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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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- ヴェマ遺跡調査編- 第3話 ― 遺跡の罠



密林は湿り気を帯び、ひと歩ごとに靴底がぬかるみに沈んだ。

鳥の声と、見えぬ虫の羽音。

やがて木々が途切れ、苔むした石の階段が現れた。


「わぁ……小説で読んだとおり!」

ミルダは感嘆の声を上げ、ノートをぱらぱらとめくる。

「“古代の契りを守る石、真紅に輝く宝”――これです!」


「罠の匂いしかしない」

アリアは冷たく言い、鞘に手をかけた。


ロッドが胸を張る。「こういうのは俺の見せ場だ! 先に行く!」

「待ちなさい!」

制止の声も聞かず、ロッドは階段を駆け上がった。


ガコン!

天井から丸太が落下し、ロッドの頭上をかすめて地面に突き刺さる。

「ひいぃ!」

彼は尻餅をつき、震え上がった。


「ほら見なさい」

アリアは丸太の軌跡を冷静に観察する。

「古代の吊り梁がまだ生きている。……非致死で済んだのは幸運です」


「メモメモ……“女騎士、冷静な瞳で罠を看破す”」

ミルダはノートにさらさらと記す。

「書き留める前に警戒してください!」



石の回廊を進むと、今度は床に不自然な隙間があった。

アリアが短槍でつつくと――

ガシャッ!

矢が横一列に飛び出した。


「ひっ!」

ミルダはしゃがみ込み、ノートを抱きしめる。

ロッドは壁にへばりつき、青ざめていた。


「……まだ作動するなんて」

アリアはため息をつき、矢を一本拾い上げた。

「毒はない。だが当たれば十分危険」


そのとき。背後からかさりと音。

振り向けば――羽根帽子のボルガンたち盗賊団が入口に立っていた。


「はっはー! お前たちが踏み抜いた罠のおかげで安全に通れるぜ!」

ボルガンが胸を張る。

「おい、団長、まだ丸太ぶら下がってる」

キリルがぼそり。

「うっ、なら回り道だ! 作戦通り!」

「作戦なんてありましたっけ?」モーラがため息をつく。


アリアは槍を構えた。

「……やはり来ましたか」

「当然だ! お宝は俺たちがもらう!」


盗賊団はわいわい騒ぎながら奥へ。

その足が――沈んだ床石を踏み抜いた。


ゴゴゴゴ……!

天井の石が崩れ、砂と瓦礫が滝のように落ちる。

「ぎゃああ!」「髪が!」「ナイフが埋まった!」

盗賊団は慌てふためき、泥まみれになりながら撤退していった。


アリアは泥をかぶりつつも、冷ややかに言った。

「……敵も味方も、泥だらけですね」


ミルダは目を輝かせ、ノートに大きく記した。

「“女騎士、泥にまみれてなお美し”」

「やめてください」



奥へ進むと、石の扉の前に立った。

扉には古代文字と、宝石を象った浮き彫り。


「これが……伝説の間!」

ミルダが声を震わせる。

ロッドは肩を回し、「よし、今度こそ俺が開ける!」と拳を振り上げ――


「待て!」

アリアの叫びが響いた。


しかし遅く、ロッドの拳は石扉に当たった。

ゴウン……

重々しい音とともに扉がわずかに開く。


石の間の奥、淡い光が漏れていた。

その光の正体が――「真紅の宝石」なのかどうか。

アリアは額に手をやり、低くつぶやく。

「……ほどほどのつもりで開けてください」


(第4話「宝石の正体」へ続く)


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