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人類に見捨てられた地上で、俺と機械の少女だけが空を見る  作者: RIU


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第16章:『堕ちたエリート、あるいは養豚場の屠殺者』

爆音と閃光が、夜明け前の空を焦がした。  正門付近で、ヴァネッサたちが派手に花火を打ち上げている合図だ。


「陽動開始を確認。……行こう、アイリス」 「了解。排気ダクトのファンを強制停止させます」


 俺たちは施設の裏手に回っていた。  『第3バイオプラント』。外見は無機質な白い箱だが、そこから漏れ出る排気は、甘ったるい腐敗臭がした。


 アイリスがダクトの金網を素手で引き剥がす。  その銀髪には、まだあの子供にもらった歪な造花が挿さっていた。  戦場には不釣り合いな飾り。だが、今の彼女にはそれが何よりも強力な「お守り」に見えた。


 ***


 施設内部は、地獄の製造ラインだった。


 ベルトコンベアに乗って運ばれていくのは、ピンク色の肉塊。  よく見れば、それは培養された『天使』の胎児だ。  そして、そのラインの横には、透明なチューブに繋がれた「栄養源」たちが並んでいる。地上で行方不明になった人々だ。彼らは生きたまま生命力を吸い上げられ、干からびていく。


「……吐き気がするな」 「心拍数上昇。……クロト、怒りのパラメータが限界値を突破しそうです」


 アイリスがチェーンソー剣のグリップをきしりと握りしめる。  彼女の怒りが、『共感接続リンク』を通じて俺の脳を焼く。


「ああ、同感だ。こんな所は存在しちゃいけない」


 俺たちは警備ロボットを最小限の動作で破壊しながら、最深部の制御室を目指した。  扉を爆破し、中へ踏み込む。  そこには、一人の男が待っていた。


「遅かったじゃないか、ゴミ拾いの諸君」


 回転椅子がゆっくりと回る。  そこに座っていたのは、シュナイダー中尉――だったモノだ。  かつての端正な顔立ちは半分が金属に覆われ、左腕は巨大なガトリング砲に、右腕は鋭利なヒートブレードに換装されている。  スマートさを誇っていた彼は、見る影もなくゴツゴツとした鉄の塊に成り果てていた。


「シュナイダー……か? 随分と変わったな」 「フフフ、素晴らしいだろう? 貴様らに恥をかかされたあの日、私は自ら志願して『強化人間』となったのだ!」


 彼は立ち上がり、機械の義足を鳴らして叫んだ。


「すべては、その生意気な旧型人形ヴィンテージをスクラップにし、私の汚名を返上するため! さあ、ひれ伏せ! 最新こそが最強だと教えてやる!」


 ガシャコンッ!  左腕のガトリング砲が回転を始める。  だが、俺は冷静だった。アイリスもだ。


「……アイリス、どう思う?」 「評価:下の下です。過剰な武装による重量増加、排熱処理の非効率さ、そして何より――美しくありません」


 アイリスは冷たく言い放つと、チェーンソー剣を構えた。


「なっ……貴様ァァァ!!」


 激昂したシュナイダーがガトリングを乱射する。  弾丸の嵐。だが、俺にはその弾道が「線」で見えていた。  リンクしたアイリスの超高速演算が、未来予知のように回避ルートを俺の脳に映し出す。


「右だ、アイリス!」 「了解!」


 アイリスは最小限の動きで弾幕をすり抜ける。  まるで舞を舞うように。髪飾りの造花すら揺らさずに。


「馬鹿な!? 私の弾が当たらないだと!?」 「お前の動きは『機械』そのものだ。予測しやすすぎる」


 俺は通信越しに嘲笑った。  シュナイダーは焦り、右腕のブレードを振り上げて突進してくる。


「なら、これで切り刻んでやる!!」 「遅い」


 交錯の一瞬。  ブォォォォォン!!  アイリスの『対艦用チェーンソー剣』が唸りを上げた。  横薙ぎの一撃が、シュナイダーのヒートブレードごと、その胴体を捉える。


 ギャリガリガリガリッ!!


「ぐ、がアアアアアッ!?」


 火花とオイルが飛び散る。  アガルタの最新鋭装甲が、旧時代の土木用工具に紙のように切り裂かれていく。  シュナイダーの上半身が、スローモーションのように宙を舞った。


 ドサリ。  床に転がったシュナイダーが、信じられないものを見る目で俺たちを見上げる。


「な、なぜだ……私は最新鋭だぞ……スペックでは勝っているはず……」 「スペックじゃねえよ」


 俺は彼の前に歩み寄り、冷たく見下ろした。


「お前は機械の力を過信し、自分を捨てた。……だがアイリスは、機械の体で『人の心』を学んだ。その差だ」 「カ、ハッ……ふざ、けるな……」


 シュナイダーは血の泡を吹きながら、這いつくばってコンソールへ手を伸ばした。


「まだだ……まだ終わりではない……! 私が死ぬなら、貴様らも道連れだ……!」 「自爆か? させない」


 アイリスが剣を振り上げる。  だが、シュナイダーが押したのは、自爆スイッチではなかった。  『緊急パージ:検体No.00(イヴ・オリジン)』と書かれた、禍々しい赤いボタン。


「アハハ……! 楽しめよ……この施設の『一番の化け物』となぁ!!」


 ズズズズズ……。  施設全体が激しく振動する。  床が割れ、地下深くから、この世のものとは思えない「黒い瘴気」が噴き出した。  勝利の余韻に浸る間もなく、俺の背筋に悪寒が走る。


 これは、マズい。  ただの『天使』じゃない。もっと根源的な、絶望の気配だ。

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