聖なるハーブを求めて
若き女騎士アリアは、黄金に輝く髪を風になびかせ、見渡す限りの森の中を歩いていた。その手には、かつての旅の仲間であるネクロマンサー、エリオットからもらった古びた地図が握られている。
「…たしか、この辺りのはずなのだが…」
地図には、エリオットが住む古びた館の場所が記されていた。アリアは、旅の途中で偶然この地方を訪れ、エリオットに再会しようと館へ向かっていたのだ。しかし、故郷を離れてからの長い旅路で、地図を読む機会がほとんどなかったアリアは、いつの間にか道に迷ってしまっていた。
森は、どこまでも続き、同じような木々が、アリアを惑わせる。地図を広げても、どの道が正しいのか、さっぱり分からなかった。
「…くっ…!こんなところで迷子になるなんて…」
アリアは、自分の不甲斐なさに、歯噛みした。
その時、アリアの耳に、優しい声が聞こえてきた。
「…お嬢さん。こんな森の奥で、どうしたんだい?」
アリアが振り返ると、そこには、一人の老人が立っていた。老人は、手作りの籠を背負っており、その中には、色とりどりの木の実や、ハーブが詰まっていた。
「…私は…この森の奥にある…館を探しているのですが…道に迷ってしまって…」
アリアは、正直に、老人に話した。
「…ああ。あのネクロマンサーの館かい? だったら、私が案内してあげよう」
老人は、アリアの言葉に、にこにこと微笑んだ。
「…本当ですか…! ありがとうございます!」
アリアは、老人の言葉に、安堵の息をついた。
「…だが、お嬢さん。お前さんの格好…どう見ても、ただの旅人じゃないな」
老人は、アリアの鎧を見て、そう言った。
「…私は…騎士です」
アリアは、老人に、そう言って、にこにこと微笑んだ。
「…ほう。こんな森の奥に、騎士が…」
老人は、アリアの言葉に、少し驚いたような顔をした。
「…しかし。お嬢さん。あの館の主人は、ネクロマンサーだ。この村の者たちからは、少し…気味悪がられている」
老人は、アリアに、そう言って、悲しそうな顔をした。
「…そうでしたか…」
アリアは、老人の言葉に、少し心が痛んだ。
「…でも…いい人なんだ。ただ、人と…話すのが…少し…苦手なだけで…」
老人は、アリアに、そう言って、にこにこと微笑んだ。
「…はい。私も…そう思います」
アリアは、老人の言葉に、力強く頷いた。
老人は、アリアを、館へと、案内してくれた。
- 衝撃の再会 -
深い森の奥深く、人里離れた場所にひっそりと佇む古びた館。アリアは、老人に礼を言い、館の扉を開けた。
「…エリオット! 久しぶり! 旅の途中で、近くまで来たから、顔を見に来たんだ!」
アリアは、明るい声で、そう言って、館の中へと入っていった。しかし、返事はない。アリアは、不審に思いながら、奥へと進んでいく。そして、薄暗い部屋のベッドに、一人の少年が横たわっているのを見つけた。
「…エリオット…?」
アリアは、少年の名を、小さく呟いた。少年は、アリアの声に、ゆっくりと瞼を開けた。しかし、その瞳には、生気が宿っていない。顔色は土気色に近く、痩せ細った体は、見る影もなかった。
「…アリア…? なぜ…ここに…?」
掠れた声でそう答えるのが精一杯だった。アリアは、エリオットの姿に、驚きを隠せない。
「…エリオット…!? どうしたんだ…!? その姿は…!?」
アリアは、やつれた友人の顔を覗き込み、心配そうに声をかけた。エリオットは、かろうじて微笑んだ。
「ああ…アリアか...。すまない、こんな体たらくで...」
アリアは、エリオットの額にそっと手を当ててみた。焼けるように熱い。
「これは....ただの風邪ではないな。何か特別な病だろう?」
アリアの問いに、エリオットは小さな声で答えた。
「恐らく...呪いの一種だろう。最近、禁断の魔術書を調べていたのが原因かもしれない...」
それを聞いたアリアは、眉をひそめた。
「呪い...!そんな危険なものを...」
しかし、今はエリオットを責めている場合ではない。一刻も早く、この呪いを解く手立てを見つけなければ。
「何か、治療法はないのか?手がかりになるようなことは?」
アリアの必死の問いかけに、エリオットはしばらく考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「確か....古の時代に、あらゆる病を治すと言われる『聖なるハーブ』が存在したらしい..。しかし、その場所は...伝説の中の話で、定かではない...」
伝説のハーブ...そんな曖昧な情報だけでは、どこを探せばいいのか見当もつかない。しかし、他に手がかりがない以上、アリアはそれを頼りに動くしかなかった。
「分かった。私がそのハーブを探してくる。おとなしくここで待っているんだ」
力強くそう告げると、アリアはエリオットの館を飛び出した。
- ダンジョンへの旅立ち -
まずは、この地方の古い文献や言い伝えを調べる必要がある。アリアは、近くの街へと急ぎ、図書館や古書店を駆け回った。何日もかけて情報を集めるうちに、いくつかの手がかりが見つかってきた。
「聖なるハーブ」は、かつて「忘れられた聖域」と呼ばれる場所に生息していたらしい。そして、その聖域は、危険な魔物が棲む古いダンジョンの奥深くにあるという。
険しい道のりになることは覚悟の上だった。アリアは、日頃鍛えた剣術と持ち前の勇気を頼りに、そのダンジョンへと向かう決意を固めた。
ダンジョンの入り口は、鬱蒼とした森の中にひっそりと口を開けていた。じめじめとした空気と、奥から漂ってくる不気味な気配が、アリアの背筋をぞっとさせる。それでも、病に苦しむエリオットのため、アリアは躊躇なく暗闇の中へと足を踏み入れた。
ダンジョンの中は、複雑に入り組んだ通路と、崩れかけた広間が続いていた。足元には、朽ちた骨や錆び付いた武具が散乱している。時折、暗闇の中から不気味な唸り声や、鋭い爪の音が聞こえてくる。
アリアは、剣を構え、警戒しながら進んでいく。彼女の心の中には、病に倒れたエリオットの姿が、強く焼き付いていた。
「…待っていてくれ。エリオット。必ず…聖なるハーブを…見つけ出すから…!」
アリアは、そう心の中で呟き、ダンジョンの奥へと、さらに深く進んでいった。
彼女の冒険は、今、始まったばかりだった。




