言った。


「ですが、今の私ではマスターを守れません。……彼を守るためなら、私は悪魔に魂を売ってもいい。お願いです、力を貸してください」 「……」


 ガンテツの目がわずかに見開かれた。  プログラムによる防衛反応ではない。自己犠牲と、他者への強烈な執着。  それは、彼が嫌う「人形」にはあり得ない挙動バグだった。


「魂を売る、か。……なら、代価はあるんだろうな?」


 ガンテツが試すように言った。  俺はリュックから、イヴとの遭遇戦や、これまでの戦いで回収した「素材」を取り出した。  『セラフィム級天使のコア』。  そして、イヴが握りつぶした『No.00の泥の破片(硬化済み)』。


「……こいつは」


 ガンテツが破片を拾い上げる。その手が震えていた。  職人の目だ。それが通常の素材ではないことを、一瞬で見抜いている。


「坊主、お前ら……一体どこでこんな『地獄の欠片』を拾ってきやがった?」 「地獄の底さ。……これでも足りないか?」


 ガンテツはしばらく素材とアイリスを交互に見つめていたが、やがて「カッカッカ!」と豪快に笑い出した。


「気に入った! 上等な素材に、イカれた人形使い! 合格だ!」


 彼はハンマーの親指を立て、工房の奥を指差した。


「入りな。……丁度、アガルタの連中には扱いきれねぇ『じゃじゃ馬』の設計図があったところだ。こいつのコアなら、あるいは動かせるかもしれん」


 ゲートが完全に開く。  俺とアイリスは顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。  偏屈な鉄槌が、ついに俺たちを受け入れたのだ。


 工房の奥には、炉の炎に照らされて、巨大で凶悪なシルエットが眠っていた。  それが、アイリスの新たな翼となることを、俺たちはまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