雪山の小さな冒険者たち ― 第1話「雪深き村の決意」
雪は音を吸い込んでいた。
旅路の先に現れたのは、白銀に埋もれた小さな村。屋根には厚く積もり、煙突から細い煙がまっすぐに立ち上っている。
アリアは外套を深く羽織り直し、村の門をくぐった。
(補給のために立ち寄るだけ……のつもりだったが)
広場には焦ったように声を張り上げる人々の姿があった。
「だめだ! 子どもだけで山に行くなんて!」
「待ちなさい、危険だ!」
雪道を駆けていく小さな影が二つ。
兄妹らしき子どもたち。背中には小さな背嚢を負っている。
「父さんを助けるんだ!」
「絶対に見つける!」
叫びながら、彼らは吹雪に溶けるように林道へ消えていった。
村人たちは慌てふためくが、雪道は危険すぎて追えない。
「吹雪が強くて大人は無理だ……」
「でも、あの子たちを放っておけるか!」
アリアは足を止め、深い息を吐いた。
(父が行方不明か……)
外套の裾から雪を払いつつ、真顔で言葉を落とす。
「私が追おう。慣れない者が行けば、命を落とす」
「騎士様……! ですが、あの山は……」
「吹雪の中を子どもが進むよりはましだ。――鐘を鳴らすより前に、手を打つ」
村人たちは顔を見合わせ、やがて誰かが深く頭を下げた。
「どうか……二人をお願いします」
*
林道はすでに雪に覆われていた。
足跡は小さく、まだ新しい。兄妹のものだろう。
アリアは槍を背に回し、歩幅を整えて追跡を始める。
(子どもは無鉄砲だ。父を思う気持ちは尊いが……雪山は情けを知らぬ)
吹雪が頬を刺し、耳がじんと痺れる。
遠くで風が木々を揺らし、軋む音が巨獣の呻きのように響いた。
アリアは心を鎮めた。
(“ほどほど”を忘れなければ、山は道を示す。子どもたちを見つけて、必ず連れ帰る)
雪の中に続く小さな足跡は、まだ途切れていない。
アリアは真顔のまま、白の帳の奥へと進んでいった。
(つづく)




