月夜に響く子守唄
邪悪な王を倒し、妹の病を治すという使命を終えたアリア。彼女は再び旅に出ることを決意しました。この物語は、そんな彼女がまだ一人旅を続けていた頃の、ある特別な出来事です。
激しい雨の中、森で雨宿りをしていたアリアは、一人の少女と出会います。彼女に導かれて小さな村へとたどり着きますが、その村では子供が次々と姿を消すという奇妙な事件が起きていました。村人たちはそれを「蜘蛛の魔物の仕業」だと恐れますが、アリアはただの魔物の仕業ではない、村に潜む闇を感じ取ります。
静かな村に隠された、おぞましい真実。疑心暗鬼と恐怖が渦巻く中、アリアは一人の女騎士として、そして一人の人間として、村に巣食う闇に立ち向かいます。果たして、子供たちを攫った犯人は本当に魔物なのでしょうか? そして、村人たちの語る「蜘蛛の魔物」の正体とは――。
ザー……。ザー……。
激しい雨が、森の木々を叩きつける。葉を濡らし、地面を叩き、あたり一面を水の音で満たしていく。アリアは、深い森の中、大きな岩陰に身を寄せていた。
故郷を旅立ち、東の国へと向かう道中。こんなにも激しい雨に降られるのは初めてだった。まるで空が泣いているかのように、水はとめどなく降り注ぐ。
「…困ったな」
一人、剣を握りしめ、アリアは呟いた。このままでは、進むことも、戻ることもできない。夜までには雨が止んでくれるといいのだが、空はますます暗さを増していくばかりだ。
その時、岩陰のさらに奥から、小さな声が聞こえてきた。
「…誰か…いるの?」
驚いて声のした方を向くと、そこには一人の少女が立っていた。年の頃は、妹のビアと同じくらいだろうか。汚れたワンピースを着て、裸足で立っている。その細い腕には、小さな籠が握られていた。
「…君こそ、こんなところで何をしているんだ?」
アリアが問いかけると、少女はふるふると首を横に振った。
「…あたしは、おつかいの帰り。雨が降ってきて、ここに隠れてたの…」
少女は、アリアの剣を見て、少し怯えたような表情を浮かべた。
「…あなたは、旅の人? そんな大きな剣、怖くないの?」
アリアは、剣を鞘に納めながら、優しく微笑んだ。
「…ああ。私は、この剣で、弱い人々を守る騎士なんだ」
その言葉に、少女は目を輝かせた。
「…騎士様! すごい! お姫様を守ってくれるの?」
「…ああ。それも、私の仕事の一つだ」
「…じゃあ、あたしを、騎士様のお城に連れて行ってくれる?」
少女の言葉に、アリアは苦笑いした。
「…残念だけど、私は、旅の途中なんだ。でも、君の村まで送っていくことはできる」
「…ありがとう! 騎士様!」
少女は、にこにこと微笑み、アリアの手を握った。その手は、冷たく、細かった。
「…でも…」
少女は、突然、真剣な顔つきになった。
「…ここは、危ないよ。夜になると、蜘蛛の魔物が現れて、子供を攫っていくんだ…」
「…蜘蛛の魔物?」
アリアは、少女の言葉に、眉をひそめた。
「…うん。お母さんが言ってた。夜な夜な、子供を攫って、食べてしまうんだって…」
少女の言葉に、アリアは、胸騒ぎを覚えた。
「…わかった。じゃあ、急いで村に戻ろう」
アリアは、少女の手を引き、雨の中を歩き出した。少女は、アリアの隣で、にこにこと微笑んでいる。
「…あたし、リリィっていうの。騎士様は?」
「…私は、アリアだ」
「…アリア様! ありがとう!」
リリィは、アリアの隣で、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。その姿は、雨の中なのに、まるで光を放っているかのようだった。
しばらく歩くと、雨脚が少し弱まり、ようやく森を抜け、小さな村にたどり着いた。村の入り口には、古びた木製の門が立っている。門をくぐると、数軒の家が並び、その奥には、大きな納屋が見えた。
「…アリア様。あたしの家は、あの納屋の奥だよ」
リリィは、そう言って、納屋を指差した。
「…そうか。じゃあ、急いで帰ろう」
