表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

734/811

北行編その35 『逸脱 ― 条件外の救出』



◆1 夜の隙間 ― 想定外の通報


 夜は、音が少ないぶん、異物がよく目立つ。


 トロント郊外。

 ホテルの高層階、廊下の照明は半分落とされている。


 アリアは、ベッドに腰を下ろし、靴を脱いだところだった。


 その瞬間――

 携帯端末が、短く二度、震えた。


 非公式回線。


Incident reported.

Civilian involved.

Outside protection scope.


(……“範囲外”)


 表示された位置情報は、ホテルから数ブロック先。

 観光エリアと住宅地の境目。


「……やっぱり、来たか」


 条件から消えた言葉が、脳裏をよぎる。


 第三者への影響。



◆2 確認 ― それでも来る報告


 すぐに、二件目。


Minor abduction attempt.

Local response delayed.

Recommend non-engagement.


 非関与を勧める文言。

 だが、情報だけは、異様に詳しい。


(……“見るだけ”のつもりだったな)


 アリアは、立ち上がった。


 刀袋には、触れない。

 だが、鞘の位置は確かめる。


 抜かないと決めたのは、自分だ。

 だが――


(抜かないと“決めさせられる”のは、違う)



◆3 現場 ― 交差点の灯り


 夜の交差点。


 街灯が三本。

 そのうち一本だけが、やけに明るい。


 歩道の端で、二人の男が立っている。

 その前で、若い女性が腕を掴まれていた。


 言葉は荒くない。

 だが、距離が近すぎる。


(……警察じゃない)


 スーツ。

 だが、動きは訓練されたもの。


 アリアは、歩みを止めずに近づいた。



◆4 声 ― 条件外の選択


「――離してください」


 静かな声。


 男の一人が振り向く。


「関係ない。行け」


「関係あります」


 アリアは、さらに一歩踏み出す。


「その人は、あなたたちの“条件”に含まれていない」


 男の目が、細くなる。


「……誰だ」


「通りすがりです」


 事実だった。



◆5 判断 ― 一秒の遅れ


 もう一人の男が、女性の腕を引いた。


 その瞬間、女性が声を上げる。


「やめて!」


 その声が――

 はっきりと“助けを求める声”だった。


(……ここだ)


 アリアの中で、迷いが切れる。



◆6 最小行動 ― 条件を越えないために


 抜かない。


 だが――動く。


 アリアは、一歩で距離を詰めた。


 男の手首を、正確に叩く。

 骨を折らない。

 だが、力は抜かない。


 腕が緩み、女性が自由になる。


「下がって」


 短い指示。


 女性は、反射的に後退した。


 残る男が、ポケットに手を伸ばす。


(……銃)


 その前に。


 アリアは、鞘で男の膝裏を打った。


 男が崩れる。


 三秒。


 それで、終わりだった。



◆7 静止 ― 見ていた者たち


 次の瞬間。


 通りの端で、影が動く。


 車内。

 暗転した窓。


(……見てる)


 撃たない。

 出てこない。


 ただ、記録する。


 アリアは、女性のほうを向いた。


「大丈夫ですか」


 女性は、震えながら頷いた。


「……ありがとうございます」


 それ以上、何も言わない。


 それで、よかった。



◆8 遅れて来る“公式”


 サイレン。


 控えめな音。


 地元警察。


 だが、その後ろに――

 見慣れた“違う車”。


(……早い)


 早すぎる。


 女性が、警察に保護される。


 アリアは、一歩下がった。


 ここから先は、“公式の仕事”だ。



◆9 回線 ― 条件の破綻


 携帯が震える。


Engagement confirmed.

You exceeded advisory scope.


 アリアは、即座に返信した。


Civilian protected.

No lethal force.

Explain which clause I violated.


 数秒。


…Stand by.


(……答えられない)



◆10 面談 ― 条件外の現実


 一時間後。


 同じ女性――調整役が、部屋に入る。


 表情は、明らかに疲れていた。


「……報告は、上がっています」


「どう判断されましたか」


「“逸脱”です」


 アリアは、頷いた。


「想定内です」


「……あなたは」


 女性は、言葉を選ぶ。


「条件を破った」


「いいえ」


 アリアは、静かに言った。


「条件が、現実を外したんです」


 沈黙。



◆11 価値の転換


「……正直に言います」


 女性は、椅子に腰を下ろした。


「今夜の件で、いくつかの国が評価を変えました」


「どう変わったんですか」


「“危険”から、“使えない”へ」


 アリアは、少しだけ目を細めた。


「それは、悪い評価ですか」


「いいえ」


 女性は、苦く笑った。


「一番、厄介な評価です」



◆12 刃の位置


 アリアは、刀袋を見た。


 まだ、抜いていない。


 だが――

 抜かずに救った。


 その事実は、

 どんな報告書よりも重い。


「次は、どうなりますか」


 アリアが尋ねる。


「……条件が、書き直されます」


「また?」


「ええ。今度は――」


 一拍。


「あなたを“止める条件”になります」



◆13 夜明け前


 女性が去ったあと。


 部屋に、静けさが戻る。


 だが、もう“元の静けさ”ではない。


(……抜かなかった)


 それは、誇りではない。

 選択だ。


 そして、その選択は――

 誰かを救った。


 アリアは、窓の外を見た。


 夜が、少しずつ薄れている。


 次は、逃げられない。


 それでも――

 進む理由は、もう十分だった。



✦ 次回予告 ✦


北行編その36


『再定義 ― 刃を持つ者の条件』


・書き直される“合意”

・止めるためのルール

・そして――アリアが初めて“拒否権”を使う




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