リリスブルクへ行ってみた編 エレベーターから見えるリリスブルクの花火
アリアンロッド中央塔のマンション。
夜の空気は静かで、どこか湿り気を含んでいた。
探索帰りのフェルナ班──フェルナ、シル、ミャラ、ハルド、グレイ、そしてヨハネスと以蔵。
全員が汗を流し食堂で飯を済ませ、あとは「今日は寝るだけ」だった。
ガラス張りのエレベーターに乗り込むと、機械音が軽く鳴り、ゆっくりと上昇を始める。
都市の光が下に広がり、遠くの山並みが黒い影のように浮かんでいた。
その時──
ドン。
小さく腹の底に響く音。
ミャラがぴょん、と飛び上がり、ガラスに顔を寄せた。
「にゃっ!? 今の何にゃ!? 敵襲!? 花火!? なにこれ!?」
夜の彼方。
濃い霧に包まれた森の奥、そのさらに奥。
高い山の中腹に、ぽつんと古びた寺院が立っている。
そして、その真上に──大輪の花火が咲いた。
紫、緑、白。
霧に溶けては、また浮かび上がる、不思議な光。
シルが目を細めた。
「……あれ、リリスブルクじゃない? 寺院の場所があの方向だし」
フェルナもガラス越しに眺めながら、小さく頷いた。
「ええ。珍しいわね、あの国が花火なんて……」
ヨハネスはひそひそ声で、相変わらずの調子で呟く。
「……ヒソヒソ……花火……敵意……なし……ヒソヒソ……」
「お前、花火から敵意を読み取るなや!」
以蔵がツッコミを入れ、エレベーター内が笑いに包まれた。
だが──
ミャラは笑っていなかった。
ただ見入っていた。
胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、尻尾をまっすぐに立てて──
「……行ってみたい」
ぽつり。
けれど、その声は確かだった。
「え?」
フェルナが振り向く。
「行ってみたいの。あそこ。
なんか……きれいで、怖くなくて、あったかい匂いがするんだにゃ……」
花火がまたひとつ開き、霧の向こうでふわりと揺れた。
シルは口元に微笑を浮かべ、
「行けるよ、ミャラ。……リリスの領だし、危険は少ない。
むしろ歓迎されると思う」
「本当!?」
ミャラの耳がピンと跳ね上がる。
「フェルナ、どう?」
「いいわよ。リリスには連絡を入れておく。
……花火祭りかしらね。あの国らしい、静かな祭りだと思うけど」
以蔵は腕を組んで笑った。
「ちょうど明日は探索なしやき。旅も悪うないで。
ミャラの頼みちゅうなら、わしも付き合うき」
ハルドもグレイも頷く。
ヨハネスは……小さく、ひそっと。
「……ヒソヒソ……行く……賛成……ヒソヒソ……」
「おいヨハネス、もっと堂々と言え!!」
エレベーターが最上階に到着する。
扉が開くと、ミャラはまだ霧の向こうの光を見つめていた。
「……あそこで、何があるんだろう……」
「行けばわかるわ」
フェルナがそっと肩に触れる。
「明日、出発しましょう。
──リリスブルクへ」
そう言った彼女の声が、
次の物語の扉を、静かに開いた。