アリアがそう言うと、リリィは、ふるふると首を横に振った。
「…ううん。アリア様は、ここにいて。お母さん、旅の人を泊めるのは嫌がるから…」
「…しかし…」
アリアは、リリィの言葉に、戸惑った。
「…大丈夫! お母さんには、あたしが話しておくから! アリア様は、この納屋にいてね!」
リリィは、そう言って、納屋の中へと入っていった。
アリアは、リリィの言葉に従い、納屋の中で、夜を明かすことにした。納屋の中は、干し草が敷き詰められており、ほのかに草の香りがする。アリアは、干し草の上に座り、剣の手入れを始めた。
雨は、夜になっても止まない。ザー……。ザー……。雨の音だけが、納屋の中に響き渡る。
その時、納屋の扉が、ゆっくりと開いた。
「…アリア様?」
リリィが、顔を覗かせた。
「…ああ。リリィ。大丈夫だったか?」
「…うん! お母さん、怒ってたけど…旅の人を泊めるのは、神様が許さないって…」
「…そうか…」
アリアは、リリィの言葉に、少し驚いた。神様が許さない? どういうことだろうか。
「…でも、あたしが、お願いしたら、納屋なら…って。ありがとう、アリア様」
リリィは、そう言って、アリアの隣に、ちょこんと座った。
「…リリィ。さっき言っていた、子供を攫っていく、蜘蛛の魔物って、本当にいるのか?」
アリアが問いかけると、リリィは、こくりと頷いた。
「…うん。いるよ。あたしのお兄ちゃんも、攫われちゃったの…」
「…そうか…」
アリアは、リリィの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…お兄ちゃん、あたしが悪い子だったから、攫われちゃったのかな…」
リリィは、そう言って、目に涙を浮かべた。
「…そんなことはない。君は、とても優しい子だ。きっと、お兄さんも、君のことが大好きだったはずだ」
アリアは、リリィの頭を、優しく撫でた。
「…ありがとう、アリア様…」
リリィは、アリアの言葉に、にこにこと微笑んだ。
「…でも…どうして、この村の子供たちばかり…」
アリアがそう呟くと、リリィは、首を横に振った。
「…わからない。でも、お母さんが、夜になると、子守唄を歌ってくれるの。そうすると、蜘蛛の魔物は来ないんだって…」
「…子守唄?」
「…うん。とっても、優しい歌だよ…」
リリィは、そう言って、小さな声で、歌い始めた。
「…ねんねんころり、おころりよ…」
その歌声は、雨の音にかき消されそうになるほど、か細かったが、アリアの心に、深く響いた。
「…いい歌だな」
「…うん! お母さんが、毎日歌ってくれるの…」
リリィは、そう言って、アリアの腕の中で、すやすやと眠り始めた。
アリアは、眠りについたリリィを、そっと干し草の上に寝かせ、見守った。
翌朝、雨は止んでいた。空には、薄っすらと朝日が差し込んでいる。アリアは、リリィの家へと向かった。
納屋を出て、リリィが指差した家へと行くと、そこには、一人の女性が立っていた。彼女は、アリアの姿を見ると、ぎょっとしたような表情を浮かべた。
「…あんた…! なんで、こんなところに…!」
女性は、アリアを睨みつけ、声を荒げた。
「…私は、旅の騎士です。昨晩、雨に降られて、娘さんのリリィに、納屋で泊めていただきました」
アリアがそう言うと、女性は、驚きを隠せない。
「…リリィが…? あんな子が…?」
「…はい。とても可愛らしい、優しい子でした」
アリアがそう言うと、女性は、ふるふると震え始めた。
「…あんた…! 一体、誰なんだ…!」
女性は、そう言って、アリアに、殴りかかろうとした。
「…おやめください。私は、敵ではありません」
アリアは、女性の腕を、そっと掴んだ。
「…離しなさい! あんたなんか…!」
女性は、そう叫び、アリアの腕を、振り払った。
その時、女性の背後から、一人の男が、姿を現した。彼は、屈強な体つきで、顔には、たくさんの傷跡がある。彼の名前は、グスタフ。村の自警団のリーダーだ。
