フレッドとルパンの、愛情と情熱のパン
女騎士アリアとの出会い、そして共同でのパン工房立ち上げから、数ヶ月の月日が流れた。フレッドとルパンの「フレッドとルパンのパン工房」は、今や町で一番の賑わいを見せる人気店となっていた。年老いたパン職人と、若き情熱あふれるパン職人。二人の個性が光るパンは、人々の心を掴んで離さない。
これは、アリアが旅立つ前、町の片隅で営まれる、温かくて、少しおかしな日常の物語である。
「ルパン! また焦がしたのか!」
「うわっ! フレッドさん! びっくりさせないでくださいよ!」
パン工房の朝は、フレッドの大きな声と、ルパンの慌てた声で始まるのが日課だった。ルパンは、今日も、パンを焼くことに夢中になりすぎて、少し焦がしてしまったようだ。
「全く、情熱もいいが、焦げ付かせては台無しだろうが!」
「すみません…! でも、見てくださいよ! このパン、形は少し不格好ですが、味は最高ですよ!」
ルパンは、焦げ付いたパンをフレッドに差し出した。フレッドは、そのパンを一口食べてみると、驚きに目を見開いた。
「…なんだ、これは…! 焦げ付いているのに、香ばしくて、美味しいじゃないか…!」
「へへへ。僕のパンは、失敗作も美味しいんです!」
ルパンは、得意げに胸を張った。フレッドは、そんなルパンを見て、にこやかに微笑んだ。
「…そうだな。お前のパンは、失敗作も、お前の情熱が詰まっているから、美味しいんだろうな」
「フレッドさん…!」
二人の間には、温かい空気が流れていた。彼らは、互いの個性を尊重し、互いに高め合いながら、毎日、パンを焼いていた。
そんなある日、パン工房に、一人の老婦人がやってきた。彼女の名前はベアトリス。この町で、代々続く、洋服屋を営んでいた。
「フレッドさん。今日も、いつものパンを、お願いします」
「はいよ。ベアトリスさん。今日も、元気そうですね」
フレッドは、ベアトリスに、にこやかに言った。
「ええ。おかげさまでね。…しかし、フレッドさん。最近、新しいパン屋ができたと聞きましたが、あなたのパン屋は、大丈夫なのですか?」
ベアトリスの言葉に、フレッドは、微笑んだ。
「ベアトリスさん。この店は、僕一人でやっているわけではありませんよ。僕の情熱は、ルパンに引き継がれていますから」
フレッドは、そう言って、ルパンの方を見た。ルパンは、ベアトリスに、にこやかに微笑んだ。
「ベアトリスさん。これからも、僕とフレッドさんのパンを、よろしくお願いします!」
ベアトリスは、二人の姿を見て、温かい笑顔を浮かべた。
「ええ。これからも、楽しみにしていますよ」
ベアトリスは、パンを受け取り、店を後にした。
幸せな食卓
その日の夕方、パン工房には、二人のパン職人だけが残っていた。
「フレッドさん。今日も、たくさんのパンが売れましたね」
「ああ。これも、お前のおかげだ。ルパン」
二人は、夕食のために、テーブルを囲んでいた。今日の夕食は、ルパンが焼いた、少し焦げ付いたパンと、フレッドが作った、ニンジンとジャガイモの煮込みだった。
「フレッドさんの煮込みは、本当に美味しいですね。僕のパンと、ぴったりですよ!」
「そうか? それは、よかったな」
二人は、笑いながら、夕食を楽しんでいた。その時、ルパンが、フレッドに、真剣な顔で言った。
「フレッドさん。僕、アリアさんに、手紙を書きたいんです」
ルパンの言葉に、フレッドは、少し驚いた顔をした。
「アリアに…? なぜだ?」
「フレッドさん。僕、アリアさんに、僕たちのパン工房が、こんなに繁盛していることを、伝えたいんです。そして、アリアさんに、感謝の気持ちを、伝えたいんです」
ルパンは、フレッドに、そう言った。フレッドは、ルパンの言葉に、にこやかに微笑んだ。
「…そうか。お前は、本当に、優しいな」
フレッドは、ルパンに、手紙を書くための、紙とペンを渡した。ルパンは、真剣な顔で、手紙を書き始めた。
「…フレッドさん。これで、いいでしょうか…?」
ルパンは、手紙を書き終えると、フレッドに、その手紙を見せた。手紙には、こう書かれていた。
「アリア様へ。お元気ですか? 私たちのパン工房は、おかげさまで、毎日、たくさんの人で賑わっています。これも、アリア様のおかげです。本当に、ありがとうございます。いつか、また、この町に、お立ち寄りください。僕とフレッドさんで、美味しいパンを、ご用意してお待ちしております。ルパンより」
フレッドは、その手紙を読み終えると、涙を流した。
「…本当に、いい手紙だな…ルパン」
「フレッドさん…!」
二人は、互いの心に触れ合い、温かい涙を流した。
女騎士アリアの旅は、今日も今日とて続いている。彼女の心には、フレッドとルパン、二人のパン職人の笑顔と、そして、彼らのパンの味が、深く刻まれていた。
そして、遠い町の「フレッドとルパンのパン工房」では、今日も、愛情と情熱を込めて焼かれた、美味しいパンが、人々の心を温めていた。
ルパンが書いた手紙は、アリアの旅の荷物の中に、大切にしまわれていた。彼女が、その手紙を読む日は、まだ、遠い未来のことだった。




