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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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雪嵐と孤立の寄宿舎(第2話)



鐘の音が遠くに響き、白百合女学院の夜は雪の気配で包まれていた。

修繕を終えた外壁を見回りながら、アリアは吐く息の白さを追い、耳を澄ませる。

――雪は深くなる。空気が告げていた。



翌朝。

寄宿舎の大広間では、生徒たちが暖炉を囲み、ぎゅうぎゅうに集まっていた。

薪は限られている。火に近い席を奪い合い、笑いながらも誰も譲らない。


「エリナ、あっちで掃除してなさいよ」

「暖炉の近くは“身分が上の子”が使うものだもの」


冷ややかな言葉を浴びても、エリナは背筋を伸ばし、黙って雑巾を手に取った。

その眼差しは屈せず、ただ誇りを保っている。


廊下でそれを見ていたアリアは眉を寄せた。

(子ども同士の小さな残酷さ……だが、彼女は揺らがない)


「……女騎士さん」

エリナがこちらを振り返り、小さく微笑んだ。

「私は大丈夫。誇りを失わなければ、寒さなんて怖くないから」


アリアは言葉を探し、結局ただ頷いた。



午後になると、雪雲が厚く垂れ込め、冷たい風が窓を叩いた。

生徒たちがざわつく中、院長が厳しい声で告げる。

「嵐だ。不要な外出は禁ずる。備蓄を切り詰めて今夜を凌ぐ」


やがて――。

どん、と鈍い音。

屋根の一部が雪の重みに耐えられず崩れ、廊下の天井から粉雪が舞い落ちた。

少女たちの悲鳴が響き、混乱が走る。


「静まれ!」

院長の叱責も届かない。

誰もが不安に駆られ、泣き出す子もいる。


その中で、ひとりの声が澄んで響いた。

「落ち着いて!」


エリナだった。

彼女は割れた窓から吹き込む雪風の前に立ち、怯える少女たちを振り返る。

「泣いても雪は止まらない。……でも、私たちにできることはあるわ。

 まず年下の子を暖炉の近くへ。毛布を分けて。

 大きい子は廊下を塞ぐ家具を運んで!」


少女たちは一瞬呆気にとられたが、すぐにその声に従い始めた。

泣きじゃくる子を抱えて移動する者、椅子を引きずる者。

冷たい院長さえも、その堂々たる姿に口をつぐんだ。


アリアは剣を腰に下げたまま、その光景を静かに見守った。

(――誇り。剣より強いものだ)



夜。

嵐は収まらない。

だが寄宿舎の大広間には、暖炉の火と少女たちの団結があった。

普段はエリナを遠ざけていた子どもたちも、彼女の傍に寄り添っている。


「エリナ……ありがとう」

小さな声が漏れた。

エリナは微笑み、揺れる炎を見つめた。


アリアは窓辺に立ち、外の雪に耳を澄ませる。

(この嵐に紛れて、あの“影”が動くかもしれない)


数日前から町で噂されていた“不審者”。

学院を狙って近づく者がいるとギルドの報告にあった。


剣の柄に指を添え、アリアは心に誓う。

(この気高さを汚す者があるなら、必ず退ける)


嵐の夜、学院は孤立していた。

だがその中心に、王女のように気高い少女が立っている。


(第3話「雪明りの誇り」へ続く)


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