「…おい、アグネス。何をしているんだ…?」
グスタフは、女性に、声をかけた。女性の名前は、アグネス。リリィの母親だという。
「…グスタフさん…! この女が…!」
アグネスは、そう言って、アリアを指差した。
グスタフは、アリアの姿を見ると、警戒したような表情を浮かべた。
「…あんたは…? この村では見かけない顔だな…」
「…私は、旅の騎士です。昨晩、雨に降られて、この村で一夜を明かしました」
アリアがそう言うと、グスタフは、アリアの剣を、じっと見つめた。
「…騎士…? そんな者が、こんな辺鄙な村に、何の用だ…?」
「…特に、用はありません。ただ、この村で、子供が攫われるという話を聞き、気になりまして…」
アリアがそう言うと、グスタフは、眉をひそめた。
「…ああ…あれは、蜘蛛の魔物の仕業だ。お前のような者が、どうこうできる話じゃない…」
「…しかし…」
アリアがそう言うと、グスタフは、アリアの言葉を遮った。
「…もういい。あんたは、さっさとこの村から出て行け。この村は、あんたのようなよそ者に、関わってほしくないんだ」
グスタフは、そう言って、アリアに、背を向けた。
アリアは、グスタフの言葉に、胸騒ぎを覚えた。何か、この村には、隠されている。
アリアは、村を散策してみることにした。村は、静かで、人通りが少ない。人々は、アリアの姿を見ると、すぐに家の中へと入っていってしまう。
アリアは、村の奥にある、小さな墓地へと向かった。墓地には、たくさんの墓標が並んでいる。その中に、子供の名前が刻まれた墓標が、いくつか見えた。
「…リリィの…お兄さん…」
アリアは、そう呟き、墓標に手を合わせた。
その時、アリアの背後から、声が聞こえてきた。
「…あんた…! なんで、こんなところにいるんだ!」
振り返ると、そこには、アグネスが立っていた。
「…失礼しました。ただ、ここに…娘さんの…お兄さんの…」
アリアがそう言うと、アグネスは、目に涙を浮かべた。
「…もういい! 早く、この村から出て行ってくれ!」
アグネスは、そう叫び、その場を立ち去った。
アリアは、アグネスの言葉に、戸惑いを覚えた。彼女の言葉には、敵意だけでなく、どこか、深い悲しみがこもっているように感じた。
アリアは、再び、グスタフの元へと向かった。グスタフは、村の広場で、村人たちと話をしている。
「…おい、グスタフ。あの女は、まだいるのか…?」
「…ああ。何度言っても、出て行こうとしない」
村人たちは、アリアの姿を見ると、ひそひそと話し始めた。
「…あの女…何か、企んでいるんじゃ…?」
「…よそ者なんて、ろくなもんじゃない…」
アリアは、村人たちの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…グスタフさん。やはり、この村には、何か隠されているようですね」
アリアがそう言うと、グスタフは、アリアを睨みつけた。
「…いい加減にしろ! あんたは、何が言いたいんだ…!」
「…子供を攫う魔物は、本当に、蜘蛛の魔物なのでしょうか? そして…その魔物は、どうして、この村の子供ばかり…」
アリアがそう言うと、グスタフは、怒りを露わにした。
「…黙れ! あんたは、何も知らないくせに…!」
グスタフは、そう叫び、アリアに、拳を振り上げた。
しかし、その拳は、アリアの顔に、届くことはなかった。
「…グスタフさん! やめてください!」
リリィが、グスタフの前に、飛び出したのだ。
「…リリィ…! なんで、こんなところに…!」
グスタフは、リリィの姿に、驚きを隠せない。
「…アリア様は、あたしのお友達だよ! 殴らないで!」
リリィは、そう叫び、グスタフの腕を、掴んだ。
グスタフは、リリィの言葉に、戸惑ったような表情を浮かべた。
その時、村の奥から、一人の老人が、姿を現した。彼は、この村の長老、ザカリーだ。
「…グスタフ。そのくらいにしておけ。この娘は、きっと、神様が、この村に遣わしたのだろう…」
ザカリーの言葉に、グスタフは、驚きを隠せない。
「…長老…! しかし…」
「…良いから、やめておけ。この娘は、きっと、この村に、光をもたらしてくれる…」
ザカリーは、そう言って、アリアに、にこにこと微笑んだ。
アリアは、ザカリーの言葉に、少し驚いた。
「…長老様…」
「…娘さん。我らは、お前を歓迎しよう。だが…一つだけ、約束してほしい」
ザカリーは、そう言って、アリアに、真剣な顔つきで、語りかけた。
「…夜になったら、絶対に、納屋から出てはいけない。夜には、蜘蛛の魔物が…」
「…わかりました。約束します」
アリアは、ザカリーの言葉に、頷いた。
その夜、アリアは、再び、納屋で一夜を明かすことにした。納屋の中は、相変わらず、干し草の香りがする。
アリアは、ザカリーの言葉を思い出し、胸騒ぎを覚えた。夜になったら、納屋から出てはいけない。その言葉には、どこか、深い意味が隠されているような気がした。
その時、納屋の扉が、ゆっくりと開いた。
「…アリア様?」
リリィが、顔を覗かせた。
「…リリィ。どうして…? 長老様と、約束しただろう…」
アリアがそう言うと、リリィは、ふるふると首を横に振った。
「…ううん。あたしは…大丈夫。お母さんが、子守唄を歌ってくれるから…」
「…そうか…」
アリアは、リリィの言葉に、少し安心した。
「…ねんねんころり、おころりよ…」
リリィは、そう言って、子守唄を歌い始めた。
アリアは、リリィの歌声を聞きながら、いつの間にか、眠りについていた。
夜中、アリアは、ふと目を覚ました。
「…ん…?」
何か、違和感を覚える。それは、子守唄の歌声だ。
「…ねんねんころり、おころりよ…」
歌声は、アリアが聞いたものとは、少し違う。どこか、不気味で、ゾッとするような、歌声だった。
アリアは、干し草の上に座り、耳を澄ませた。歌声は、納屋の外から聞こえてくる。
アリアは、ザカリーとの約束を思い出し、戸惑った。しかし、この歌声には、何か、隠されている。
アリアは、剣を手に取り、納屋の外へと出た。
外は、真っ暗で、月明かりも、星の光もない。雨は止んでいたが、あたり一面は、霧に包まれている。
歌声は、村の奥にある、森の方から聞こえてくる。アリアは、歌声のする方へと、足を向けた。
森の中に入ると、歌声は、ますます、はっきりと聞こえてきた。
「…ねんねんころり、おころりよ…」
その歌声は、子供を誘うような、甘い響きを持っている。
アリアは、歌声のする方へと、さらに深く、森の中へと入っていった。
森の奥には、大きな洞窟があった。洞窟の入り口には、蜘蛛の巣が、びっしりと張り巡らされている。
「…まさか…」
アリアは、胸騒ぎを覚えた。
歌声は、洞窟の中から聞こえてくる。
アリアは、剣を抜き、洞窟の中へと、入っていった。
洞窟の中は、真っ暗で、何も見えない。しかし、歌声は、ますます、はっきりと聞こえてくる。
「…ねんねんころり、おころりよ…」
その歌声は、アグネスが、リリィに歌って聞かせていた子守唄と、まったく同じだった。
アリアは、洞窟の奥へと、慎重に進んでいった。
その時、アリアの足元に、何かが、ぶつかった。
「…ん?」
アリアは、足元を見ると、そこには、子供の靴が、落ちている。
アリアは、胸騒ぎを覚えた。
さらに奥へと進むと、洞窟の中央に、大きな岩が、置かれている。岩の上には、たくさんの子供たちが、眠っている。
そして、その子供たちを囲むように、一人の女性が、立っていた。彼女は、アグネスだった。
「…アグネスさん…! 一体…何を…!?」
アリアがそう言うと、アグネスは、アリアの姿に、驚きを隠せない。
「…あんた…! なんで、ここに…!」
アグネスは、そう叫び、アリアに、襲いかかろうとした。
しかし、その時、洞窟の天井から、巨大な蜘蛛が、姿を現した。
「…ヒヒヒ…邪魔だてするな…」
蜘蛛は、そう言って、アグネスを、糸で縛り上げた。
「…ググッ…!」
アグネスは、苦しそうな声を上げた。
