幕間 「泡の夜、次の朝」
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◆BAR
夜のルーンブルク。
施療院から数本裏に入った、古い石造りのBAR。
灯りは低く、
グラスの縁だけがきらきら光る。
扉が開いた瞬間――
「ウヒョー!アリア久しぶりだねぇ!!」
白衣のまま、袖をまくった女がカウンターから身を乗り出した。
イザベラ。
研究室のリーダー。
理論派で、現場派で、だいたい酔うと声が大きい。
「相変わらず派手な帰り方するじゃないか!
世界跨いで患者連れてくる人、初めて見たよ!」
「……治療は順調です」
「そりゃそうさ!
治る世界に連れてきたんだろ?」
その一言で、空気が一段ゆるんだ。
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次々に顔が揃う。
バロスとボリス――
杯を持つだけで場が落ち着く二人。
「無事で何よりだ」
「今日は、飲め」
レンとミリアの兄妹。
ミリアは既に果実酒、レンは苦笑。
「兄ちゃん、飲みすぎないでよ」
「お前に言われたくねぇ」
エリオットは壁際で静かにグラスを揺らし、
以蔵は一口含んで、満足そうに唸った。
「ほう……ええ酒じゃ。
戦のあとに飲む酒は、骨に沁みるのう」
最後に――
フェルナ、シル、リカルゾ、ダロッゾ、ミャラ、グレイ。
包帯も、固定具もある。
だが、ここでは誰もそれを見ない。
「じゃあ――」
バロスが、杯を上げた。
「生きて帰った者に」
「治った者に」
「治りきらなかった者にも」
「そして――」
イザベラが割り込む。
「明日また無茶する奴らに!」
「「乾杯!!」」
グラスが鳴る。
笑い声が跳ねる。
ミャラはシルの横で、
少しだけ安心した顔で飲み物を口にした。
アリアは、グラスを傾けながら、
ただ――静かにこの音を聞いていた。
(……帰ってきた)
抜かない刃の夜。
抜かせない夜。
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◆翌朝 首相府・会議室
朝の光は、容赦ない。
酔いは抜け、
判断だけが残る。
円卓の奥。
グルー首相が資料を置いた。
「では、本題に入ろう」
その左右に――
オリビエ、シャルル、ハルト。
「ダンジョン再開だ」
地図が広げられる。
「今回は――
30階層以降の再侵入」
フェルナが頷く。
「前衛と制御、再編が必要です」
「そこで、今回の編成だ」
首相が視線を巡らせる。
「フェルナ」
「シル」
「ヨーデル」
「マキシ」
名前が呼ばれ、
そして一拍。
「――ユリエ」
古代の勇者。
白髪の女が、静かに立ち上がる。
「久しぶりだな、地下」
続いて、影が揺れた。
「ムウ」
古代の魔王。
角も威圧もなく、ただ“在る”。
「勇者が行くなら、魔王も行こう。
……均衡は、揃っていた方が美しい」
会議室に、
一瞬だけ緊張が走り――
グルー首相は、ため息混じりに言った。
「……立候補制だったな」
フェルナは、苦笑した。
「ええ。
今回は、最初から全力です」
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◆見送り
会議が終わり、廊下。
アリアは、壁に寄り、腕を組んでいた。
「今回は――」
フェルナが言いかける。
「見送ります」
アリアは、即答した。
「ローガンの経過観察があります。
……それに」
一拍。
「今回は、あなたたちの戦いです」
シルが微笑む。
「珍しいですね。素直な見送り」
「……学習しました」
ミャラが、小さく手を振る。
「行ってきます」
「ええ」
アリアは、確かに頷いた。
「――行ってらっしゃい」
地下へ向かう背中を見送りながら、
アリアは、鞘に収まった刀に触れる。
抜かない。
だが、離さない。
(次に降りる時は――)
それぞれが、準備万端だった。
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次回
地下編・新章
『再編 ― 古代と現在が並ぶとき』
・フェルナ隊、新チーム始動
・古代勇者と古代魔王の“現代ダンジョン”適応
・そして――30階層の“痕”が牙を剥く




