始まりの異変
女騎士アリアの旅は、今日も今日とて続いている。剣を振るい、悪を討ち、人々の平和を守る。それが彼女の旅の目的だ。しかし、時には、平和を守るために剣を振るうことだけが、騎士の仕事ではないと気づかされることもある。これは、アリアが、剣ではなく、言葉と、そして常識という名の武器を使って、とある村の平和を守った、奇妙で、そして笑いに満ちた物語である。
アリアは、旅の途中、美しい田園風景が広がる小さな村に立ち寄った。しかし、その村は、どこか様子がおかしい。村人たちは皆、困り果てた顔をしており、畑は荒れ放題、牛舎からは、牛の鳴き声が、どこか悲しげに聞こえてくる。
「すみません。何か、お困りですか?」
アリアが、通りがかりの村人に声をかけた。
「ああ…騎士様、どうか我々をお助けください…! 村が、大変なことになってしまったのです…!」
村人は、涙ながらにアリアに訴えた。アリアは、村長に話を聞くことにした。村長は、疲れ果てた顔で、アリアを村長の家に招き入れた。
「騎士様…実は、この村の牛たちが、もう農業がしたくないと言い出したのです…」
村長の言葉に、アリアは、目を丸くした。
「牛が…農業がしたくない…?」
「はい。そのことを教えてくれたのが、この村に住む、動物の言葉がわかる老人、ミヒャエル様です」
村長は、一人の老人にアリアを紹介した。ミヒャエルは、白髪の老人で、優しそうな目をしていた。
「騎士様、お初にお目にかかります。私は、ミヒャエルと申します。私は、動物たちの言葉を理解することができます。そして、最近、この村の牛たちが、私にこう言ってきたのです…」
ミヒャエルは、深刻な顔で、話を続けた。
「**『もう、畑を耕したくない。毎日、毎日、同じことの繰り返しで、うんざりだ。もっと、自由に生きたい』**と…」
アリアは、ミヒャエルの言葉に、呆然とした。牛が、そんなことを言うなんて、信じられない。
「…ミヒャエルさん。それは、本当に、牛が言った言葉なのですか?」
「はい。間違いありません。彼らは、真剣でした。彼らは、もう、人間たちの都合のいい道具として、生きたくないのです」
村長は、ミヒャエルの言葉を聞いて、さらに落ち込んだ。
「騎士様…牛たちが、農業をやめてしまったら、この村は、どうなってしまうのでしょうか…!?」
アリアは、困り果てた。彼女は、剣を振るうことは得意だが、牛の悩みを聞いて、解決することは、専門外だ。しかし、村人たちの困った顔を見て、放っておくわけにはいかなかった。
「…わかりました。私が、その牛たちと、話してみましょう」
アリアは、ミヒャエルと共に、牛舎へと向かった。
牛の主張と騎士の葛藤
牛舎には、たくさんの牛たちがいた。彼らは、皆、不満そうな顔をして、アリアたちを見ていた。ミヒャエルが、牛たちと話すと、牛たちは、さらに不満をぶつけてきた。
「…ミヒャエル様、牛たちは、こう言っています。『私たちは、もう、畑を耕すのは、ごめんだ!』と…」
「…そうですか…」
アリアは、牛たちの言葉に、頭を抱えた。どうすればいいのか、わからない。彼女が知っているのは、剣を振るうことだけだ。
「…牛たちよ。しかし、君たちが農業をやめてしまったら、村人たちは、食べるものがなくなってしまう。それは、困るだろう?」
アリアは、牛たちに、優しく話しかけた。しかし、牛たちは、首を振って、アリアの言葉を拒否した。
「…ミヒャエル様、牛たちは、こう言っています。『それは、人間たちの勝手な都合だ! 私たちは、私たちの人生を、自由に生きたい!』と…」
アリアは、牛たちの言葉に、衝撃を受けた。彼らは、人間と同じように、自分の人生を、自分の意思で生きたいと願っていたのだ。
「…牛たちよ。しかし、君たちは、家畜だ。人間と、共存していくためには、農業を続ける必要がある。それは、君たちの、運命なのだ」
アリアは、牛たちに、厳しく言った。しかし、牛たちは、さらに反発した。
「…ミヒャエル様、牛たちは、こう言っています。『運命だと!? そんなもの、誰が決めたんだ! 私たちは、家畜じゃない! 私たちは、私たちだ!』と…」
アリアは、牛たちの言葉に、何も言い返せなかった。彼女は、自分の正義が、揺らいでいるのを感じていた。彼女は、今まで、人間の平和を守ることが、正義だと思っていた。しかし、目の前の牛たちは、人間の平和のために、犠牲になっている。
「…私は…どうすればいいんだ…?」
アリアは、悩んだ。剣を振るうことだけでは、解決できない問題だった。
その時、一人の若い村人が、アリアに近づいてきた。彼の名前は、ヘルマン。彼は、この村で、最も優秀な農夫だった。
「騎士様…その牛たちは、私の牛です。どうか、彼らを説得してください…!」
ヘルマンは、涙ながらにアリアに訴えた。アリアは、ヘルマンの言葉に、心を揺さぶられた。
「…ヘルマンさん。私は、彼らを説得することは、できません。彼らは、自分の人生を、自分の意思で生きたいと願っている。それは、人間と同じ、尊い願いです」
アリアの言葉に、ヘルマンは、絶望した。
「そんな…! では、もう、この村は、終わりだ…!」
