お母さんの誕生日プレゼント
下山由香は今日、18歳の誕生日を迎えた。高校3年生、もうすぐ大学受験を控えている。すでに専願も併願も決まっていて、そろそろ受験勉強は佳境を迎えようとしている。由香はとても頑張っていて、様々な問題集を使って頑張っている。とても大変だけれど、将来のためだ。頑張らなければ。
この日、由香は父、篤郎からお祝いされた。だが、母、瞳はいない。実は8年前の昨日に交通事故で亡くなった。それ以来、由香は篤郎と2人で暮らしてきた。
「誕生日おめでとう!」
篤郎に祝福されて、由香は照れた。ここまで育ってくれただけでも、とても嬉しい。由香は果たして、どんな大人になるんだろう。篤郎は由香の未来に期待していた。
「ありがとう!」
だが、篤郎は真剣な表情だ。いよいよ大学受験が迫っているからだ。
「いよいよ大学受験だね」
「うん」
と、由香はあるぬいぐるみを見た。それは、クマのぬいぐるみだ。とてもかわいらしいが、これは8年前、つまり10歳の時の誕生日プレゼントだ。だが、それを渡したのは、瞳ではなく篤郎だった。
「どうしたの?」
「このぬいぐるみの事を思い出してね」
由香はぬいぐるみにまつわる思い出を思い出した。忘れようとしても忘れられない思い出だ。
「あー、お母さんの買ってくれたぬいぐるみだね」
「お母さん・・・」
由香は瞳との10年間を思い出した。物心つく頃から一緒にいてくれたお母さん。入学式や授業参観では必ず来てくれた。なのに、10歳の誕生日の前日に目の前からいなくなってしまった。
「思い出したの?」
「うん」
由香はお母さんと永遠の別れをした日を思い出した。
それは由香の10歳の誕生日の前日だった。由香は興奮していた。瞳がどんな誕生日プレゼントを買ってくれるんだろうか? とても楽しみだ。小学校でもそれが気になってしょうがない。終始喜んでいた。先生も明日が誕生日だと知って、喜んでいた。きっと素晴らしい誕生日になるだろうな。
「明日は誕生日だよね」
「うん」
篤郎も瞳も祝福している。由香は嬉しくなった。瞳は時計を見た。そろそろプレゼントを買いに行かないと。だけど、誕生日で渡すまで中身は秘密だ。
「プレゼント、買わないとね。行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
瞳は玄関を出て、車に乗り、店に向かった。すでに買うものは決まっている。その為に頑張らないと。2人はその時、知らなかった。それが瞳の最後の元気な姿になる事を。
それから数十分後、2人は楽しみにしていた。母がどんなプレゼントを買ってきたんだろうか? 無事に帰ってこれるんだろうか? 不安だけど、頑張らなければ。
「楽しみだね」
「うん」
と、電話が鳴った。こんな時間に、何だろう。こんな時間に電話がかかるのはあんまりないのに。篤郎は受話器を取った。
「もしもし」
篤郎は電話を受けている。だが、徐々に篤郎の表情が変わっていく。そして、焦っている。どうやら、大変な事のようだ。由香はそれを感じていた。そして、由香も不安になった。
「えっ!? 事故?」
その言葉を聞いて、由香は呆然となった。事故って、まさか、瞳が?
「わかりました、今すぐ病院に行きます」
篤郎は受話器を置いた。篤郎は慌てている。その理由は、由香にもわかった。
「えっ、事故?」
「お母さんが交通事故に遭ったって。高齢者の運転する車とぶつかったんだって」
やっぱり事故のようだ。ここ最近、高齢者の交通事故が多い。度々ニュースに出ていたが、まさか瞳もそれに遭うとは。あまりにもひどすぎる。
「そんな・・・」
篤郎はすぐに病院に向かうため、鍵を持った。
「早く行くぞ!」
「はい!」
そして2人はすぐに病院に向かった。どうか助かってほしい。一緒に由香の誕生日を迎えたい。
2人は病院にやって来た。その間、2人は気にしていた。瞳は無事なんだろうか? 死んでいないだろうか? 目の前には医者がいる。どうやら2人の到着を待っているかのようだ。
「あっ、どうも、下山さん・・・」
だが、医者は浮かれない表情だ。何があったんだろうか? まさか、死んだのか?
