表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

642/649

ルーン復讐編:内海&斉藤


勇者残党編 その1

――見知らぬ闇、見知らぬ街

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【一】


 草の擦れる音が、耳の奥でずっと鳴っている。


 内海は木の根を蹴飛ばしながら呻いた。


「……なぁ斉藤。

 ……ここ、どこなんだよ……マジで……」


 声は震えていなかった。震えてないように“作っていた”。


 だが斉藤は誤魔化さなかった。


「知らねぇよ。わかるかよ。

 ……あの森を抜けてからずっとおかしい。

 建物も光も……全部、俺らの世界じゃねぇ」


 闇は薄い。だが、月でも松明でもない“白い光”が遠くの道を照らしている。


 見たことのない素材で造られた建物。

 木でも石でも、鉄でもない。

 それでいて、屋根の上には獣の影が静かに座っている。


「……なぁ斉藤」


「なんだよ」


「……こんな、わけわかんねぇ場所で……

 俺ら、ほんとに迷ったんじゃねぇか?」


 斉藤は返事をしなかった。唾を飲みこんだだけだった。


 二人とも、同じことに気づいていた。


 ――ここは、自分たちが知る“世界の地図”の外だ。


 ――そして、天城がいない。


 その事実が、森の冷気よりずっと寒かった。


【二】


 沈黙を破ったのは、タツミだった。


 彼は木陰から現れると、低い声で言った。


「……お前ら、何やってる。声が響きすぎだ」


「タツミ!」

「よかった、生きてたのかよ……!」


 内海も斉藤も、思わず駆け寄った。


 だがタツミの顔は暗かった。

 レイナも隣にいたが、唇を噛みしめたまま何も言わなかった。


「……タツミ、何があった?

 天城は? 一緒じゃねぇのか?」


 しばらく沈黙があった。


 タツミはようやく口を開いた。


「……天城は……いない。

 俺たちとはぐれた。どこに消えたかも分からない」


「はぁ!? あいつがいない!?

 なんでだよ!!

 天城いなきゃ、ここでどうやって――」


「うるさい」


 タツミが低く言った。


「……お前ら、気づいてないのか。

 ここは、もう“俺たちの知る世界”じゃない」


 斉藤が眉をひそめた。


「どういう意味だよ」


「見りゃ分かるだろ。

 建物も、匂いも、空気も……

 全部が違う。

 魔物の気配はするが、俺らが知る魔物じゃない」


 レイナが震える声で続けた。


「……そして……誰かの“視線”を感じる。

 ずっと前からよ。

 森を抜けた直後から……

 ずっと、誰かに見られてる……」


 内海が吐き捨てる。


「ビビってんのかよ。

 天城がいねぇからそうなるんだろ」


「違う!!」


 レイナが叫んだ。


 彼女の声には、確かな恐怖が混ざっていた。


「“あれ”は……人間じゃない!!

 もっと……冷たくて、静かで……

 背中が勝手に凍るような……そんな“視線”よ!」


 斉藤が乾いた笑いを漏らす。


「怖がらせんなよ……

 何だよそれ……誰が見てるってんだ……」


 そのときだった。


【三】


 ――足音が、降ってきた。


 上でも後ろでもない。

 “空間そのもの”から歩いてくるような気配。


 そして、闇の奥から声がした。


「……うるさいな。

 お前たちの声が、よく通る」


 三人が一斉に振り返った。


 そこにいたのは――


 一人の青年だった。


 人間の形。

 だが、黒い影のような気配をまとっている。


 目は暗闇より深く、

 呼吸は風より静か。


 内海は喉を詰まらせた。


「な……なんだよ……てめぇ……

 味方か? 敵か? 何者なんだよ……!」


 青年は答えない。


 ただ、ゆっくりと歩み寄る。


 タツミが前に出た。


「……待て。

 お前は……この辺りの住民か?

 ここは何なんだ? どこの領域だ?」


 青年は、かすかに笑った。


「……知らなくていい。

 答える価値もない」


 斉藤が怒鳴る。


「ふざけんなよ!!

 答えろよ!!

 ここは何なんだ!!

 俺たちはどこに迷い込んだんだ!!」


 青年は足を止めた。


 そして、静かに告げる。


「ここは、

 “お前たちが捨ててきたものが集まる場所”だ」


「……は?」


「一つだけ言うなら――」


 彼は、わずかに顔を上げた。


「俺は“捨てられた側の人間”だ」


 二人は理解できなかった。


 タツミとレイナだけが、気づいてしまう。


 ――この男の声を、

   以前どこかで聞いたことがある。


 だが認められない。

 あり得ない。


 森で死んだはずの、

 弱い、価値のない、使い捨ての少年の声など――


「……まさか……」


 レイナが震えた。


 青年は名乗らない。


 ただ一言だけ告げる。


「名前は、お前たちに教えるほどのものじゃない」


 風が止まった。


 空気が凍った。


 そして。


「……じゃあ、始めようか」


 “刈る側”と“刈られる側”の距離が、消えた。


 斉藤が悲鳴のような声を上げる。


「や、やめろ!

 近づくな!!

 オレら勇者だぞ!!」


「……勇者?」


 青年――紫怨は、初めて笑った。


「弱い者を踏み台にするのが、か?」


 その瞬間、二人の喉が同時に鳴った。


 逃げられないと気づいたのだ。


 ここは、もう――

 彼らの知る“世界”ではない。


 そして目の前の男は、

 かつて彼らが殺した“雑魚”ではない。


 殺される側でもない。


 ただ静かに――

 “裁きを下す者”だった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

※次話:

勇者残党編 その2

〈内海・斉藤 VS 紫怨〉

――“逃げ道のない闇”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