蜘蛛は、アリアの姿を見ると、不気味な笑みを浮かべた。
「…人間…! お前も、我々の餌となるのだ…!」
蜘蛛は、そう叫び、アリアに、襲いかかってきた。
「…くっ…!」
アリアは、蜘蛛の攻撃を、剣で、いなした。
蜘蛛は、八本の足を使い、素早い動きで、アリアに、襲いかかってくる。
「…この…!」
アリアは、蜘蛛の糸を、剣で、切り裂きながら、応戦した。
蜘蛛は、アリアの剣の腕前に、驚きを隠せない。
「…まさか…人間ごときが…!」
蜘蛛は、そう叫び、アリアに、毒液を、吐き出した。
アリアは、毒液を、ひらりと身をかわし、蜘蛛の胴体を、剣で、切り裂いた。
「…グギャア!」
蜘蛛は、悲鳴を上げ、その場に、倒れ込んだ。
アリアは、蜘蛛が倒れたのを確認すると、アグネスの元へと、駆け寄った。
「…アグネスさん! 大丈夫ですか…!」
アリアがそう言うと、アグネスは、目に涙を浮かべた。
「…どうして…どうして…こんなことに…」
アグネスは、そう言って、泣き始めた。
「…アグネスさん。一体、何があったのですか…?」
アリアが問いかけると、アグネスは、ふるふると震えながら、語り始めた。
「…この村は…貧しい村でした…」
アグネスは、そう言って、続けた。
「…ある時…この洞窟に…巨大な蜘蛛の魔物が…住み着いたのです…」
「…蜘蛛の魔物…」
「…はい…その蜘蛛は…子供を…攫って…食べてしまう…恐ろしい魔物でした…」
「…しかし…」
アリアがそう言うと、アグネスは、目に涙を浮かべた。
「…ある日…この村の長老、ザカリーが…その蜘蛛と…契約を結んだのです…」
「…契約…?」
「…はい…毎月…この村の子供を…一人…生贄として…差し出す…代わりに…村は…守られる…」
アグネスは、そう言って、泣き崩れた。
「…そんな…!」
アリアは、アグネスの言葉に、驚きを隠せない。
「…最初は…嫌でした…でも…子供たちを…守るために…」
「…そして…私の子…リリィの兄も…生贄に…」
アグネスは、そう言って、声を震わせた。
アリアは、アグネスの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…そして…毎月…村の子供が…一人…攫われて…」
アグネスは、そう言って、泣き始めた。
その時、洞窟の奥から、足音が聞こえてきた。
「…アグネス…! どうして、約束を破ったのだ…!」
振り返ると、そこには、ザカリーが立っていた。
「…長老…! あなた…!」
アリアは、ザカリーの姿に、怒りを露わにした。
「…なんだ…? お前は…!」
ザカリーは、アリアの姿を見ると、驚きを隠せない。
「…お前…どうして…ここにいる…!」
「…長老様…! あなたは…! あなたが…子供たちを…!」
アリアは、そう叫び、ザカリーを、剣で、威嚇した。
しかし、ザカリーは、まったく怯まない。
「…ふん…この村を…守るためだ。仕方ないことなのだ…」
「…仕方ない…? そんな…!」
アリアは、ザカリーの言葉に、怒りを露わにした。
「…そして…お前のような…よそ者が…この村に…関わっては…いけないのだ…!」
ザカリーは、そう叫び、アリアに、襲いかかろうとした。
その時、洞窟の天井から、巨大な蜘蛛が、再び、姿を現した。
「…グギャア!」
蜘蛛は、そう叫び、ザカリーを、糸で、縛り上げた。
「…ま…まさか…!?」
ザカリーは、蜘蛛の姿に、驚きを隠せない。
「…ククク…貴様のような…役立たずは…もういらぬわ…」
蜘蛛は、そう言って、ザカリーを、洞窟の奥へと、連れて行った。
アリアは、蜘蛛が倒れたのを確認すると、子供たちの元へと、駆け寄った。
「…みんな…! 大丈夫か…!?」
アリアがそう言うと、子供たちは、アリアの姿に、にこにこと微笑んだ。
「…アリア様…!」
その時、アリアは、子供たちの中に、リリィの姿がないことに、気がついた。
「…リリィは…!? リリィは、どこにいるんだ…!?」
アリアがそう叫ぶと、アグネスは、目に涙を浮かべた。