「どうしたんですか?」
「こちらへどうぞ・・・」
医者の表情を見て、由香も不安になった。焦っていた今さっきの表情が、まるで嘘のように静まり返った。
着いた場所は、地下にある霊安室だ。それを見て、瞳は死んだんだと2人は確信した。由香の誕生日の前日に、どうしてこんな事になったのか。あまりにも残念過ぎる。
2人は霊安室に入った。そこには1人の女性が顔に白い布をかぶせられ、ベッドに横たわっていた。服を見て、篤郎と由香は心当たりがあった。瞳が来ていた服だ。まさか、これが瞳?
「えっ、まさか・・・」
「お亡くなりになりました・・・」
それを聞いて、篤郎はその場に崩れ落ち、涙を流した。そんな、死んだなんて、信じられない。
「そんな、お母さん・・・」
由香も崩れ落ち、涙を流した。こんなに早く、突然に永遠の別れをするなんて。あまりにもひどすぎるよ。
「ご愁傷様です・・・」
「瞳・・・」
篤郎は由香の肩を叩いた。だが、由香は泣き止まない。
と、篤郎は突然、医者に呼び出された。何だろう。まさか、遺品だろうか? その中には、由香の誕生日プレゼントがあるんだろうか?
「篤郎さん・・・」
「どうしました?」
医者はあるものを取り出した。それはクマのぬいぐるみだ。これが、由香の誕生日プレゼントだろうか?
「車からこんなのが見つかりました」
「これは・・・」
「何か心当たりあるんですか?」
医者は驚いた。これを知っているんだろうか? まさか、篤郎の思い込みだろうか?
「明日の由香の誕生日に渡すはずだったプレゼントだと思います」
それを聞いて、医者は驚いた。明日が娘の由香の誕生日だったとは。惜しい日に瞳を亡くしたものだ。残された由香がかわいそうに思えた。明日は誕生日なのに、通夜になってしまった。あまりにもひどいな。
「そうなんですか?」
「はい・・・」
篤郎は戸惑っていた。明日は通夜なのに、どうやってこれを渡そう。由香は喜んでくれるんだろうか?
翌日は通夜になった。多くの人々が家に来ているが、みんな暗い表情だ。由香の誕生日のはずなのに、暗い日になってしまった。どうしてこんな誕生日になってしまったのか。誰に聞いてもその理由が見つからない。
「由香、誕生日おめでとう・・・」
由香は振り向いた。だが、由香に笑顔はない。瞳が亡くなり、今日は通夜だからだ。通夜で笑顔を見せるのはあまりよくないと思っている。
「まさか通夜の日がそうなるとはな・・・」
と、篤郎はあるものを取り出した。それはクマのぬいぐるみだ。それを見て、由香は思った。まさか、これが瞳のが渡すはずだった誕生日プレゼントかな?
「由香、これ、お母さんが渡すはずだった誕生日プレゼント」
「えっ!?」
由香は驚いた。そして、残念そうな表情になった。できれば、瞳の手で渡されたかった。どうして篤郎から渡されなければならないんだろう。無念でしょうがない。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
由香は涙を流した。嬉しいのか、悲しいのかわからないけれど、今日は素直に喜ばないと。
篤郎もその日を思い出していた。あの日は、悲しまなければならないのか、喜ばなければならないのか、悲しみと喜びが交錯していたな。とても思い出に残っているな。
「そうだったね」
と、篤郎は空を見上げた。今頃、瞳は天国から由香を見ているだろうな。きっと喜んでいるだろうな。
「お母さん、きっと喜んでいると思うよ」
「本当?」
「うん」
由香も空を見上げた。いつでも瞳が見ている。だから、前を向いて進まないと。そして、瞳が生きられなかった分も頑張らないと。