ヘルマンは、その場に、崩れ落ちた。アリアは、ヘルマンの姿を見て、胸が締め付けられる思いだった。彼女は、どうにかして、この問題を解決しなければならないと、強く思った。
騎士の知恵と牛の革命
アリアは、村長とミヒャエル、そしてヘルマンと、再び話し合った。
「…皆さん。私は、この問題を解決するために、ある結論に達しました」
アリアは、皆に、自分の考えを話した。
「それは、牛たちに、新たな仕事を与えることです」
アリアの言葉に、皆は、驚いた。
「新たな仕事…? しかし、牛たちは、農業以外に、何ができるというのですか?」
村長は、アリアに尋ねた。
「そうですね…例えば、観光業はどうでしょう?」
アリアは、にこやかに言った。
「観光業…?」
「はい。この村の美しい風景を、他の村の人々にも見てもらうのです。そして、牛たちには、観光客を乗せて、村を案内してもらうのです」
アリアの言葉に、ミヒャエルが、目を輝かせた。
「それは、いい考えだ! 牛たちは、毎日、同じことの繰り返しにうんざりしていた。しかし、観光客を乗せて、村を案内する仕事なら、毎日が新鮮で、楽しいはずだ!」
しかし、ヘルマンは、まだ不安そうな顔をしていた。
「しかし…そんなことで、村の生活が成り立つのでしょうか…?」
「大丈夫です。私には、考えがあります」
アリアは、ヘルマンに、ある提案をした。
「ヘルマンさん。あなたは、この村で、最も優秀な農夫です。あなたには、新たな品種の野菜を開発してほしいのです。それは、観光客に喜んでもらえるような、珍しい野菜です」
アリアの言葉に、ヘルマンは、目を輝かせた。
「珍しい野菜…!」
「はい。そして、村長には、観光客をもてなすための、宿屋や食堂を作ってほしいのです。そして、ミヒャエルさんには、牛たちの言葉を通訳する、通訳案内人になってほしいのです」
アリアの言葉に、皆は、希望の光を見出した。彼らは、アリアの提案に、賛成した。
「…しかし、アリア様。なぜ、そんなことが、思いつくのですか…?」
村長は、アリアに尋ねた。
「それは…」
アリアは、少し恥ずかしそうに言った。
「私の故郷には、観光業が盛んな町があって、そこの牛たちは、観光客を乗せて、毎日、楽しそうに働いているのを見ていたから…」
アリアの言葉に、皆は、拍手喝采を送った。アリアは、剣ではなく、知恵と経験で、村を救ったのだ。
驚きのどんでん返し
アリアの提案から、数ヶ月後。村は、見違えるように変わっていた。観光客で賑わい、牛たちは、楽しそうに観光客を乗せて、村を案内していた。ヘルマンが開発した、珍しい野菜は、観光客に大人気で、村の生活は、以前よりも、豊かになっていた。
アリアは、村を離れる前に、ミヒャエルと、最後の挨拶を交わした。
「ミヒャエルさん。この村は、あなたの通訳案内のおかげで、とても賑やかになりましたね」
「いいえ。これも、アリア様のおかげです。本当に、ありがとうございました」
ミヒャエルは、アリアに、深く頭を下げた。
「…ところで、ミヒャエルさん。最後に、一つだけ、お聞きしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「あの時、牛たちが、農業がしたくないと言ったのは、本当に、彼らの意思だったのですか?」
アリアは、ミヒャエルに尋ねた。ミヒャエルは、アリアの質問に、笑顔で答えた。
「ああ。もちろん、彼らの意思でしたよ。彼らは、本当に、農業が嫌で、毎日、愚痴をこぼしていたのです」
ミヒャエルの言葉に、アリアは、安堵の息をついた。
「そうですか…よかった…」
しかし、ミヒャエルは、さらに、アリアに衝撃的な事実を告げた。
「…しかし、アリア様。実は、あの時、牛たちが農業をやめたかった本当の理由は、別にあったのです」
「え…? 別に…?」
「はい。彼らは、本当は、農業をやめて、温泉旅館を経営したいと言っていたのです」
アリアは、ミヒャエルの言葉に、絶句した。
「温泉旅館…!?」
「はい。そして、彼らが、温泉旅館を経営したかった本当の理由は、観光客の美女たちと、一緒に温泉に入りたかったから、だそうです」
アリアは、ミヒャエルの言葉に、顔を真っ赤にした。彼女は、思わず、叫んだ。
「な、ななななななななななな、何を言っているんですか、あなたは!!!」
ミヒャエルは、にこやかに言った。
「ああ。私も、彼らの言葉を聞いて、驚きましたよ。牛たちは、本当に、スケベな奴らですね」
アリアは、ミヒャエルの言葉に、何も言い返せなかった。彼女は、ただ、顔を真っ赤にして、その場に立ち尽くしていた。
女騎士アリアの旅は、ここからが、本当の始まりだった。彼女は、剣を振るうことだけが、騎士の仕事ではないと知った。そして、動物たちの中には、人間と同じように、スケベな願望を持っている者もいる、ということも知った。
アリアは、ルドルフから聞いた、牛たちのスケベな願望を思い出すたびに、顔を真っ赤にして、旅を続けた。
そして、遠い村では、今日も、牛たちが、温泉旅館の経営を夢見て、観光客の美女を乗せて、村を案内していた…。