「…リリィは…リリィは…蜘蛛の魔物に…」
アグネスは、そう言って、泣き崩れた。
アリアは、アグネスの言葉に、驚きを隠せない。
「…まさか…そんな…!」
アリアは、アグネスの言葉を信じることができなかった。
その時、洞窟の奥から、声が聞こえてきた。
「…お姉ちゃん…?」
アリアは、声のする方へと、駆け寄った。
洞窟の奥には、巨大な蜘蛛の巣が、張り巡らされている。そして、その中央に、一人の少女が、立っていた。
「…リリィ…!?」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、アリアの姿に、にこにこと微笑んだ。
「…お姉ちゃん…! 遅いよ…」
「…リリィ…! どうして…!? 一体…何が…!」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、目を細めた。
「…お姉ちゃんは…知らないの…?」
「…何を…?」
「…この村の…秘密…」
リリィは、そう言って、にこにこと微笑んだ。
その時、リリィの背後から、巨大な蜘蛛が、姿を現した。
「…グオオオオオオ!」
蜘蛛は、そう叫び、リリィを、糸で、縛り上げた。
「…リリィ…!」
アリアは、そう叫び、蜘蛛に、襲いかかろうとした。
しかし、その時、リリィは、目を細めた。
「…お姉ちゃん…! 早く…逃げて…!」
リリィは、そう叫び、アリアに、背を向けた。
アリアは、リリィの言葉に、戸惑った。
「…リリィ…! どういうことだ…!」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、にこにこと微笑んだ。
「…お姉ちゃんは…知らないの…? あたしが…蜘蛛の魔物だってこと…」
「…え…?」
アリアは、リリィの言葉に、驚きを隠せない。
「…お母さん…! お兄ちゃん…! みんな…! 蜘蛛の魔物に…!」
アリアは、リリィの言葉を、信じることができなかった。
「…嘘だ…! そんな…!」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、にこにこと微笑んだ。
「…お姉ちゃん…! 早く…逃げて…! あたしが…お姉ちゃんを…食べちゃう前に…!」
リリィは、そう叫び、アリアに、襲いかかろうとした。
アリアは、リリィの言葉に、戸惑った。しかし、リリィの目に、血のような赤い光が宿っていることに、気がついた。
「…まさか…!」
アリアは、リリィの姿に、驚きを隠せない。
「…リリィ…! どうして…!?」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、にこにこと微笑んだ。
「…お姉ちゃん…! ごめんね…!」
リリィは、そう叫び、アリアに、毒液を、吐き出した。
アリアは、毒液を、ひらりと身をかわし、リリィの体を、剣で、突き刺した。
「…グフッ…!」
リリィは、悲鳴を上げ、その場に、倒れ込んだ。
アリアは、リリィが倒れたのを確認すると、目に涙を浮かべた。
「…リリィ…! どうして…!」
アリアがそう叫ぶと、リリィは、にこにこと微笑んだ。
「…お姉ちゃん…! ありがとう…!」
リリィは、そう言って、その場で、消えていった。
アリアは、リリィが消えたのを確認すると、その場に、座り込んだ。
「…どうして…どうして…こんなことに…」
アリアは、目に涙を浮かべ、空を見上げた。
その時、洞窟の奥から、声が聞こえてきた。
「…ククク…よくぞ…我が子を…殺してくれた…」
振り返ると、そこには、巨大な蜘蛛が、立っていた。
「…お前…!」
アリアは、蜘蛛の姿に、怒りを露わにした。
「…我が名は…アラクネア…! 我は…この世界の…闇を…司る…」
蜘蛛は、そう言って、アリアに、襲いかかってきた。
「…くっ…!」
アリアは、蜘蛛の攻撃を、剣で、いなした。
蜘蛛は、八本の足を使い、素早い動きで、アリアに、襲いかかってくる。
「…この…!」
