雪山の小さな冒険者たち ― 第2話「吹雪と凍河」
吹雪は止む気配を見せなかった。
アリアは頭巾を深くかぶり、ひとつひとつの足跡を丁寧に追っていく。
雪に沈んだ小さな靴跡は、まだ風に消されきっていない。
(まだ近い。だが、子どもの歩幅だ。無理をすればすぐに体力を奪われる……)
遠くで木々が揺れる鈍い音。
吹きつける風が雪を舞い上げ、視界を奪っていく。
だがアリアの耳は、風の合間に小さな声を拾った。
「……兄ちゃん、寒い……」
「大丈夫だ。父さんを探すんだ……」
声の方角に向かうと、雪の吹き溜まりに小さな影があった。
兄妹が互いの手を握り合い、震えながら進んでいたのだ。
アリアは雪を踏みしめ、真顔で声をかける。
「お前たち、無茶だ。ここは子どもが歩く道ではない」
「……でも!」兄が睨み返す。「父さんを助けに行くんだ!」
妹は唇を噛みしめ、必死に兄の外套を掴んでいる。
アリアは彼らの視線を受け止め、短く答えた。
「ならば、歩調を合わせろ。――“いち、に”だ」
アリアが歩幅を示すように雪を踏む。
「いち、に。吸って、吐け」
子どもたちもぎこちなく真似る。
乱れていた呼吸が、徐々にそろっていく。
*
やがて一行は凍った川に出た。
表面は薄い氷で覆われ、雪に隠れて危うい。
兄妹は渡ろうとしたが、アリアが槍の石突きで氷を突き、止めた。
ぱきん――氷が割れ、水が顔を覗かせる。
「……落ちれば命はない」
アリアは枝を組んで即席の橋を作り、子どもたちを渡らせる。
妹が足を滑らせた瞬間、アリアは腕を伸ばして引き寄せた。
「――油断するな」
「……うん」
渡りきったあと、兄妹は肩で息をしながらも目を輝かせた。
「父さんも、この先にいるんだよな……」
「生きているなら、だ」アリアは真顔で答える。「見つけ出すまでは、決して止まるな」
*
さらに進むと、雪崩の小さな痕跡に行き当たった。
雪の壁が崩れ、道を塞いでいる。
そこに――不思議な足跡が混じっていた。
「……これは」
爪の跡。丸い肉球。
まだ新しい。小さな熊の足跡だ。
兄妹は顔を見合わせた。
「く、熊……?」
「大丈夫なのか……?」
アリアは雪に残る爪跡を見つめ、低く答えた。
「子熊だ。まだ近くにいる」
そして真顔で続けた。
「……親がいれば、こちらが侵入者になる。気を抜くな」
風が、雪の帳を揺らした。
その向こうに、冒険の続きが待っている。
(つづく)




