雪山の小さな冒険者たち ― 第4話「父との再会と親熊」
雪道はさらに険しさを増し、林の奥は薄暗く閉ざされていた。
子どもたちの足取りは重い。それでも兄は歯を食いしばり、妹の手を引き続けた。
「父さん……絶対に見つける……」
「……うん」
アリアは後ろからその背を見守りつつ、周囲の気配を探った。
雪に刻まれた足跡は、成人男性のものが新しく混じっている。歩幅は乱れ、時折片膝をついた跡。
(生きている……だが弱っている)
やがて岩陰に、倒れ込むように座る男の姿があった。
髭は凍り、衣は裂け、息は浅い。
「父さん!」
子どもたちが駆け寄る。
男は薄く目を開け、かすれた声を絞り出した。
「お前たち……なぜ……」
「探しに来たんだ!」兄は泣き笑いの顔で父に抱きついた。
妹も小さな手を握る。
アリアは外套を脱ぎ、男の肩にかけた。
「命に別状はない。ただ、このままでは凍死する。急いで戻らねば」
父と子の抱擁。その尊い時間を守るため、アリアは周囲を見渡した。
――風の中に、低く響く唸り声。
雪の帳を割って、影が現れる。
巨大な熊だった。
分厚い毛皮、白く曇った息。
その目には怒りと警戒が燃えていた。
子どもたちは凍りついた。
「く、熊だ……!」
父は力なく子どもを抱き寄せる。
アリアは槍を抜き、静かに立ちはだかった。
「……やはり来たか。子を傷つけられた親は、必ず報いを求める」
熊は低く咆哮を上げ、一歩一歩近づく。
雪が踏み割られるたびに地響きがする。
アリアは槍を構えつつ、声を低く落とした。
「全員、動くな。拍を乱すな」
熊の巨体が迫る。
アリアは槍を振るう構えを見せるが――(殺さずに退ける術を探せ)。
喉に力をため、雪を打って「どん」と響かせる。
熊の目が揺れる。
その瞬間――。
森の奥から、小さな影が駆けてきた。
子熊だった。
足の傷は浅く癒え、母を求めるように鳴いた。
親熊の目が変わる。
怒りから驚き、そして安堵へ。
巨体が立ち止まり、子熊が胸に飛び込む。
親熊は一度だけアリアを睨み、深い息を吐く。
やがて背を向け、子熊を連れて森へ消えていった。
……静寂が戻る。
兄妹は父の胸に顔を埋め、泣きながら叫んだ。
「父さん……!」
「生きててよかった……!」
アリアは槍を収め、真顔のまま呟いた。
「非致死・ほどほど。――それで救われる命もある」
雪は静かに降り続き、家族の温もりを覆い包んでいた。
(つづく)




