雪山の小さな冒険者たち ― 第5話「帰還と余韻」
雪をかき分け、村への帰路を進む。
父を背負い、兄妹を先導するのはアリアだった。
「吸え、吐け。――いち、に」
子どもたちはその声に従い、必死に歩調を合わせる。
やがて、遠くに灯火が揺れた。
村の松明だ。
吹雪の中を突き進んだ先に、温かい光が戻ってきたのだ。
「父さんだ! 帰ってきた!」
「無事だ!」
村人たちの歓声が広場に響き渡る。
人々が駆け寄り、父を抱き起こし、子どもたちを抱きしめる。
涙と笑いが混じり、雪の冷たさを溶かしていった。
*
その夜、村では小さな宴が開かれた。
焚き火の周りに集まり、温かいスープと酒が振る舞われる。
「騎士殿、貴女のおかげで家族は救われました」
「どうか、この盃を」
アリアは一口だけ盃を受け、口を湿らせる。
それから、静かに置いて言った。
「命は、ほどほどを守れば繋がる。……鐘を鳴らさずともな」
人々はその言葉の意味を測りかねたが、ただ深く頷いた。
*
翌朝。
空は晴れ、雪山は白く輝いていた。
旅支度を整えたアリアに、兄妹が駆け寄る。
「騎士さま! ありがとう!」
妹は凍った川で拾った小石を差し出した。
「お守りにして!」
アリアは受け取り、微笑むことはせず、ただ真顔で頭を下げた。
「……預かろう」
そして背を向ける。
雪を踏む音が遠ざかり、村の人々はその後ろ姿をいつまでも見送った。
白銀の道は、再び彼女を独り旅へ誘っていく。
(了)
後書き
今回の「雪山の小さな冒険者たち」は、映画『アラスカ/小さな冒険者たち』を下敷きにしたオマージュ編でした。
アリアが直接の敵と戦うのではなく、自然そのものと向き合う ことで彼女の「非致死・ほどほど」の在り方を描いています。
子熊を助けるという選択が、最後に親熊との対峙で命を救う伏線になる――
それはアリアの信条「鐘を鳴らさずとも命は繋がる」にぴたりと重なります。
また、兄妹と父の再会シーンでは「家族を想う気持ち」と「冷静に支える第三者」の対比が強調され、アリアが 旅人であり守護者である という立ち位置を再確認するエピソードになったかと思います。
彼女は村人たちから感謝されながらも、笑顔で酔い潰れることはなく、ただ真顔で旅立つ。
その硬さこそが、彼女の物語を支える一本の芯。
次回はまた趣の異なる土地と人々との出会いを描き、アリアの独り旅を続けていきます。