アリアは、蜘蛛の糸を、剣で、切り裂きながら、応戦した。
蜘蛛は、アリアの剣の腕前に、驚きを隠せない。
「…まさか…人間ごときが…!」
蜘蛛は、そう叫び、アリアに、毒液を、吐き出した。
アリアは、毒液を、ひらりと身をかわし、蜘蛛の胴体を、剣で、切り裂いた。
「…グギャア!」
蜘蛛は、悲鳴を上げ、その場に、倒れ込んだ。
アリアは、蜘蛛が倒れたのを確認すると、その場に、座り込んだ。
「…リリィ…」
アリアは、目に涙を浮かべ、そう呟いた。
その時、アリアの背後から、声が聞こえてきた。
「…よく…やったな…」
振り返ると、そこには、ザカリーが立っていた。
「…長老…! あなた…!」
アリアは、ザカリーの姿に、驚きを隠せない。
「…娘さん…お前は…この村を…救ってくれた…」
ザカリーは、そう言って、アリアに、にこにこと微笑んだ。
「…長老…! どういうことですか…!?」
アリアがそう叫ぶと、ザカリーは、目に涙を浮かべた。
「…リリィは…リリィは…この村の…守り神だった…」
「…え…?」
アリアは、ザカリーの言葉に、驚きを隠せない。
「…リリィは…蜘蛛の魔物と…契約を結び…この村を…守ってくれていた…」
ザカリーは、そう言って、泣き始めた。
アリアは、ザカリーの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…そして…毎月…リリィは…生贄を…差し出していた…」
「…まさか…!」
アリアは、ザカリーの言葉に、驚きを隠せない。
「…リリィは…リリィは…この村の…子供たちを…守るために…」
ザカリーは、そう言って、泣き崩れた。
アリアは、ザカリーの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…どうして…! どうして…そんな…」
アリアがそう叫ぶと、ザカリーは、目に涙を浮かべた。
「…この村は…貧しい村だ…子供たちを…守るためには…仕方なかったのだ…」
「…そんな…! そんな…!」
アリアは、ザカリーの言葉に、怒りを露わにした。
「…リリィは…リリィは…この村の…子供たちを…守るために…自分の命を…犠牲にしたのだ…」
ザカリーは、そう言って、泣き崩れた。
アリアは、ザカリーの言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…どうして…どうして…そんな…」
アリアは、目に涙を浮かべ、そう呟いた。
その時、洞窟の入り口から、光が差し込んできた。
アリアは、洞窟から出て、朝日を浴びた。
アリアは、空を見上げ、目に涙を浮かべた。
「…リリィ…」
アリアは、そう呟き、剣を握りしめた。
アリアは、この旅で、たくさんのことを学んだ。
この世界には、光と、闇がある。
そして、その光と、闇の間に、存在する人々がいる。
アリアは、この旅で、この世界の、たくさんの真実を知ることになるだろう。
アリアの旅は、まだまだ、始まったばかりだ。
雨宿りのために立ち寄った小さな村で、アリアは想像を絶するおぞましい真実と向き合うことになりました。
村で語り継がれる「蜘蛛の魔物」の正体は、村の子供を攫って食べる悪魔ではなく、村の子供を救うために自らを犠牲にした守り神、リリィでした。そして、彼女に生贄を差し出させていたのは、村の長老ザカリーと、貧しい村を救うための村人たちだったのです。
この物語は、アリアが旅の途中で出会った、この世界の「闇」の一端を描きました。善意と悪意が複雑に絡み合い、一概に善悪を判断できない現実。アリアは、この出来事を通して、一人の女騎士として、そして一人の人間として、多くのことを学びました。
彼女の旅は、ただ強くなるためのものではなく、この世界の真実を知り、より深く人間を理解するためのものへと変わっていくことでしょう。この経験が、これから彼女が出会う仲間たち、そして彼女自身の成長に、大きな影響を与えることになります。




